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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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我らが剣に


 ――ヒュゥゥゥゥ……。


「ん?」


 アルトが。


 空を見上げる。


 次の瞬間。


 ――ドォォォン‼︎


「うわっ⁉︎」


「きゃっ!」


 突然。


 夜空いっぱいに。


 大輪の花が咲いた。


「花火⁉︎」


 フィリアが。


 ぱっと顔を輝かせる。


「始まった!」


「急ですねぇ……」


 ユノが。


 驚いたように空を見上げる。


 赤。


 青。


 黄色。


 次々と。


 色鮮やかな光が。


 夜空へ打ち上がっていく。


「おぉぉ……!」


 アルトが。


 口を開けたまま。


 空を見上げる。


「すげぇ!」


「綺麗ですね」


 隣で。


 レテも。


 夜空を見上げていた。


「ヒール!」


「見て!」


「見てるよ」


「すっごい!」


「うん」


 フィリアが。


 嬉しそうに。


 ヒルトの袖を引っ張る。


 その時。


 ――ヒュゥゥゥゥゥゥ……。


 それまでとは違う。


 一際高い音。


「…………?」


 全員が。


 空を見上げる。


 そして――。


 ――ドォォォォォン‼︎


 真っ白な光が。


 夜空いっぱいに弾けた。


「っ⁉︎」


 あまりの眩しさに。


 アルトが目を細める。


 夜だったはずの王都が。


 一瞬。


 昼間のような白に染まった。


 白塔も。


 広場も。


 集まった人々も。


 すべてが。


 白い光に照らされる。


 やがて。


 光が消えていく。


「…………」


 アルトが。


 ゆっくりと目を開く。


「……あれ?」


 先ほどまで。


 誰もいなかった壇上。


 そこに。


 一人の女性が立っていた。


「…………」


 老婆だった。


 年齢を重ねた顔。


 プラチナ色の髪を。


 美しく整えている。


 だが。


 その背筋は。


 真っ直ぐに伸びていた。


 杖に頼ることもなく。


 堂々と。


 壇上の中央に立っている。


 高い鼻。


 深い緑の瞳。


 刻まれた皺の向こうには。


 若い頃。


 さぞ美しかったのだろうと思わせる。


 整った顔立ちが残っている。


「あの人……」


 アルトが。


 小さく呟く。


「パメラ・エルディア女王だ」


 ガオンが答える。


「へぇ……」


 アルトが。


 壇上を見つめる。


「女王様……」


 先ほどまで。


 あれほど騒がしかった広場が。


 静まり返っていた。


 パメラが。


 ゆっくりと。


 人々を見渡す。


 そして。


 口を開いた。


『――スパーナに生きる皆よ』


 凛とした声が。


 広場へ響く。


『そして』


『この日のため』


『我らが国を訪れてくれた旅人たちよ』


『今宵』


『再びこの日を迎えられたことを』


『私は嬉しく思います』


「…………」


 誰一人。


 声を上げない。


 老人も。


 兵士も。


 旅人も。


 子供たちも。


 壇上に立つ女王を。


 静かに見つめている。


『この国には』


『数え切れぬほどの剣がありました』


『国を守った剣』


『家族を守った剣』


『誰かのために振るわれた剣』


『そして――』


 一度。


 パメラが。


 言葉を切る。


『名すら残らなかった剣』


「…………」


『彼らが何を思い』


『何を守り』


『何を未来へ残そうとしたのか』


『そのすべてを』


『私たちが知ることはできません』


『ですが』


 パメラの。


 緑の瞳が。


 《追憶の白塔》へ向けられる。


『彼らが繋いだ今日を』


『私たちは生きています』


 風が。


 プラチナ色の髪を。


 僅かに揺らした。


『剣とは』


『人を斬るためだけのものではありません』


『己が生きるため』


『誰かを支えるため』


『何かを守るため』


『その手に握り』


『明日へ進むためのもの』


『ならば』


『この国に生きる者は』


『誰もが』


『己の剣を持っている』


「…………」


 ログが。


 静かに。


 その言葉を聞いている。


『騎士だけではありません』


『鍛冶師も』


『料理人も』


『商人も』


『学ぶ者も』


『父も』


『母も』


『そして』


 パメラが。


 子供たちへ。


 優しく微笑む。


『これから未来を歩む』


『幼き者たちも』


 子供たちが。


 嬉しそうに。


 顔を見合わせた。


『今宵』


『私たちは』


『かつてこの国を守った者たちを偲び』


『彼らが遺した意志を』


『次の時代へ継ぎます』


 パメラが。


 胸元へ。


 手を添える。


『剣の形は違えど』


『願う未来は同じ』


 そして。


 その手を。


 ゆっくりと。


 夜空へ掲げた。


『――我らが剣に!』


 その瞬間。


 ――チャキッ。


「……え?」


 アルトが。


 目を見開いた。


 騎士たちが。


 剣を掲げる。


 兵士が。


 槍を掲げる。


 大柄な男が。


 斧を掲げる。


 だが。


 それだけではない。


 近くにいた料理人が。


 フライパンを。


 その隣では。


 お玉を。


 若い学生が。


 鉛筆を。


 年配の女性が。


 洗濯叩きを。


 商人が。


 帳簿を。


 そして。


 子供たちは。


 木で作られた。


 小さな玩具の剣を。


 一斉に。


 夜空へ掲げた。


 それぞれの。


 剣を。


 そして――。


『『『意志よ‼︎』』』


 一つになった声が。


 王都を震わせる。


『『『永遠なれ‼︎』』』


 ――ドォォォォォン‼︎


 無数の花火が。


 夜空へ咲いた。


「…………!」


 アルトが。


 目を輝かせる。


 白塔の向こう。


 赤。


 青。


 金。


 色とりどりの光が。


 夜を埋め尽くしていく。


「すげぇ……」


 その光を浴びながら。


 パメラは。


 壇上から。


 にこやかに人々を見渡していた。


 一人。


 また一人。


 まるで。


 そこにいる者たちの顔を。


 確かめるように。


 そして――。


「…………」


 緑の瞳が。


 止まった。


「…………?」


 ガオンも。


 壇上を見る。


 二人の。


 目が合った。


「…………!」


 パメラの目が。


 一瞬。


 大きく見開かれる。


「…………」


 ガオンの顔が。


 引きつった。


「……げっ」


「ん?」


 アルトが。


 ガオンを見る。


 だが。


 次の瞬間には。


 パメラは。


 先ほどまでと同じ。


 穏やかな笑みを浮かべていた。


 ただし。


 その笑顔は。


 明らかに。


 ガオンへ向けられている。


「…………」


 ガオンが。


 そっと目を逸らした。


「ガオン?」


「なんだ」


「今」


「げっ、って言った?」


「言っていない」


「言ったよね?」


 ヒルトも。


 首を傾げる。


「言ってない」


「いや言ったって」


「言っていない」


「なんで三回言うの?」


 フィリアが。


 壇上のパメラを見る。


「優しそうなお婆ちゃんじゃん」


「なんでそんな顔すんの?」


「…………」


 ガオンが。


 しばらく黙る。


「話したくない」


「えぇー!」


「気になる!」


「話したくない」


「なんかしたの?」


「していない」


「じゃあなんで?」


「話したくない!」


「ははは!」


 アルトが。


 声を上げて笑う。


「ガオン!」


「女王様苦手なんだな!」


「違う!」


 夜空に。


 もう一つ。


 大きな花火が咲いた。


 その下で。


 パメラ・エルディアは。


 遠くにいるガオンを見ながら。


 どこか。


 楽しそうに微笑んでいた。

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