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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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王城へ

 朝食を終えた俺達は、宿を出て王城へ向かうことになった。


 外へ出た瞬間。


 朝の冷たい空気と一緒に、街の賑わいが押し寄せてくる。


 昨日の《継剣の儀》が終わっても、王都エルディアはまだ祭りの中にいた。


 白い石造りの建物には色とりどりの旗が渡され、窓辺には花が飾られている。


 石畳の大通りには朝早くから露店が並び、焼いた肉やパンの香ばしい匂いが漂っていた。


「おっ」


 思わず足が止まる。


 店先では、職人らしい男が小さな木剣をずらりと並べていた。


 その隣では、昨日見た《継剣の儀》を真似しているのか。


 子供達が木剣や棒を掲げて走り回っている。


「意志よー!」


「えいえんなれー!」


「ははっ」


 昨日の掛け声だ。


 フィリアも楽しそうに笑う。


「もう真似してる」


「子供は覚えるの早いですからね」


 レテも微笑んでいた。


 さらに進む。


 王城へ近づくにつれ、道幅は少しずつ広くなっていった。


 白い建物の間から見えていた城も、歩くたびに大きくなっていく。


 派手さはない。


 けれど高い城壁といくつもの尖塔。


 長い年月をそのまま刻んだような白い石壁には、ところどころ補修された跡まで残っている。


 古い。


 でも、それを隠そうとはしていない。


 そんな城だった。


「なんかスパーナって、どこ見ても古いよな」


「歴史を残すことを大切にしている国ですからね」


 レテが答える。


「壊して新しくするのではなく、直して使う建物も多いそうですよ」


「へぇー」


 俺は歩きながら、もう一度城を見上げた。


 昨日の黒い大剣も。


 千年前から残されてきたものだ。


 あの剣について。


 何か分かるだろうか。


「…………」


 胸の奥が、ほんの少しだけざわついた。


 その時だった。


「……あ?」


 前から歩いてきた男が、俺達を見て足を止めた。


「あ」


 セリオさんだ。


「…………」


 目が合った。


 瞬間。


「…………チッ」


「え?」


 ものすごく睨まれた。


 なんでだよ⁉︎


 俺なんかしたか⁉︎


 セリオさんの視線が、俺の頭から足元までをじろりと舐める。


 その眉間に、どんどん皺が寄っていく。


「…………」


 けれど。


 何かを思い出したように、ふっと息を吐いた。


『――レテ殿が悲しむことはしたくありません』


 昨夜のリオネルの言葉が、頭を過った。


「……チッ」


 もう一度、小さく舌打ち。


 今度は俺の隣にいるレテを見る。


「?」


 レテが首を傾げた。


「…………はぁ」


「な、なんですか?」


「なんでもねぇよ」


 セリオさんは面倒臭そうに頭を掻いた。


「お前ら、どこ行くんだ?」


「王城」


 ログが答える。


「女王様に会いに行くの!」


 フィリアが続ける。


「…………はぁ?」


 セリオさんの顔が露骨に歪んだ。


「なんで?」


「宝剣のことを聞きに」


 ヒルトが答える。


「宝剣?」


「あぁ」


「なんでだ?」


「…………」


 俺は答えに詰まった。


 昨日、剣を見ただけで泣き出しました。


 使い手に会いたくなりました。


 だから女王様に話を聞きに行きます。


 …………。


 改めて考えると。


 なんて説明すればいいんだ?


 俺が黙っていると。


 レテがちらりとこちらを見た。


 そして一歩前へ出る。


「社会勉強です!」


「…………」


 セリオさんがレテを見る。


「…………」


 レテも真っ直ぐ見返す。


「…………」


「…………」


「社会勉強で一国の女王に会えるかよ」


「うっ……」


 レテが詰まった。


 やっぱり無理があったらしい。


「そのための俺だ」


 今度はガオンが前へ出た。


「…………」


 セリオさんがガオンを見る。


 それから俺達を順番に眺めて。


「ふーん……」


 どうでもよくなったのか、肩を竦めた。


「まぁいいや。失礼のないようにな」


「はい」


「特にお前」


 びしっ。


 指が俺へ向けられた。


「……わかってるよ」


「…………チッ」


「なんだよ」


「やっぱムカつくぜ」


「?」


 なんで⁉︎


 俺、本当に何もしてないぞ?


「こっちの話だ」


 セリオさんは俺から顔を逸らす。


「じゃあな。こっちは忙しいんだ」


 そう言って、俺達の横を通り過ぎていく。


「…………」


 ログがその背中を見た。


「……あんたから絡んできたろ」


「あ?」


 セリオさんが振り返る。


「なんだ?」


「…………」


 ログは一瞬だけ黙り。


「いいえ。なんでも」


「なら呼び止めんな」


「呼び止めてねぇよ……」


「なんか言ったか?」


「なんでもないっす」


 セリオさんは怪訝そうな顔をしたあと。


「……はぁ」


 大きくため息をつき、俺達とは反対方向へ歩いていった。


「…………」


 その背中が人混みの中へ消えていく。


「相変わらず怖いですねぇ」


 ユノがぽつりと呟いた。


「でも、前よりマシかも」


「どこがだよ」


 俺は思わずそう返した。


 会った瞬間から睨まれたんだけど。


 ……まあ。


 前みたいにいきなり殴りかかってこないだけ、マシなのか?


「ほら、行くぞ」


 ガオンの声に、俺達は再び歩き出す。


 白い街並みの向こう。


 王都を見下ろすように建つ、スパーナ王城。


 俺はそこを見上げながら。


 昨日見た、あの黒い大剣を思い浮かべていた。

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