涙の意味
◇ ◇ ◇
《継剣の儀》が終わった。
花火も止み、集まっていた人々が少しずつ広場を離れていく。
そんな中。
アルトたち七人は、道の隅に集まっていた。
「…………」
「…………」
なんというか。
ものすごく恥ずかしい。
さっきまで七人全員で抱き合っていたのだ。
しかも、《継剣の儀》が終わるまでずっと。
「……ごっほん!」
ログが、わざとらしく咳払いをした。
「で? なんだったんだ?」
「……分かんない」
「無理に話す必要もないんじゃない?」
ヒルトが言うと、ユノも頷く。
「そうですよ。体調不良とかじゃないだけでも良かったじゃないですか」
「…………」
俺は少し考えてから、首を振った。
「いや……話したい」
「話したいんだ」
フィリアが俺を見る。
「うん……」
「なら聞こう」
ガオンが腕を組んだ。
「どこか痛んだのか?」
「ううん……」
違う。
どこかが痛かったわけじゃない。
「なんかさ……」
さっきまで宝剣があった壇上を見る。
黒い大剣は、もう白い布で覆われていた。
「あの宝剣を見た後、急に……寂しくて、懐かしくて……」
胸元をぎゅっと掴む。
「誰かに会いたいって思ったんだよ……」
「会いたい……ですか」
レテが静かに呟く。
「うん。でも、誰に会いたいのかも分かんない」
自分でも変な話だと思う。
会いたい。
なのに、誰に会いたいのか分からない。
「ヴォルグで初めてエーテルと会った時も、そんな感じがしてさ」
初めて会ったはずなのに。
ずっと前から知っていたような。
ひどく懐かしいような。
「でも今回は、もっと……なんていうか……」
上手く言葉にできない。
「……俺、なんかおかしいのかなぁ」
「…………」
みんなが少しだけ黙った。
やがてログが、思い出したように口を開く。
「そーいや、そのエーテル? ってのはどこ行ったんだ?」
「分かんないよ」
「契約まではいかなかったとはいえ、お前はあの時、精霊術を使えていたはずだ」
ガオンの言葉に頷く。
確かにあの時。
俺はエーテルから力を借りた。
だけど、それから姿は見ていない。
「どこにいるかは分かんない。でも……」
なんとなく。
本当に、なんとなくだけど。
「また会える気がするんだ……」
「……そうか」
ログはそれ以上聞かなかった。
代わりに、ぽんっと俺の肩を叩く。
「……宿行くか!」
「…え?」
「んで、帰りに屋台でなんか買ってこうぜ!」
「まだ食べるんですか?」
ユノが呆れたように言う。
「麺もあるぞ」
「お供します」
「早っ」
フィリアが笑った。
「朝ごはんとかも買っておく?」
ヒルトが聞く。
「宿のでいいんじゃない?」
「そっか」
みんなが歩き出そうとする。
「あ、あのさ!」
「ん?」
全員が足を止めた。
「……なんか、ごめん」
「え?」
レテが首を傾げる。
「だ、だって……俺が変な感じになったから。せっかくの祭りだったのに……」
ガオンが真顔で俺を見る。
「お前、馬鹿か?」
「なっ⁉︎ なんでだよ!」
「そうだぞ」
ログも鼻を鳴らす。
「旅行は始まったばっかだろ?」
「そうだよ、アルト」
ヒルトが笑う。
「それに旅行といえば、部屋でのおしゃべりが醍醐味だよ?」
「枕投げもしたいです」
「お前、そういうのやるんだ……」
ログがユノを見る。
「やりません?」
「やらねぇよ」
「僕はやります」
「一人でやってろ」
「私たちは女子会だよ!」
フィリアが、レテの腕にぎゅっと抱きついた。
「ねぇ、レテ!」
「…………」
レテの顔が。
僅かに引きつった。
「……覚えてたんですね」
「もちろん!」
「…………」
レテが。
小さくため息をつく。
「……忘れていてほしかったです」
「えー? なんで?」
「フィリア!」
「あはは!」
「なんの話?」
俺が首を傾げる。
「なんでもないよー」
「なんでもありません!」
「…………」
ぴたりと。
二人の声が重なった。
「……?」
なんだよ。
それ。
よく分からない。
でも。
いつものみんなを見ていると、なんだか笑えてきた。
「……ありがとう」
「何がだ?」
ログが先に歩き出す。
「早く行くぞ。食い物がなくなる」
「お!」
フィリアがすぐに反応した。
「肉まだあるかな⁉︎」
「フィリアもまだ食べるの⁉︎」
ヒルトが目を丸くする。
「別腹!」
「肉に別腹ってあるの⁉︎」
「ある!」
「ないでしょ!」
また、みんなが歩き出す。
「アルトくん」
レテが振り返った。
「行きましょう?」
「…………」
胸の奥には、まだあの不思議な感覚が残っている。
寂しくて。
懐かしくて。
誰かに会いたい。
誰なのかは分からない。
だけど。
今はみんながいる。
「……うん!」
俺はみんなの後を追って、夜の街へ駆け出した。




