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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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女王のお茶会

 開け放たれた扉を抜けた瞬間。


「……わぁ」


 フィリアが小さく声を漏らした。


「……綺麗」


 隣ではレテも目を細めている。


 王城の中庭。


 そこは、城の中にあるとは思えないほど緑に溢れていた。


 柔らかな芝の上には色とりどりの花が咲き、白や黄色の蝶がその間をゆっくりと舞っている。


 大きな木々は枝いっぱいに葉を茂らせ、その隙間から差し込む陽の光が地面に揺れていた。


 枝の上では小鳥達が囀り。


 幹を駆け上がったリスが、俺達を警戒するように顔を覗かせている。


「すごいとこですね……」


 ユノが辺りを見回す。


「なんか……空気がうまい気がする」


 ログが大きく息を吸った。


「分かる。確かに深呼吸したくなるね」


 ヒルトもそれに続く。


 俺も思い切り息を吸って――。


「…………」


 中庭の中央へ目を向けた。


 花と緑に囲まれた場所に。


 白い鉄で組まれた、小さな屋根付きの庭園があった。


 細い鉄は蔓のように複雑な曲線を描き、その一部には本物の蔓草まで絡みついている。


 その下には白いテーブルと椅子。


 そして。


 その傍らに、一人の巨漢が立っていた。


 赤茶色の髪。


 大きな身体を包む重厚な鎧。


 立っているだけなのに、周囲の穏やかな空気から一人だけ浮いて見える。


 ――第三騎士隊隊長。


 《破城》ダリウス・ハイゼン。


 その巨体の横で。


 一人の女性が、優雅にティーカップを傾けていた。


「…………」


 昨日とは違う。


 豪華な衣装も。


 民衆を圧倒した、あの雰囲気もない。


 けれど。


 見間違えるはずがなかった。


 スパーナ女王。


 ――パメラ・エルディア。


「…………」


 俺はゆっくりと、そちらへ歩き出した。


「あ、おい!」


 後ろからガオンの声が飛んでくる。


 その声に気づいたのか。


 パメラ女王が顔を上げた。


 俺を見る。


 そして。


 にっこりと微笑んだ。


「あら」


 優しい声だった。


「貴方……ガオちゃんのお友達ね!」


「…………」


 ん?


「ガ、ガオちゃん?」


 思わず後ろを見る。


「…………」


 ガオンがものすごく嫌そうな顔をしていた。


「あぁ、ごめんなさい」


 パメラ女王が口元に手を添える。


「私ったら。久しぶりに会えて嬉しくて……」


 くすりと笑い。


「ごめんなさいね?」


「い、いえ!」


 慌てて姿勢を正す。


「えっと……アルトと言います!」


「ええ」


「今日は突然の訪問、申し訳ございません!」


 頭を下げる。


「ガオンが我儘言ったんじゃなくて! 俺の我儘なんです!」


「あら」


「だから、ガオンは悪くなくて! 俺が昨日の剣のことを聞きたいって言って――」


「アルト」


「ん?」


 いつの間にか後ろまで来ていたガオンが、俺の肩を掴んだ。


「……一度落ち着け」


「お、おう」


 ガオンは俺の横を通り過ぎ。


 パメラ女王の前へ進む。


 そして。


 すっと片膝をついた。


「パメラ様」


 さっきまでとはまるで違う。


 静かで。


 綺麗な所作だった。


「お久しぶりです」


「ええ」


 パメラ女王が微笑む。


「久しぶりね、ガオちゃん」


「…………」


 ガオンの眉が一瞬だけ動いた。


 でも。


 何も言わない。


「ふふふ」


 パメラ女王は楽しそうに笑った。


「昨日、ガオちゃんを見つけた時は驚いたわ! 何も聞いていなかったんですもの」


「今回は私用でしたので……」


「しかも、お友達までこんなに連れて!」


 パメラ女王の視線が俺達へ向く。


 レテ達が慌てて姿勢を正した。


 けれど。


「ほら、皆さん」


 パメラ女王は白い椅子を示した。


「お座りになって?」


「え?」


「お茶のお好みは? お菓子は好き?」


「え、えっと……」


 レテまで戸惑っている。


「あ、あの、パメラ様」


 ガオンが口を挟む。


「ふふふ。今日は無礼講よ!」


「…………」


「せっかくガオちゃんがお友達を連れてきてくれたんですもの。楽しまなくちゃ!」


 そう言って。


 パメラ女王は楽しそうに笑った。


「…………」


 ガオンの肩から。


 目に見えて力が抜けた。


「……よかった」


「ん?」


「なんでもない」


 小さく呟きながら立ち上がる。


 その顔は。


 さっきまでより、明らかにほっとしていた。


 ……そんなに怖かったのか?


「さぁ」


 パメラ女王が、もう一度椅子を勧める。


「まずはお茶にしましょう」


 花に囲まれた中庭で。


 俺達とスパーナ女王の、少し変わった茶会が始まった。

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