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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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白塔の中

 白塔の中へ足を踏み入れる。


 昨日は外から眺めていただけだったけど。


 中は、思っていたよりずっと広かった。


 白い石で造られた壁。


 高い天井。


 長い廊下の両側には、古びた鎧や剣、槍、盾なんかがずらりと並べられている。


 どれも綺麗に磨かれているけど。


 よく見れば、刃こぼれしていたり。


 盾には大きな凹みが残っていたり。


 飾るために作られた物じゃない。


 誰かが実際に使っていた物なんだ。


「すげぇ……」


 思わず辺りを見回す。


 武器だけじゃない。


 壁には何枚もの大きな絵が掛けられていた。


 鎧を纏った騎士。


 槍を掲げる兵士。


 中には女性や、俺とそれほど歳が変わらなそうな人までいる。


「…………」


 その中の一枚で、足が止まった。


 描かれているのは、長身の男。


 全身を甲冑で覆い、兜を深く被っているせいで顔は見えない。


 手にしているのは、長い槍。


 穂先を天へ向け。


 ただ真っ直ぐに立っている。


「そちらの絵は、《極突》と呼ばれた槍使いの絵です」


「え?」


 いつの間にか、隣にシルヴァンさんがいた。


「何百年も前のものですから、触れないでください」


「触れませんよ!」


「それなら結構です」


「俺そんなに信用ないですか⁉︎」


 返事はない。


 もう次へ歩き始めてる。


「…………」


 やりづらいな、この人。


「あ……」


 今度は別の絵が目に入った。


 こっちは大柄な男だ。


 さっきの男と同じように全身を甲冑で覆い、兜によって顔は隠れている。


 ただ、その身体は明らかに大きい。


 手には、両手で握る巨大な剣。


 剣先を地面へ向け、柄頭へ両手を重ねて立っていた。


「そちらは《震攻》と呼ばれた騎士です」


 また横から声が飛んでくる。


「この国の歴史に名を残した騎士の一人ですね」


「へぇ……」


「…………」


 シルヴァンさんが俺を見る。


「貴方は絵に興味が?」


「いや、そういうわけでは……」


「でしょうね」


「え?」


「似合わない」


「どういう意味⁉︎」


 思わず振り返る。


「俺達、初対面ですよね⁉︎」


「少し声が大きいです」


「誰のせいですか!」


「アルト君」


「え?」


 振り返ると。


 パメラ女王が口元を押さえて、くすくすと笑っていた。


「もう……」


「ふふっ。ごめんなさい」


「…………」


「この塔には」


 シルヴァンさんの声が聞こえた。


 さっきまでとは少しだけ違う。


 俺はそっちを見る。


「幾万もの英霊が眠っています」


「…………」


 シルヴァンさんは、並んだ絵や武具を見渡した。


「騎士だけではありません。兵士も。名も残らなかった者も。この国のため、誰かのために戦った者達の記憶が、この塔には残されています」


 静かな声だった。


「彼ら彼女らは今、ここでようやく――安らかなる時を過ごしているのです」


「……はい」


 自然と声が小さくなった。


 さっきまでただの古い武器や絵だと思って見ていたものが。


 少しだけ違って見える。


「まぁ」


 後ろからダリウスさんの声。


「今のはシルヴァンも余計なことを言ったな」


「そうでしたか」


「似合わん、は余計だろう」


「なるほど」


 シルヴァンさんが俺を見る。


「大変申し訳ございません」


「……いや、もういいですよ」


「そうですか」


「…………」


 やりづらい……。


 なんか。


 初めてシオン隊長に会った時と、ちょっと雰囲気似てるな。


 まあ。


 シオン隊長とは仲良くなれたし。


 なんとかなるだろ。


「ほら、アルト君」


「ん?」


 パメラ女王が前を指差した。


「あの先よ」


「え!」


 指の先を見る。


 長い廊下の突き当たり。


 そこに。


 今まで通ってきた扉とは明らかに違う、大きな扉があった。


 分厚い金属で補強された両開きの扉。


 その前には四人の騎士が立っている。


 門番……だろうか。


 近づいていくと、そのうちの一人がシルヴァンさんに気づいた。


 四人が一斉に姿勢を正す。


「シルヴァン隊長、お疲れ様です!」


「お疲れ様です」


 シルヴァンさんが足を止める。


「…………」


 そして。


 一人の騎士を見る。


「半歩ほど立ち位置がずれています」


「は、はっ!」


 騎士が慌てて横へ動く。


 そこまで見るのか。


「お疲れ様。皆さん」


 パメラ女王が笑顔で声を掛けた。


「…………」


 四人の動きが止まった。


 本当に。


 ピタッと。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 そして。


「パ、パ、パメラ陛下⁉︎⁉︎」


 一人がひっくり返ったような声を上げた。


「な、何故こちらに⁉︎」


「うふふ」


 パメラ女王が俺の肩へ軽く手を添える。


「お客様を連れてきたの」


「…………」


 四人の視線が一斉に俺へ向いた。


「ど、どうも」


「あ、あぁ……どうも……」


 思わずお互いに頭を下げる。


「引き続き、よろしくお願いします」


「は、はっ!」


 シルヴァンさんはそれだけ言う。


「悪りぃな、急に」


 ダリウスさんも片手を上げた。


「い、いえ!」


「問題ありません!」


「今、お開けします!」


 二人の騎士が慌てて扉の左右へ回る。


 重い音を立てながら。


 巨大な扉が、ゆっくりと開いていく。


「…………」


 その向こう。


 薄暗い空間が姿を現した。


 俺は息を呑む。


「行きましょう、アルト君」


「……はい」


 パメラ女王に続き。


 俺達は扉の向こうへ入っていった。


 そして。


 再び扉が閉じる。


「…………」


「…………」


 残された四人の騎士は、しばらく動かなかった。


「……一体、何事だ?」


「さぁ……?」


 静かになった廊下。


 そこに並ぶ、幾千もの武具と肖像。


 その中には。


 顔さえ残されていない、二人の古い騎士の姿もあった。

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