旅先の朝
◇ ◇ ◇
翌朝。
男子部屋。
「…………」
ログは、散らかった部屋を見回した。
床には枕。
布団もぐちゃぐちゃ。
そして。
「……結局、五人とも俺の部屋で寝やがった」
「んん〜……!」
ヒルトが身体を起こし、大きく伸びをする。
「うーん! おはよう、ログ!」
「おう……」
「ふぁ……」
その隣では。
ユノが欠伸をしながら、ぼーっと宙を見つめていた。
「…………」
「ユノ?」
「…………」
「起きてる?」
「……たぶん」
「たぶんなんだ」
ヒルトが笑う。
「あれ?」
部屋を見回す。
「アルトとガオンは?」
「アルトは日課しに行った」
ログが乱れた布団を直しながら答える。
「ガオンはそれについてった」
「ログは行かなかったの?」
「…………」
ログの動きが止まった。
ゆっくり。
ユノを見る。
「この糸目の寝相が悪すぎて眠れなかったんだよ‼︎」
「ふぁ……」
「聞けよ‼︎」
◇ ◇ ◇
女子部屋。
「……ん」
瞼の向こうが明るい。
カーテンの隙間から差し込んだ朝日が、レテの頬を照らしていた。
「…………」
ゆっくりと目を開く。
見慣れない天井。
一瞬だけ考えて――。
「……旅行中でした」
そうだった。
ここはスパーナ。
「…………」
まだ少し眠い。
「もう少し眠ろうかな……」
「…………ん?」
隣のベッドから。
もぞ。
もぞもぞ。
布団が動いている。
「…………」
レテがそちらを見る。
「ぴー……ぴー……」
「…………」
フィリアが。
鼻提灯を膨らませながら、気持ちよさそうに眠っていた。
「…………ふふっ」
昨夜のことを思い出す。
二人で話した女子会。
最初は、自分ばかり恥ずかしい話をさせられて。
仕返しのつもりで、フィリアの話を聞いただけだった。
けれど――。
ヒルトへの想いを聞いた時は、本当に驚いた。
同時に。
嬉しかった。
フィリアが。
自分にその気持ちを話してくれたことが。
とても嬉しかった。
だから。
応援したいと思った。
いつか、その想いが届いてほしい。
(昨日のフィリア……可愛かったな)
「くすっ」
また。
鼻提灯が膨らむ。
「ぴー……」
「風邪ひきますよ」
「んん……」
フィリアが布団の中でもぞもぞと動く。
けれど。
起きる気配はない。
「…………」
レテは再び布団へ潜った。
「……ちょっとだけ寝よっと」
目を閉じる。
朝は。
もう少しだけ先でいい。
◇ ◇ ◇
《追憶の白塔》前広場。
「九百九十七……!」
地面へ身体を沈める。
「九百九十八……!」
上げる。
「九百九十九……!」
もう一度。
「千!」
勢いよく立ち上がった。
「よし!」
「ふぅ……」
隣でガオンも息を吐く。
「終わったな」
「ん〜〜!」
思い切り伸びをする。
朝の空気が気持ちいい。
「スパーナでやる日課もいいな!」
「…………」
「なんか変わる!」
「変わるか?」
「変わるよ!」
「…………」
ガオンが俺を見る。
(変わらんだろ)
「戻るか?」
「そうだなー。腹も減ったし……」
その時。
「ん?」
前方から。
一人の少年が走ってきた。
金髪。
小柄な身体。
俺たちよりもずっと若く見える。
「…………」
少年が一瞬だけ。
こっちを見る。
目が合った。
でも。
それだけ。
そのまま俺たちの横を走り抜けていった。
「…………」
速いな。
「あの子も日課かな?」
「ん?」
ガオンが振り返る。
けれど少年は、もう遠くまで走っている。
「知らん」
「俺たちも負けらんないな!」
「おい」
「あと一周!」
「やらん!」
「えー!」
「腹が減った!」
「…………」
そういえば。
俺も腹が減っていた。
「……そうだった!」
「忘れるな」
「そーいや、ガオン」
「ん?」
「今日、よろしくな」
「…………」
ガオンが止まった。
そして。
「はぁぁぁぁぁ…………」
特大のため息。
「なんだよ!」
「言っておくが」
ガオンが俺を指差す。
「俺は話をつけるだけだぞ?」
「分かってるよ」
「会えるとは限らん」
「うん」
「俺が女王に会いたがっているわけでもない」
「それも知ってる!」
「…………」
ガオンの顔がまた渋くなる。
「それだけでもありがたいよ」
「…………はぁ」
もう一度ため息をつく。
「まずは飯だ」
「おう!」
宿の方へ向き直る。
「走るぞ!」
「分かった分かった」
俺たちは朝の王都を走り出した。
さっきすれ違った金髪の少年——ノエル・クラウゼが、この先。
俺達の運命を大きく変えるなんて、
この時の俺は、まだ知らなかった。




