枕投げ
◇ ◇ ◇
一方。
男子部屋では――。
「ぶふっ……!」
ぼすっ!
飛んできた枕が、ログの顔面に突き刺さった。
そのまま、ゆっくりと床へ落ちる。
「…………」
投げたユノは、静かに右手を掲げた。
「一投必中……」
「やるな……」
ガオンが感心したように頷く。
そして、すれ違いざま。
パチン。
二人が片手を合わせた。
「やるな……じゃねぇーよ‼︎」
ログが枕を拾い上げる。
「なんで結局、全員俺の部屋に来てんだよ‼︎」
「店主の方が二人で泊まるならって、少し広めの部屋にしてくれたからじゃない?」
ヒルトが答える。
「気の利く店だな」
「そういうことを言いた――ぶっ!」
ぼすっ!
今度は、ヒルトが投げた枕がログの顔面に直撃した。
「…………」
ぽとり。
枕が落ちる。
「……あぁ」
ログが俯く。
「……分かった」
ゆらりと顔を上げ、枕を握り締める。
「そっちがその気なら……本気でやってやるよ‼︎‼︎」
そして、俺を見る。
「やるぞ! アルト!」
「…………」
「アルト?」
「…………」
俺はガオンを見ていた。
「なぁ……ガオン」
「あ?」
ガオンが枕を構える。
「なんだ? 手加減はしないぞ?」
「女王様に会えないかな……?」
「…………」
ガオンが固まった。
「…………」
「ガオン?」
「無理だ」
「え?」
「というか――」
ガオンの顔が露骨に引きつる。
「絶っっっ対嫌だ」
「お願いだよぉ」
「なぜだ⁉︎」
「宝剣のこと知りたいんだ……」
さっき見た、あの黒い大剣。
考えれば考えるほど、胸の奥がもやもやする。
「……ふむ」
ユノが枕を抱えたまま考え込む。
「確かに気にはなりますね」
「あぁ、確かに」
ログも頷いた。
「だろ?」
俺はガオンへ詰め寄る。
「こんなモヤモヤしたまま楽しめないよぉ」
「お前、さっきまで楽しそうに肉食べていただろうが‼︎」
「それとこれとは別だよぉ」
「十分楽しんでるじゃねぇか!」
「お願いだよぉ」
「断る!」
「ガオン王子ぃ〜」
ログが、気持ち悪いくらい甘い声を出す。
「頼れるのは王子だけだよぉ〜」
ヒルトまで乗っかった。
「かっこいい王子ぃ〜」
ユノも続く。
「…………」
ガオンのこめかみに、ぴくりと青筋が浮かぶ。
「……テメェら、俺を馬鹿にしてるだろう?」
「まさか」
「そんなことないよ」
「心から尊敬しています」
「お前が一番腹立つ!」
「なぜです?」
「その顔だよ!」
ガオンがユノを指差す。
「じゃあ!」
俺はガオンの前に座り込んだ。
「女王様に会わせてくれる?」
「嫌だ」
「お願い!」
「嫌だ」
「ガオン!」
「絶対に嫌だ」
「…………」
「…………」
「……お願い」
「…………」
じぃぃぃ。
ガオンを見つめる。
「…………」
「…………」
「……そんな顔しても無駄だぞ」
「…………」
「俺は行かん」
「…………」
「…………」
「……やめろ」
ガオンの顔が、どんどん渋くなっていく。
それでも俺は見つめ続けた。
「…………」
少しだけ、目が潤んできた。
「お願いだよぉ……」
「…………っ」
ガオンが顔を逸らす。
そして。
なぜかログを見る。
「……ん?」
ぼすっ‼︎
「ぶふっ⁉︎」
ガオンの投げた枕が、ログの顔面に突き刺さった。
「なんで俺⁉︎」
「…………」
ガオンは心底嫌そうな顔のまま。
苦虫を噛み潰すように――。
「……分かった」
「ほんと⁉︎」
「ただし!」
俺が飛びつくより先に、ガオンが指を突きつける。
「会える保証はない! 向こうにも都合がある! 俺は話を通してやるだけだ!」
「うん!」
「それと!」
「うん!」
「俺から離れろ!」
「まだ近づいてないよ⁉︎」
「今から来る顔してんだよ!」
「やったぁ!」
「聞け‼︎」
俺が喜んでいる横で。
ログがゆっくりと顔から枕を剥がした。
「……なあ」
「あ?」
「なんで俺に投げた?」
「そこにいたからだ」
「ヒルトもユノもいただろ!」
「お前が一番投げやすかった」
「ふざけんな‼︎」
ログが枕を振りかぶる。
「ガオン! テメェ覚悟しろ‼︎」
「来い」
「俺も!」
「お前は感謝しろ‼︎」
「感謝してる!」
「だったら枕を置け‼︎」
「それとこれとは別!」
「アルトぉぉぉ‼︎」
そのまま。
男子部屋では再び枕が飛び交い始めた。
女王様に会えるかもしれない。
宝剣のことを聞けるかもしれない。
胸の奥に残っていたモヤモヤが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。




