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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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魂が貴方に

「アルトさん」


「……はい」


「そろそろ、お引き取りを」


「え……」


 思わずシルヴァンさんを見る。


「もう?」


 パメラ女王も少し残念そうに首を傾げた。


「ええ。昨日、ノエルより不審者の報告がありましたので」


「不審者?」


「本日はその件について、警備体制の見直し並びに巡回強化の打ち合わせがあります」


 不審者……。


 昨日。


 俺達が祭りを楽しんでいた時に、そんなことがあったのか。


「どんな人だったんですか?」


「俺も直接見たわけじゃねぇがな」


 扉の前に立っていたダリウスさんが腕を組む。


「なかなか良い殺気を放つ奴だったらしいぜ」


「良い殺気って……」


「まあ、怖い」


 パメラ女王が頬へ手を添える。


 すると。


「陛下なら大丈夫でしょう! ガハハハハ!」


 ダリウスさんが豪快に笑った。


「…………」


 その瞬間。


「……それは……どういう意味……?」


「…………」


 空気が。


 凍った。


 パメラ女王は笑っている。


 いつもの優しい笑顔。


 なのに。


 目が。


 全然、笑っていない。


「ひっ……」


 思わず声が漏れた。


 怖っ。


「……い、いえ!」


 さっきまで豪快に笑っていたダリウスさんの背筋が伸びる。


「私がお守りするという意味でして……!」


「あら」


 パメラ女王の声が。


 すっと、いつもの柔らかなものへ戻った。


「頼りにしてるわ」


「は、はい!」


「…………」


 なんだったんだ……。


 ダリウスさんを見る。


 額には。


 冷や汗が浮かんでいた。


「アルトさん」


「はい!」


 反射的に背筋が伸びる。


 シルヴァンさんが、そんな俺をじっと見ていた。


「世の中には――知らない方がいいこともあります」


「……は?」


「シルヴァン隊長」


「…………」


 パメラ女王の声。


 シルヴァンさんの動きが止まった。


 そして。


 片眼鏡の位置を直す。


「失礼します」


 それだけ言うと。


 足早に扉へ向かっていった。


「……逃げた?」


「まあ」


 パメラ女王が不思議そうに首を傾げる。


「どうしたのかしらね?」


「ガハハ……」


 ダリウスさんが笑う。


 けど。


 まだ冷や汗をかいている。


「…………」


 聞かないでおこう。


 なんとなく。


 俺にも、それだけは分かった。


「さ」


 パメラ女王が手を合わせる。


「シルヴァン君に怒られる前に、私達も戻りましょうか?」


「は、はい」


 最後にもう一度。


 俺は黒い大剣を振り返った。


「…………」


 やっぱり。


 何も分からない。


 名前も。


 誰が使っていたのかも。


 どうして、こんな気持ちになるのかも。


 それでも。


 離れるのが。


 少しだけ寂しかった。


     ◇ ◇ ◇


 白塔の廊下を戻っていく。


 来た時に見た鎧や武器。


 壁に並んだ、昔の騎士達の絵。


 その横を通り過ぎながら。


「それで、アルト君」


「はい?」


 隣を歩くパメラ女王が俺を見た。


「どうでした?」


「どう……ですか?」


「近くで宝剣を見て。何か分かった?」


「…………」


 分かったこと。


 何かを思い出したわけじゃない。


 あの剣を知っていたわけでもない。


 でも。


「……剣の後ろに」


「え?」


「誰か……見えた気がしました」


 パメラ女王が足を止める。


「あっ! あの!」


 慌てて手を振った。


「変な意味じゃなくて! 本当に一瞬だけで! 俺も見間違いかもしれないって思ってて……!」


「信じますよ?」


「……え?」


 思ってもいなかった返事だった。


「信じてくれるんですか?」


「ええ」


 パメラ女王は。


 当たり前のことみたいに微笑んだ。


「物には、持ち主の魂が宿ると言うでしょう?」


「……魂」


「ええ」


 パメラ女王が振り返る。


 俺達の後ろ。


 宝剣が眠る部屋の方を見つめた。


「あれほど長い時を越えて残った剣ですもの」


「…………」


「もしかしたら、その魂が――アルト君に会いに来たのかもしれないわね」


「俺に……」


 もう一度。


 あの黒い大剣を思い浮かべる。


 あの時。


 剣の向こうに見えた気がした誰か。


 顔も分からない。


 本当にそこにいたのかさえ、分からない。


 それでも。


「……それだったら」


 胸の奥が。


 少しだけ温かくなった。


「嬉しいな……」


 俺が。


 こんなにも会いたいと思っている誰か。


 その人も。


 俺に会いに来てくれたのなら。


 それは。


 なんだか、とても嬉しいことのような気がした。

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