継剣の儀
◇ ◇ ◇
夜空を彩っていた花火が。
少しずつ。
落ち着いていく。
最後の光が。
夜の向こうへ消えていくと。
再び。
壇上のパメラへ。
人々の視線が集まった。
『――それでは』
パメラが。
静かに口を開く。
『これより』
『《継剣の儀》を執り行います』
――ワァァァァァ‼︎
再び。
広場を歓声が包んだ。
「始まる!」
アルトが。
人混みの向こうを覗き込む。
パメラは。
ゆっくりと横へ移動する。
そして。
数歩。
後ろへ下がった。
「……?」
その後ろ。
壇上の中央には。
巨大な何かが置かれていた。
真っ白な布に覆われ。
その姿は見えない。
「なにあれ?」
フィリアが。
首を伸ばす。
「でっか……」
布に覆われていても分かる。
明らかに。
人が扱うには大きすぎる。
パメラが。
その前へ立つ。
『千年の時を越え』
『今なお我らが国に受け継がれる――』
白い布へ。
手を掛ける。
『スパーナの宝剣』
そして――。
――バサッ!
一気に。
布を取り払った。
「…………!」
現れたのは。
一振りの剣。
ただし。
その一言で表すには。
あまりにも巨大だった。
パメラの身の丈を。
優に超える。
特大の剣。
だが。
宝剣という言葉から想像するような。
金銀も。
宝石も。
美しい装飾も。
一切ない。
黒。
ただ。
黒い。
分厚い刀身。
無骨な柄。
華美さなど。
欠片もない。
まるで。
斬ることだけを考えて作られたような。
巨大な剣。
千年という時を経た今も。
その姿だけで。
異様な存在感を放っていた。
「なんか……」
フィリアが。
ぽつりと呟く。
「意外とゴツゴツしてんね」
「ですねぇ」
ユノも。
目を細める。
「宝剣というくらいですから」
「もっと煌びやかなものかと思ってました」
「…………」
ログだけは。
食い入るように。
大剣を見つめていた。
「かっけぇ……」
「ログ」
ヒルトが笑う。
「好きそうだね」
「当たり前だろ」
「見ろよ、あの厚み」
「絶対重てぇぞ……」
「そこがいいの?」
「そこがいいんだよ」
「分かんないなぁ……」
「お前には分からねぇよ」
そんな二人の横で。
ガオンが。
巨大な剣を見つめる。
「あの剣は」
「パメラ女王の祖先――」
「カリン・エルディアが」
「《悪魔》アルカニウスを倒したとされる剣だ」
「……え?」
フィリアが。
ガオンを見る。
「アルカニウスって……」
「あの御伽話の⁉︎」
「不死隊と並ぶ怖い話だよね?」
ヒルトが言う。
「子供の頃」
「悪いことすると聞かされるやつ」
「ああ」
ガオンが頷く。
「確か……」
ユノが。
記憶を探るように。
顎へ手を添える。
「精霊を食べていたとか……」
「そんな話でしたよね?」
「ええ」
レテが。
黒い大剣へ視線を向ける。
「ということは」
「アルカニウスのお話は」
「スパーナ発祥なんですね」
「そういうことになるな」
ガオンが答える。
「…………」
ログは。
まだ剣を見ていた。
「よりかっけぇ……」
「そこ⁉︎」
フィリアが。
思わず振り返る。
「悪魔を倒した剣だよ⁉︎」
「だからだろ」
「だからなの⁉︎」
「でもさ」
フィリアが。
もう一度。
壇上へ目を向ける。
「アルカニウスって」
「本当にいたの?」
「さぁな」
ガオンが。
肩をすくめる。
「千年も昔の話だ」
「どこまでが事実かなど」
「俺にも分からん」
「いないでしょ?」
ヒルトが。
あっさりと言う。
「精霊を食べる悪魔なんて」
「どうでしょうねぇ」
ユノが。
いつもの笑みを浮かべる。
「千年前ですから」
「逆に何がいても不思議じゃない気もしますけど」
「私は……」
レテが。
少し考える。
「何か元になった出来事は」
「あったのかもしれないと思います」
「それが長い時間をかけて」
「御伽話になったとか」
「なるほどねぇ」
フィリアが頷く。
「にしても」
「悪魔を倒した剣かぁ……」
「なんかすごいね」
「…………」
ログは。
相変わらず。
大剣から目を離さない。
やがて。
僅かに眉を寄せた。
「なぁ」
「刀身になんか書いてねぇか?」
「あ」
フィリアも。
目を細める。
「ほんとだ」
巨大な黒い刀身。
その一部に。
確かに。
何かが刻まれている。
だが。
ここからでは。
文字までは読めない。
「なんて書いてあるんでしょうね?」
ユノが言う。
「――スパーナ」
「え?」
ガオンが。
壇上を見つめたまま答えた。
「あの刀身に刻まれている文字だ」
「スパーナ」
「この国の名前だ」
「国の名前が?」
ヒルトが。
首を傾げる。
「ああ」
ガオンが頷く。
「伝承では」
「カリン・エルディアがアルカニウスを討った後」
「あの剣を持ち帰ったとされている」
「その時にはすでに」
「刀身に《スパーナ》の文字が刻まれていたそうだ」
「じゃあ……」
レテが。
黒い大剣を見る。
「どうして剣に」
「国の名前が?」
「逆だ」
ガオンが言う。
「え?」
「国の名が先ではない」
「あの剣に刻まれていた名から」
「この国は《スパーナ》と名付けられた」
「へぇー!」
フィリアが。
驚いたように。
大剣を見る。
「じゃあスパーナって」
「元々は――」
「あの剣の名前ってこと?」
「おそらくな」
ガオンが頷く。
「少なくとも」
「今に伝わる話では」
「あの剣の名だろうと言われている」
「…………」
ログが。
ぽつりと呟く。
「国の名前の元になった剣……」
そして。
目を輝かせる。
「よりかっけぇ……」
「またそれ⁉︎」
「だってかっけぇだろ」
「そこは否定しないけど!」
「ふふっ」
レテが。
小さく笑う。
そして。
ふと。
隣へ目を向けた。
「アルトくんは」
「どう思いますか?」
「…………」
「アルトくん?」
返事は。
なかった。




