門のその先
セリオさんと別れてから。
俺達は再び、王城へ向かって歩き始めた。
緩やかな坂道を上っていくにつれ、周囲の景色も少しずつ変わっていく。
賑やかな露店は減り。
代わりに、白い石造りの大きな建物が増えていった。
道沿いには剣を携えた騎士の姿も多い。
時折、馬に乗った騎士が石畳を駆けていく。
「おぉ……」
そして。
坂を上り切った先。
ついに王城の全貌が見えた。
「でっけぇ……」
高い城壁。
その向こうには、いくつもの尖塔が空へ伸びている。
真っ白というより、長い年月を重ねた淡い灰白色。
ところどころに刻まれた傷や補修跡さえ、そのまま城の歴史になっているようだった。
正面には巨大な城門。
その左右にはスパーナの紋章が刻まれた旗が揺れている。
「ここが……スパーナの王城か」
「行くぞ」
ガオンを先頭に、俺達は城門へ近づいていく。
だが。
「――止まれ」
門の前に立っていた二人の騎士が、俺達の前へ出た。
「王城に何用だ」
「パメラ様に取り次ぎを頼みたい」
ガオンが答える。
騎士の眉が僅かに動いた。
「女王陛下に?」
「あぁ」
「名を」
ガオンが姿勢を正す。
さっきまで俺達と騒いでいた時とは違う。
背筋を伸ばし。
静かに騎士を見据えた。
「ルミナスのレオニス王家第一王子――ガオン・レオニスだ」
「…………」
騎士達の表情が変わった。
けれど。
驚いたのは一瞬だった。
「……そのような話は聞いていない」
「今回は公式な訪問ではない。私用でスパーナを訪れている」
「証明できるものは?」
「今は持っていない」
ガオンが答えた瞬間。
騎士達の空気が張り詰めた。
ガシャンッ!
二本の槍が交差し、俺達の行く手を塞ぐ。
「下がれ」
「…………」
「ルミナスの王族が来訪するなど、こちらは一切聞いていない」
「待て。俺は――」
「それ以上近づくな」
槍先がガオンへ向けられた。
「…………」
まずい。
これは。
「これはマズいんじゃ……」
ユノが小声で呟いた。
うん。
俺もそう思う。
「ご、ごめんなさい!」
思わず頭を下げた。
「帰ります!」
「アルト⁉︎」
「いいって!」
ガオンを振り返る。
「非常識なのはこっちだし!」
いきなり来て。
女王様に会わせてください。
考えてみれば、とんでもない話だ。
「でもよ――」
「俺は話を聞きたいだけだし! こんなことでガオンまで怒られたら嫌だ!」
「しかし!」
「帰ろう!」
俺はみんなへ声をかけ、その場を離れようとする。
その時。
「――何の騒ぎだ?」
城門の奥から声がした。
門番達が一斉に振り返る。
「隊長!」
こちらへ歩いてきたのは。
銀色の髪を後ろで束ねた、一人の女性だった。
腰には細身の剣。
装飾の少ない白銀の鎧。
静かな足取りなのに、門番達の背筋が一瞬で伸びる。
「何があった」
「はっ! こちらの者が、ルミナス王国の王子を名乗っておりまして、女王陛下に会わせろと。しかし、来訪の連絡は一切――」
「ルミナス?」
女性の視線がこちらへ向く。
そして。
ガオンを見た。
「…………」
「…………」
数秒。
「……ガオン・レオニス殿下か」
「俺を知っているのか?」
「顔だけは」
女性は短く答える。
「第二騎士隊隊長、リゼット・ヴァイスベルだ」
「《銀閃》……」
ガオンが小さく呟いた。
リゼットさんは門番達へ向き直る。
「槍を下ろせ。この方はガオン・レオニス殿下で間違いない」
「はっ!」
二人がすぐに槍を引く。
「ただし」
リゼットさんの視線が、今度は俺達全員へ向いた。
「身元を保証することと、陛下への面会を許可することは別だ」
「分かっている」
ガオンが頷く。
「突然押しかけたのはこちらだ。取り次いでもらえるだけで構わない」
「……承知した」
リゼットさんは僅かに考えると。
「私から話を通そう」
「助かる」
「だが、期待はするな。昨日は《継剣の儀》があったばかりだ。陛下にも予定がある」
「もちろんだ」
リゼットさんが門番の一人へ目を向ける。
「客人として中へ。待合室に案内しろ」
「はっ!」
◇ ◇ ◇
「…………」
落ち着かない。
ものすごく落ち着かない。
通された部屋は広く。
壁には歴代の騎士らしき肖像画。
磨かれた机。
柔らかそうな長椅子。
窓からは王都エルディアの街並みまで見渡せる。
……なのに。
「アルト」
「ん?」
「さっきから足動かしすぎ」
フィリアに言われて、俺は自分の足を見る。
貧乏揺すりしていた。
「だ、だってさ……」
「落ち着いてください」
レテが苦笑する。
「まだ会えると決まったわけではありませんから」
「それはそれで緊張するんだよ!」
「どっちにしても緊張してんじゃん」
「うっ……」
ヒルトに言われてしまった。
その時。
コンコン。
扉が叩かれた。
「!」
全員の視線が向く。
扉が開き。
先ほどのリゼットさんが姿を見せた。
「待たせたな」
その表情は、さっきとほとんど変わらない。
けれど。
「陛下がお会いになるそうだ」
「…………」
「…………え?」
俺は思わず聞き返した。
「女王陛下がお前達との面会を許可された」
「おおっ!」
「ただし」
リゼットさんの鋭い視線が飛んでくる。
俺は反射的に背筋を伸ばした。
「謁見ではない。陛下のご厚意による私的な面会だ。くれぐれも失礼のないように」
「は、はい!」
ついに。
昨日、あの大剣を掲げていた人。
スパーナ女王――パメラ・エルディア。
その人から。
あの剣の話を聞ける。




