会いたいよ
◇ ◇ ◇
喧騒の中にいた。
周りでは。
《継剣の儀》に。
みんなが熱狂していた。
俺も。
そのうちの一人だった。
女王様が。
白い布を取った。
その瞬間。
何も。
聞こえなくなった。
「…………」
でっかい。
とにかく。
でっかい黒い剣。
宝剣っていう割には。
地味だな。
それが。
最初の感想だった。
だけど。
その後からは――。
「…………」
なんだろう。
これ。
胸の奥が。
変な感じがする。
痛いわけじゃない。
苦しいわけでもない。
なのに。
胸の奥を。
ぎゅっと掴まれているような。
…………。
最近。
似たような感覚が。
あった気がする。
どこだ?
いつだ?
「…………あ」
思い出した。
ヴォルグ。
あそこで。
初めてエーテルを見つけた時。
あの時と。
一緒だ。
懐かしい。
初めて会ったはずなのに。
ずっと前から。
知っていたような。
あの感覚。
でも――。
「…………」
違う。
これ。
あの時より。
もっと。
深い。
もっと。
ずっと。
懐かしい。
なんでだろう。
俺は。
あの剣を知らない。
見たこともない。
触ったこともない。
誰が使っていたのかだって。
知らない。
なのに。
なんで。
こんなに――。
会いたい。
「…………」
この剣の。
使い手に。
会いたい。
会ったことも。
ないはずなのに。
会いたい。
…………会いたいよ。
会いたいよ。
…………。
俺は。
今――。
ここにいるよ……。
◇ ◇ ◇
「……トくん!」
「…………」
「……ルトくん!」
誰かの声がする。
「アルトくん!」
「――ハッ!」
身体が。
びくりと跳ねた。
「…………え?」
声がした方を見る。
レテが。
心配そうに。
俺の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか……?」
「え?」
なんで。
そんな顔してるんだ?
「俺……」
そこで。
気づいた。
頬が。
濡れている。
「……あれ?」
手で。
頬に触れる。
指先が。
びしょびしょだった。
「俺……」
「なんでこんなに」
「涙流してんの……?」
「アルトくん……」
「大丈夫ですか?」
ユノが。
心配そうに。
こちらを見る。
「お腹痛いの?」
フィリアが。
眉を下げる。
「食い過ぎたか?」
ガオンが。
真面目な顔で聞いてくる。
「お前ら……」
ログが。
二人を睨む。
「今それ言うか?」
「だって急に泣くから……」
「……大丈夫か?」
ログが。
今度は。
俺を見る。
「少し休む?」
ヒルトも。
心配そうに。
顔を覗き込んでくる。
「…………」
なんだよ。
みんな。
そんな顔すんなよ。
「大丈夫!」
笑おうとした。
「だ……いじょ……」
――ぽろっ。
「…………」
また。
大粒の涙が。
頬を伝った。
「あれ……?」
止まらない。
なんで。
なんでだよ。
「うっ……」
息が。
震える。
「ぁ……」
次から。
次へと。
涙が溢れてくる。
「う……ぐすっ……」
「アルトくん」
「…………」
ふわり。
身体が。
温かいものに包まれた。
「……レテ?」
レテだった。
何も言わず。
俺の身体を。
そっと抱きしめていた。
「…………」
「どうしたんだよ……?」
「……分かりません」
レテの声も。
少し震えていた。
「ただ……」
「なんだか」
「こうしなきゃいけない気がして……」
「…………」
背中へ。
レテの腕が回る。
「それに……」
「なんでしょう……」
「私まで……」
レテが。
小さく笑った。
「涙が……」
「…………っ」
なんだよ。
それ。
なんで。
レテまで。
泣くんだよ。
「……うっ」
もう。
無理だった。
「うわぁぁぁん!」
声が。
出た。
子供みたいな。
大きな泣き声。
「うわぁぁん!」
「うわぁぁぁん!」
レテの服を。
ぎゅっと掴む。
「アルトくん……」
「うわぁぁぁぁん!」
「…………」
フィリアが。
ヒルトを見る。
ヒルトが。
ログを見る。
ログが。
ガオンを見る。
ガオンが。
ユノを見る。
「…………」
「…………」
「…………」
そして。
誰からともなく。
近づいた。
「わっ……」
フィリアが。
横から。
二人まとめて抱きしめる。
「大丈夫だよ」
反対側から。
ヒルトも。
「僕たちもいるから」
「…………」
ログの。
大きな腕が。
上から被さった。
「いっぱい泣け」
「理由なんか」
「後でいい」
「よしよし」
ガオンまで。
頭へ手を置いてくる。
「ガオンさん」
「それ子供にするやつですよ」
「いいだろう」
「今は」
「そうですねぇ」
ユノも。
そっと。
輪の中へ加わった。
「アルトくん」
「ゆっくり呼吸してください」
「うっ……」
「うわぁぁぁん!」
苦しい。
悲しい。
寂しい。
懐かしい。
会いたい。
何が。
こんなに。
俺を泣かせているのか。
分からない。
何一つ。
分からない。
それでも。
みんなの身体は。
温かかった。
「うわぁぁぁん!」
「うわぁぁぁぁん!」
夜空には。
まだ。
花火が上がっていた。
千年の時を越えて。
受け継がれた。
一振りの黒い大剣。
その前で。
俺は。
理由も分からないまま。
ただ。
泣き続けた。




