女王のお茶会④
「ほんとですか⁉︎」
思わず身を乗り出した。
「ええ」
パメラ女王は、俺の勢いに驚くこともなく微笑んだ。
「ダリウス」
「はっ」
「今日の白塔の警備は、誰の隊だったかしら?」
「シルヴァンです」
「シルヴァン君か……」
パメラ女王は頬に手を添え、少しだけ考える。
「そうね……私が直接行きましょう」
「……それは」
ダリウスさんが僅かに渋い顔をする。
女王様が自分から出向く。
やっぱり、簡単なことじゃないんだろう。
だけど。
「だって、シルヴァン君はすこーしネチネチしているところがあるじゃない?」
「…………」
「私が直接言った方が早いわ」
「んー……!」
ダリウスさんが腕を組む。
しばらく考えた末。
「……確かに」
「でしょ?」
いいのか、それで。
「お客様に失礼をしちゃうかもしれないから」
パメラ女王は俺達へ顔を向ける。
「お仕事はとっても素晴らしいんだけど……少々、頭が硬いと言うか。一言多いと言うか……」
困ったように笑う。
「ねぇ、ダリウス?」
「まぁ、小言が多いやつってことですな」
「やっぱりそうよねぇ」
……どんな人なんだ。
会うのが少し怖くなってきたぞ。
「さて!」
ダリウスさんが大きな手を叩いた。
「お茶と菓子の準備ができましたぞ」
「あら、ありがとう」
いつの間にか、テーブルの上にはいくつものティーポットと菓子が並べられていた。
焼き菓子。
小さなケーキ。
果物を乗せたものまである。
「さぁ、皆さん。召し上がって!」
パメラ女王が嬉しそうに両手を広げた。
「お茶を飲んだら、アルト君をご案内するわ」
「はい!」
「アルト」
「何?」
ガオンが俺を見ていた。
「剣は逃げん」
「…………」
「だから今は落ち着け」
「…………」
そんなにソワソワしてたかな、俺。
椅子に座ってから、ずっと足が動いていたことに気づく。
「……分かった」
息を吐いて。
今度こそ、ちゃんと椅子に座る。
「パメラ様!」
「はぁい?」
「いただきます!」
パメラ女王は、にっこり笑った。
「召し上がれ!」
俺も目の前のお茶へ手を伸ばす。
その隣では。
「……いい香りですね」
ユノがカップを鼻元へ近づけていた。
香りを確かめるように、軽く揺らす。
「これ……《セレナ茶》ですか?」
「あら」
パメラ女王が目を丸くした。
「貴方、お茶に詳しいのね?」
「少しだけ」
「そういえば、まだお名前を聞いていなかったわね」
「あぁ、失礼しました」
ユノがカップを置く。
「ユノ・フェルメルと申します」
「フェルメル?」
パメラ女王が僅かに目を見開いた。
そして。
「なるほど……詳しいわけね」
「…………」
「…………」
「…………?」
俺とログ、レテ、フィリアで顔を見合わせる。
なんだ?
フェルメルだと、お茶に詳しいのか?
ユノを見る。
「…………」
本人はいつもの笑顔でお茶を飲んでいた。
なんか隠しているのか?こいつ。
「これ美味しい!」
突然。
ヒルトの声が響いた。
「ヒルト、落ち着いて!」
フィリアが慌てて止める。
「だってこれ、すごいよ! こんなに美味しいの食べたことない!」
ヒルトの手には、小さな焼き菓子。
もう一つ食べている。
「ふふふ」
パメラ女王が嬉しそうに笑った。
「そのお菓子はね」
「はい!」
「ダリウスが焼いているのよ?」
「…………」
ヒルトの動きが止まった。
俺達も。
ゆっくり。
ダリウスさんを見る。
「…………」
でかい。
どう見てもでかい。
俺の腕より太そうな腕。
分厚い胸板。
重そうな鎧。
《破城》なんて呼ばれている騎士隊長。
「…………これを?」
ヒルトが焼き菓子を見る。
「うむ!」
ダリウスさんが胸を張った。
「菓子作りは趣味でな!」
「すごい……」
「おかわりもあるぞ!」
「是非!」
ヒルトが即答する。
「おお! たくさん食え!」
「はい!」
「ヒルト」
「ん?」
「口元拭けよ!」
「え?」
頬に菓子の欠片をつけたまま。
ヒルトはもう次の焼き菓子へ手を伸ばしていた。




