勇者を背に
◇ ◇ ◇
それから。
アルトたちは。
王都エルディアを。
思う存分歩き回った。
屋台を覗き。
店を巡り。
ユノは。
念願だった麺料理を食べ。
フィリアは。
結局また肉を食べた。
ヒルトは。
気になっていた菓子を買い。
ログは。
武具店からなかなか離れようとしなかった。
ガオンは。
気づけば。
また別の屋台料理を食べていた。
そして――。
「ふぅー……」
アルトが。
満足そうに息を吐く。
「めっちゃ遊んだ!」
「まだ終わってませんよ」
レテが。
くすりと笑った。
「これから《継剣の儀》でしょう?」
「あ!」
「そうだった!」
「忘れてたの?」
ヒルトが笑う。
「忘れてねぇよ!」
「今、完全に忘れてた顔だったけど」
「忘れてねぇ!」
「はいはい」
「信じてねぇだろ!」
「ふふっ」
そんなやり取りをしながら。
一行は。
大通りを進んでいく。
いつの間にか。
空は。
茜色に染まっていた。
白かった建物も。
夕陽を受け。
淡い橙色へ染まっている。
昼間よりも。
人の数は増えていた。
道沿いでは。
一つ。
また一つと。
街灯へ火が灯されていく。
「もうこんな時間なんですねぇ」
ユノが。
空を見上げる。
「そろそろ行った方がいいんじゃないですか?」
「ああ」
ログが。
頷く。
「リオネルさんも」
「早めに場所取った方がいいって言ってたしな」
「じゃあ行こうぜ!」
アルトが。
勢いよく歩き出す。
「白い塔んとこだろ!」
「今度は迷わないでくださいね?」
「迷わねぇって!」
「今日だけで何回勝手に走っていった?」
「…………」
「アルトくん?」
「行こうぜ!」
「誤魔化しましたね?」
◇ ◇ ◇
《追憶の白塔》。
その姿が。
近づくにつれて。
周囲の人々も。
どんどん増えていった。
「うわ……」
フィリアが。
目を丸くする。
「すっごい人」
「昼より多いね」
ヒルトも。
周囲を見渡す。
「みんな《継剣の儀》を見に来たのかな」
「それもあるでしょうけど……」
レテが。
前方を見る。
「何かやってますよ?」
「ん?」
アルトが。
人と人の隙間から。
背伸びをする。
白塔の前。
広く設けられた広場に。
大きな舞台が組まれていた。
その周囲を。
大勢の観客が囲んでいる。
「劇か?」
ログが。
舞台を覗き込む。
「みたいですねぇ」
ユノが答える。
「お!」
アルトの顔が。
輝く。
「見ようぜ!」
「場所取りは?」
ヒルトが聞く。
「見ながら取ればいい!」
「そんな器用なことできる?」
「できる!」
「根拠がないなぁ……」
「ほら!」
アルトが。
人混みの隙間を指差す。
「あそこ空いてる!」
一行は。
どうにか。
舞台の見える場所へ移動する。
舞台の上では。
派手な鎧を身に纏った男が。
剣を掲げていた。
『――恐れるな!』
勇ましい声が。
広場へ響き渡る。
『我らの道は!』
『この空の先にある!』
「…………」
アルトが。
目を輝かせる。
「勇者かな?」
「たぶんね」
ヒルトが答える。
すると。
舞台の奥から。
巨大な翼が現れた。
「ドラゴン!」
フィリアが。
思わず声を上げる。
もちろん。
本物ではない。
何人もの役者が操る。
巨大な張りぼて。
だが。
翼が広がるたび。
仕込まれた風が吹き。
夕暮れの舞台を。
大きな影が覆っていく。
『勇者よ!』
ドラゴン役の声が。
轟く。
『我が背へ!』
『共に参ろう!』
『神々の住まう――』
勇者が。
ドラゴンの背へ乗る。
『神の国へ!』
――ワァァァァァ‼︎
観客から。
大きな歓声が上がった。
「おぉー!」
アルトも。
一緒になって拍手する。
「すげぇ!」
「アルトくん」
「すごく楽しそうですね」
「だってドラゴンだぞ!」
「作り物ですけどねぇ」
ユノが。
さらりと言う。
「分かってるよ!」
「ふふっ」
レテが笑う。
舞台では。
青い布が。
空を表すように大きく広げられていく。
その上を。
勇者を乗せたドラゴンが。
少しずつ。
高く。
高く。
昇っていく。
『こうして――』
語り手が。
静かに告げる。
『勇者は龍の背に乗り』
『遥か天空――』
『神々の住まう国へと旅立った』
夕陽が。
舞台の向こうへ沈んでいく。
『その先で』
『勇者が何を見たのか』
『何を語り』
『何を持ち帰ったのか』
『それを知る者は――』
一拍。
『誰もいない』
「…………」
アルトが。
瞬きをする。
「え?」
『なぜなら勇者は』
『二度と』
『人の国へ戻ることはなかったのだから――』
舞台が。
暗転する。
そして。
大きな拍手が。
広場を包んだ。
「…………」
アルトも。
少し遅れて。
ぱちぱちと手を叩く。
「戻ってこなかったのか」
「そういうお話みたいですね」
レテが。
舞台を見つめる。
「神の国かぁ……」
フィリアが。
空を見上げた。
そこにはもう。
夕陽はほとんど残っていない。
薄暗い空に。
一番星が。
小さく輝き始めている。
「本当にあった話なんですかねぇ?」
ユノが。
何気なく呟く。
「さあな」
ガオンが。
静かに答える。
「古い物語など」
「どこまでが事実で」
「どこからが物語なのか分からないものだ」
「でも!」
アルトが。
にっと笑う。
「ドラゴンに乗って空飛ぶの」
「楽しそうだったな!」
「そこなんだ……」
ヒルトが笑った。
その時。
――ゴォン。
「…………!」
白塔から。
低く。
鐘の音が響いた。
一度。
そして。
もう一度。
ざわめいていた人々が。
少しずつ。
白塔へと目を向けていく。
夜が。
王都エルディアへ訪れる。
そして。
《継剣の儀》の時が。
近づいていた。




