女王のお茶会②
ガオンは席に着く前に、改めて俺達へ手を向けた。
「パメラ様。こちらの者達はガイストの精霊術師……そして、俺の友人達です」
「あら」
「今回のルミナスで起きたクーデターも、彼らのおかげで収まりました」
パメラ女王の表情が、僅かに曇った。
「……クーデター。大変だったみたいね」
ティーカップを静かに置く。
「助けを出せず、本当にごめんなさい」
「いえ」
ガオンは首を横に振った。
「国内にいた俺達でさえ、事が起こるまで気がつきませんでした。パメラ様が気に病まれることではありません」
「そう……」
パメラ女王は少しだけ目を伏せる。
けれど、すぐに顔を上げた。
「スカー王は? ナーラちゃんと……ジルちゃんだったかしら? お元気?」
「はい。おかげ様で」
「そう……本当に良かった」
その声からは、本当に安心しているのが伝わってきた。
それから。
パメラ女王の視線が俺達へ向く。
「ガオちゃんのお友達の皆さん」
柔らかく微笑んだ。
「ようこそ、スパーナへ。王国祭へ足を運んでくださったことも嬉しく思います」
「い、いえ!」
なんだか俺まで背筋が伸びる。
「皆さんは、どちらの隊の精霊術師なの?」
「アーヴェル・クロイツ隊です」
ログが答えた。
その瞬間。
「…………」
パメラ女王の後ろに立っていたダリウスさんの眉が、ぴくりと動いた。
「まぁ」
パメラ女王が微笑む。
「《鉄城》のアーヴェル……。いい人の元についたようね」
「…………」
「もっとも、ガイストには素晴らしい隊長の方々がたくさんいらっしゃいますけどね」
「は、はい」
……なんだ?
ダリウスさん。
今、ちょっと反応しなかったか?
「あらやだ!」
突然、パメラ女王が手を合わせた。
「私ったら、立たせたまま話し込んじゃって!」
「あ、いえ」
「ほらほら、お掛けになって?」
「では……失礼します」
レテに続いて、俺達もそれぞれ椅子へ腰を下ろす。
俺が座ったところで。
パメラ女王が、じーっとフィリアとレテを見ていることに気づいた。
「…………?」
「どうされました?」
レテが首を傾げる。
「それで……」
パメラ女王が二人を交互に見た。
「どっちがガオちゃんの彼女なの?」
「「え?」」
「⁉︎」
ガオンが勢いよく顔を上げた。
「両方とも違います!」
「あらま!」
パメラ女王は口元に手を当てる。
「ごめんなさいね。お二人ともとっても可愛いから、てっきり……」
「い、いえ!」
「おばあちゃんの独り言だと思ってね?」
「…………」
フィリアがパメラ女王を見る。
「……かわいい」
「ええ……とても……」
レテも小さく頷いた。
「え?」
パメラ女王が目を丸くする。
フィリアは少し迷ったあと。
「女王様にこんなこと言うと、大ッッ変失礼かもしれませんが……」
「ええ?」
「なんか、とっても可愛らしいです」
「まぁ!」
「仕草とか、言葉選びとか……」
レテも微笑む。
「とても可愛らしい方だな、と」
「あらあらまぁ!」
パメラ女王の顔が、ぱっと明るくなった。
「聞いた、ダリウス⁉︎」
「えぇ、もちろん」
「可愛いなんて言われたの、いつぶりかしらねぇ……」
嬉しそうに頬へ手を添える。
「あの人が亡くなる前も、そんなこと言ってくれなかったから……もう大昔ね」
「国王様は恥ずかしがり屋でしたからなぁ!」
ダリウスさんが豪快に笑った。
「あーっはっはっは!」
「もう。そういうことにしておきましょうか」
パメラ女王も楽しそうに笑う。
「…………」
昨日。
白塔の前で国中の人達を前にしていた女王様と。
本当に同じ人なんだよな……?
「パメラ様」
ガオンが静かに声をかけた。
「あー、ごめんなさい。私ったら」
パメラ女王は姿勢を戻す。
「ダリウス。皆さんにお茶とお菓子をお願いできる?」
「承知しました」
「それと……」
パメラ女王の視線が。
俺へ向いた。
「アルト君……だったわね?」
「はい!」
「昨日の剣のことを聞きたいって言ってたわね?」
「はい」
「宝剣のことかしら?」
「はい!」
今度は、はっきり答えた。
すると。
パメラ女王は俺の顔をじっと見つめた。
「…………」
「?」
「貴方……」
少しだけ首を傾げる。
「昨日、宝剣を見て泣いていなかった?」
「…………」
みんなの視線が俺に集まった。
「あはは……」
頭を掻く。
「見られてましたか……」
「ええ」
パメラ女王は笑わなかった。
責めるでもなく。
ただ、静かに俺を見る。
「何を思ったの?」
「…………」
何を。
そう聞かれると。
やっぱり上手く答えられない。
「……うまく言えないけど」
昨日の光景を思い出す。
白い塔。
大勢の人。
歓声。
そして。
その真ん中にあった、黒い大剣。
「宝剣を見た時に……」
胸に手を当てる。
「すごく、懐かしくなったんです」
パメラ女王の瞳が、僅かに細くなった。
「俺、あの剣を見たことなんてないはずなのに」
あの時と同じ。
ヴォルグでエーテルと出会った時。
初めて会ったはずなのに。
ずっと昔から知っていたような。
「懐かしくて……でも、すごく寂しくて」
胸の奥が。
昨日と同じように、少しだけ痛んだ。
「それで……」
言葉にするのが恥ずかしくて。
一度、俯く。
「……会いたいって思ったんです」
「会いたい?」
「はい」
顔を上げる。
「あの剣を使ってた人に」
「…………」
「どんな人だったのかも知らないし。なんで会いたいのかも、自分でも分かりません」
でも。
あの時。
確かにそう思った。
「ただ……」
俺はパメラ女王を真っ直ぐ見た。
「会いたいって」
「…………」
中庭を吹き抜けた風が。
テーブルの上の花を、静かに揺らした。
パメラ女王は何も言わない。
その後ろでは。
ダリウスさんも、いつの間にか笑うのをやめていた。
しばらくして。
パメラ女王が静かに口を開いた。
「……そう」
その声は。
さっきまでよりも、ほんの少しだけ低かった。




