警戒任務②
◇ ◇ ◇
三人は。
再び。
王都の大通りを進んでいた。
「ふぁ〜……」
ノエルが。
大きな欠伸をする。
「退屈だなぁ」
「警戒任務中だぞ」
リオネルが。
呆れたように言う。
「分かってますよ」
ノエルは。
両手を頭の後ろで組む。
「何も起きないんだから、退屈なものは退屈です」
「何も起きないことが一番なのだが…」
「真面目だなぁ」
ノエルが。
隣を歩くセリオを見る。
「セリオさん」
「あ?」
「また手合わせしてくださいよ」
「嫌だ」
「なんで?」
「嫌だから」
「…………」
ノエルが。
セリオの横顔を見る。
「あー」
「分かった」
「何がだよ」
「負けるの怖いんだぁ?」
「ノエル」
リオネルが。
すぐに止める。
「やめろ」
「てめぇ!」
「あー……」
リオネルが。
頭を抱えた。
「いいよ!」
セリオが。
ノエルを指差す。
「やってやんよ!」
「ギタギタのメタメタにしてやんよ!」
「…………」
ノエルが。
目を丸くする。
「ギタギタのメタメタって」
「本当に言う人いるんだぁー」
「てめぇ……!」
「セリオ殿」
「止めんな、リオ!」
「まだ何も言っていません!」
「つーか!」
セリオが。
ノエルを見下ろす。
「俺は精霊術使ってねぇんだよ!」
「分かる?」
「本気じゃないの!」
わざと。
腰を屈める。
「分かるかなー?」
「おチビちゃんに」
「…………」
ノエルの笑顔が。
消えた。
「今なんつった?」
「あ?」
セリオが。
にやりと笑う。
「お・ち・び」
「…………」
ノエルの手が。
剣の柄へ伸びる。
「あーもう無理」
「斬る」
「絶対斬る」
「やれるも――」
「――――‼︎」
セリオの表情が。
一瞬で変わった。
何か。
今。
何かが――。
「《飛燕》‼︎」
――キィン!
二振りの双剣が。
両手へ現れる。
「っ⁉︎」
リオネルも。
即座に剣を抜く。
もう片方の手には。
盾。
「…………」
ノエルも。
剣の柄を握ったまま。
周囲を見渡した。
先ほどまでの。
ふざけた空気は。
完全に消えている。
「……なーんか」
ノエルが。
目を細める。
「今、やばいの感じませんでした?」
「…………」
祭りを前にした。
大通り。
笑い声。
呼び込み。
楽器の音。
行き交う人々。
何も。
変わっていない。
「……気のせいか?」
リオネルが。
小さく呟く。
「…………」
セリオは。
答えない。
双剣を構えたまま。
人混みの向こうを睨む。
ほんの一瞬。
だった。
だが。
確かに。
何かを感じた。
「……チッ!」
セリオが。
舌打ちする。
「なんだよ……」
「セリオ殿も感じましたか?」
「ああ」
「一瞬だけな」
「僕もです」
ノエルが。
いつもの生意気な笑みを消したまま。
辺りを見渡す。
「…………」
リオネルが。
ゆっくりと剣を下ろした。
「ノエル」
「はい」
「念のため」
「隊長たちの耳に入れておいてくれ」
「分かりました」
「…………」
セリオが。
もう一度。
気配を感じた方角へ目を向ける。
だが。
もう。
何も感じない。
「…………」
気のせい。
そう片付けるには。
嫌な感覚だけが。
妙に残っていた。
◇ ◇ ◇
「いや」
白い髪の男が。
小さな丸眼鏡を押し上げる。
「普通気づくか、あれ?」
人通りから外れた。
細い路地。
フーガが。
困ったように頭を掻く。
「一瞬やぞ?」
「なんやねん、もう……」
「フーガ」
壁に背を預け。
セラが。
眠そうな目を向ける。
「殺気隠すの下手……」
「俺のせい⁉︎」
「フーガのせい」
「なんでや!」
「ケッ!」
酒瓶を片手に。
ドーマが鼻を鳴らす。
「こそこそせずに」
「さっさと終わらせりゃいいんだよ!」
「……うるせぇ」
バルドが。
猫背のまま。
ドーマを見る。
「酒くせぇぞ……」
「あぁ⁉︎」
ドーマの眉が。
跳ね上がる。
「てめぇに関係ねぇだろ!」
「……くせぇもんは、くせぇんだよ」
「やんのか⁉︎」
「……うるせぇな」
「て言うか」
エルネが。
小さく息を吐く。
「君たち全員うるさいよ?」
「自覚ある?」
「そうっすよ!」
ミュゼが。
すぐに乗っかる。
「さっきから声でかいんすよ!」
「お前もや」
フーガが。
即座に返す。
「え⁉︎」
「ミュゼも大概やで?」
「俺もっすか⁉︎」
「ガッハッハ!」
ゲンザが。
豪快に笑う。
「確かにな!」
「ゲンさんが一番うるさいっす!」
「そうか!」
「褒めてないっすよ!」
「ガッハッハ!」
「だから声でかいっすって!」
「…………」
その横で。
ゴートーは。
フーガに持たされた布包みを片手に。
黙って立っている。
「…………」
フーガが。
ゴートーを見る。
「…………」
「ゴートーさん」
「…………」
「なんか喋れや」
「…………」
少し。
間が空く。
「……何を?」
「知らんわ!」
「聞いたフーガが悪い」
セラが。
ぼそりと言う。
「セラまで⁉︎」
「眠い……」
「知らんがな!」
「…………」
エルネが。
路地の外へ視線を向ける。
「それで?」
「気づかれたみたいだけど」
「どうする?」
「別にええよ」
フーガが。
丸眼鏡を。
指先で押し上げる。
「なんかおるって気づいただけや」
「俺らやとは分かってへん」
「ケッ」
ドーマが。
酒を煽る。
「だからよぉ」
「今行ってさっさと終わらせりゃいいだろ」
「それじゃ意味ないやろ」
フーガが。
笑う。
「せっかく来たんや」
「ちゃんと見せてもらわんとな」
「…………」
丸眼鏡の奥。
細められた瞳が。
人混みの先へ向けられる。
「アルトが」
「どんだけ強うなったんか」
「それと――」
口元が。
僅かに吊り上がる。
「今の仲間が」
「どんだけやれるんか」
「…………」
誰も。
今度は。
茶化さなかった。
「それにしても」
フーガが。
頭を掻く。
「ガイスト最強か」
「やっぱ」
「ええ勘しとるなぁ」
「だから言った」
セラが。
小さく欠伸をする。
「フーガが下手……」
「まだ言う⁉︎」
「事実」
「俺、隊長やぞ⁉︎」
「知ってる」
「もうちょい敬って⁉︎」
「やだ」
「即答⁉︎」
「ガッハッハ!」
「ゲンザさん!」
「そこで笑うとこちゃうから!」




