今日どーする?
宿へ戻ると。
食堂には、すでに朝食の匂いが広がっていた。
焼きたてのパンに、卵料理。
温かいスープと、薄く切られた肉。
日課を終えたばかりの俺には、どれもこれも輝いて見える。
「いただきます!」
「お前、本当に朝から元気だな……」
ログが眠そうな顔でパンを千切る。
向かいではユノが、何事もなかったかのようにスープを飲んでいた。
……こいつの寝相のせいで、ログはほとんど眠れなかったらしい。
しばらくして。
フィリアがパンを頬張りながら、みんなを見回した。
「今日どーする?」
「あぁ、それなら」
ヒルトがカップを置く。
「ガオンが女王様に会えるようにしてくれるらしいよ」
「おい!」
隣に座っていたガオンが、すぐさま声を上げた。
「話をつけるだけだ! 会えると決まったわけではない!」
「えっ⁉︎」
レテが驚いて俺を見る。
「なんでですか⁉︎」
「アルトが昨日の件でな」
ログがそう答えた瞬間。
レテの動きが止まった。
「…………」
昨日。
《継剣の儀》で見た、あの黒い大剣。
俺はあれを見た瞬間、訳も分からず涙が止まらなくなった。
そして――。
「…………」
なぜかレテの顔が少し赤くなる。
「レテ?」
「な、なんでもありません!」
慌ててスープへ視線を落とした。
……なんだ?
熱かったのか?
「今更ながら……」
ユノがパンを片手に呟く。
「結構、大事ですよね?」
「今更か……」
ガオンが呆れたように返した。
「…………ごめん」
俺は小さく頭を下げる。
せっかくの休暇なのに。
俺のわがままで、ガオンにまで迷惑をかけている。
「だから!」
ガオンが眉間に皺を寄せた。
「分かったら、そんな顔するな‼︎」
「お、おう」
「俺がやると言ったんだ。お前が気にすることじゃない」
そう言ってから、ガオンはパンを一口齧る。
「ただ、本当に会えるかは分からんぞ? パメラ様にも予定があるからな」
「うん。それでもありがとな、ガオン」
「……礼を言うのは会えてからにしろ」
そう言いながら。
ガオンは少しだけ照れ臭そうに顔を逸らした。
「そーいえばさ」
フィリアが首を傾げる。
「ガオンって、なんで女王様苦手なの?」
「…………」
「昨日見た感じ、すっごい優しそうだったよ?」
ガオンの手が止まった。
「……優しい」
「うん」
「確かに優しい」
「じゃあなんで?」
「だが――」
ガオンの表情が、僅かに引きつる。
「とても厳しい」
「というと?」
ヒルトが尋ねると。
ガオンは遠い目をした。
「俺は……礼儀や作法は、全てあの人に教わった」
「…………」
ユノがガオンを見る。
そして。
「礼儀?」
「あぁ」
「ガオンさんに……礼儀……?」
「お前、どういう意味だ?」
ガオンの眉がぴくりと動いた。
「いえ。ガオンさんと礼儀という言葉が、あまりにも遠いところにいる気がして」
「喧嘩なら買うぞ?」
「褒めてます」
「どこがだ‼︎」
「いや」
ログが眠そうに欠伸をしながら口を挟んだ。
「こいつ、目上の人間には礼儀正しいぞ?」
「え?」
「うちの親とかにも普通に礼儀正しいし」
「へー」
フィリアが珍しいものを見るようにガオンを眺める。
「…………なんだ、その目は」
「いやぁ?」
「言いたいことがあるなら言え」
「ちゃんと王子様なんだなーって」
「俺をなんだと思ってたんだ⁉︎」
「ガオン」
「名前を聞いてるんじゃない‼︎」
朝の食堂に、ガオンの声が響く。
昨日までとは違う一日が。
そんな賑やかな朝から始まった。




