警戒任務
◇ ◇ ◇
「ったく……」
遠ざかっていく。
アルトたちの背中を。
セリオは眺めていた。
「…………」
頭に浮かぶのは。
アルト。
相変わらず。
気持ちが悪い。
――いや。
「……前より気持ち悪くなってんじゃねぇか?」
膨大な魔力。
それ自体は。
以前から知っている。
だが。
さっき感じたものは。
それとは違った。
あいつの中。
もっと奥深く。
何かがいる。
「……精霊?」
ぽつりと呟く。
だが。
すぐに眉を寄せた。
「いや……違ぇな」
精霊とも違う。
なんなのか。
分からない。
「セリオ殿?」
「あ?」
少し先で。
リオネルが振り返っていた。
「何をしているのです?」
「行きますよ」
「まだ警戒区域は半分以上残っています」
「……めんどくせぇ」
「誰のせいで時間を使ったと思っているのですか!」
「腹減ってたんだから仕方ねぇだろ」
「仕方なくありません!」
「へいへい」
「返事は一度!」
「はいはい」
「セリオ殿!」
「うるせぇな!」
セリオは。
もう一度だけ。
アルトたちが消えていった通りを見る。
「…………」
まぁ。
いいか。
考えたところで。
分からないものは分からない。
セリオは。
頭の後ろで手を組み。
リオネルの隣へ並んだ。
「なぁ、リオ」
「なんです?」
「お前」
セリオが。
何気なく尋ねる。
「レテに惚れてんの?」
「⁉︎」
リオネルの足が。
ぴたりと止まった。
「ほ、ほ!」
「ほ?」
「惚れてるわけでは!」
「ふーん」
「ただ!」
リオネルが。
慌てて続ける。
「美しい方だと思いますし!」
「うん」
「もっとお話をしたいとも思いますし!」
「うん」
「またお会いできればとも思っておりますし!」
「うん」
「それに今日、まさか本当に来てくださるとは――」
「あぁ」
セリオが。
頷く。
「惚れてんのね」
「…………」
リオネルが。
黙った。
「…………」
「…………」
「……はい」
「認めんのかよ」
「ここまで言ってしまっては……」
リオネルが。
小さく息を吐く。
「ですが」
その表情が。
少しだけ真剣なものへ変わった。
「私はまだ未熟です」
「だから?」
「いつか」
拳を握る。
「レテ殿を守れるような男に――」
「必要ねーよ」
「…………」
リオネルが。
セリオを見る。
「……はい?」
「あいつ」
セリオが。
前を向いたまま言う。
「相当強ぇーからな」
「…………」
「お前が思ってるほど」
「守られるだけの女じゃねぇよ」
「…………」
リオネルが。
少しだけ目を丸くする。
「ガイスト最強が言いますか……」
「…………」
セリオの眉が。
ぴくりと動いた。
「お前」
むっとした顔で。
リオネルを見る。
「からかってんだろ!」
「いえいえ!」
「顔が笑ってんだよ!」
「気のせいです!」
「こっち見ろ!」
「警戒任務中ですので!」
「都合よく仕事使ってんじゃねぇ!」
「ははは……」
少し歩いて。
リオネルが。
再び前を見る。
「……ならば」
「あ?」
「それを超えるほど」
「私が強くなります」
「…………」
セリオが。
横目でリオネルを見る。
「……ま」
「戦いなら、お前の方が強いわな」
「…………?」
リオネルが。
首を傾げた。
「先ほどは相当強いと……」
「ああ」
「強ぇよ」
「では……?」
「強さにも」
セリオが。
人混みの向こうへ目を向ける。
「色々あんだよ」
「…………」
「剣が強ぇとか」
「魔力が多いとか」
「戦いに勝つとか」
「それだけじゃねぇだろ」
「…………」
リオネルが。
少しだけ考える。
「……なるほど」
「分かったのか?」
「いえ」
「分かってねぇのかよ!」
「ですが」
リオネルが。
小さく笑った。
「セリオ殿が、レテ殿を高く評価していることは分かりました」
「…………」
「なんです?」
「お前」
「たまにムカつくな」
「なぜですか⁉︎」
「――遅いですよ」
「ん?」
二人が。
同時に振り返る。
道の先。
白い壁に背を預け。
一人の少年が立っていた。
まだ。
十六ほどだろうか。
淡い金色の髪。
長めの前髪から覗く。
青緑の瞳。
細身で。
背もそれほど高くない。
腰には。
一振りの剣。
少年は。
二人を見るなり。
呆れたように息を吐いた。
「警戒任務ですよね?」
「ノエル」
リオネルが。
少し驚いた顔をする。
「なぜここに?」
「交代の連絡です」
ノエルが。
セリオを見る。
「……で」
鼻をひくつかせる。
「なんか美味しそうな匂いしますね」
「…………」
「セリオ殿?」
リオネルが。
ゆっくりと。
セリオを見る。
「ケルン」
ノエルが。
即答した。
「食べました?」
「…………」
「食べてねぇ」
「嘘ですね」
「なんで分かんだよ」
「ソース付いてます」
「…………」
セリオが。
口元を拭う。
「嘘です」
「あ?」
「付いてません」
「てめぇ!」
「うわ」
ノエルが。
一歩下がる。
「本当に怖い」
「ぶっ飛ばすぞ!」
「セリオ殿!」
「なんだこいつ!」
「ノエル!」
リオネルも。
少年を睨む。
「セリオ殿を挑発するな!」
「僕は何もしてませんけど」
「している!」
「それより」
ノエルが。
さっさと話を切る。
「第一隊から連絡です」
その瞬間。
リオネルの表情が変わった。
「内容は?」
「《継剣の儀》の警備配置が決まりました」
「隊長たちは?」
「全員出ます」
ノエルが。
指を折っていく。
「女王陛下の直衛に――」
「第一隊隊長」
「《百戦》グレイグ・バルハルト」
「宝剣周辺には」
「第二隊隊長」
「《銀閃》リゼット・ヴァイスベル」
「第三隊の《破城》ダリウス・ハイゼンは、白塔前の正面警備」
「第四隊の《慧眼》シルヴァン・レークは、観覧区域全体の指揮です」
「そうですか」
リオネルが頷く。
「それだけ揃うのであれば――」
「ダリウス?」
セリオが。
名前に反応した。
「《破城》って」
「ああ」
ノエルが。
面倒そうに頷く。
「あの人です」
「…………?」
リオネルが。
二人を見る。
「セリオ殿はご存じなのですか?」
「いや」
「会ったことはねぇけど」
「…………」
セリオが。
少しだけ。
嫌そうな顔をする。
「俺じゃなくて」
「アーヴェル隊長にやたら突っかかってくる奴だろ?」
「ええ」
ノエルが。
あっさり頷いた。
「《鉄城》を破るのは俺だ、って」
「…………」
「ずっと言ってます」
「めんどくせぇ奴だな」
「セリオ殿が言いますか?」
リオネルが。
思わず口にした。
「…………」
「…………」
「あ」
「リオ」
「はい」
「からかってんだろ」
「いえいえ!」
「やっぱりお前ムカつくな!」
「なぜですか⁉︎」
「…………」
ノエルが。
二人を見比べる。
「仲いいですね」
「「よくねぇ!」」
「息ぴったりじゃないですか」
「てめぇもムカつく!」
「僕まで⁉︎」
「セリオ殿!」
騒がしい声が。
祭りを待つ。
王都エルディアの街へ。
響いていく。
夜。
《追憶の白塔》の前。
スパーナを守る騎士たちが集う。
《継剣の儀》まで。
あと数時間。




