強くなれ
◇ ◇ ◇
ポタージュを平らげ。
再び大通りへ。
「あった!」
アルトが。
人混みの向こうを指差した。
先ほど。
馬車の中から見つけた露店。
鉄板の上では。
太い腸詰めが何本も並び。
じゅうじゅうと。
脂を弾けさせている。
「《ケルン》だ!」
店先に掲げられた文字を。
アルトが読み上げる。
「並ぼ!」
フィリアが。
すぐさま列へ向かう。
「おう!」
「まだ食べるんだ……」
ヒルトが呟く。
「ヒールも食べるでしょ?」
「まぁ……食べるけど」
「ほら!」
「何が『ほら』なの」
王国祭を目前に控えているからか。
露店の前には。
既に長い列ができていた。
七人も。
その最後尾へ並ぶ。
「…………」
アルトが。
前の客が受け取ったケルンを覗き込む。
細長いパン。
その中央には。
焼き目のついた太い腸詰め。
炒めた玉ねぎに。
刻んだ香草。
仕上げに。
店主がとろりとしたソースをかける。
「…………」
ごくり。
「まだ?」
「並んだばっかりですよ」
レテが笑う。
「腹減った」
「さっき食べたでしょう?」
「ポタージュはポタージュだろ?」
「パイも食べてたよね?」
「パイはパイだろ?」
「アルト」
フィリアが。
真剣な顔で頷く。
「分かるよ」
「だよな!」
「分かっちゃうんだ……」
ヒルトが苦笑した。
その時。
「――うるせぇと思ったら」
後ろから。
聞き覚えのある声がした。
「…………」
アルトの表情が。
ぴたりと固まる。
「やっぱりお前らかよ」
ゆっくり。
振り返る。
「…………げ」
「あ?」
そこに立っていたのは。
セリオだった。
「セリオさん?」
レテが。
目を丸くする。
「なんだ」
セリオが。
面倒そうに一行を見る。
「お前らも来てたのか」
「セリオさんも王国祭に?」
ヒルトが尋ねる。
「まぁな」
「…………」
アルトだけが。
露骨に嫌そうな顔をしていた。
「なんだよ」
セリオが。
その視線に気づく。
「……別に」
「言いてぇことあるなら言えよ」
「ない」
「ある顔してんだろ」
「ない!」
「じゃあこっち見んな」
「そっちが話しかけてきたんだろ!」
「あ?」
「ほら」
ヒルトが。
すぐに二人の間へ入る。
「会って早々やめなって」
「俺はなんもしてねぇだろ」
「誰のせいだよ……」
アルトが。
ぼそりと呟く。
「あ?」
「なんでもない!」
ぷいっ。
アルトが前を向く。
「俺はケルン食いに来たんだ!」
「俺もだよ」
「…………」
「…………」
「後ろ並べよ」
「言われなくても並ぶわ」
セリオが。
一行の後ろへ並ぶ。
そんな中。
「…………」
ユノが。
セリオをじっと見ていた。
「あ?」
セリオが。
その視線に気づく。
「なんだお前」
「ああ、すみません」
ユノが。
いつもの笑みを浮かべる。
「初めまして」
「ユノ・フェルメルです」
「……誰だ?」
「ですよねぇ」
ユノが笑う。
「僕はセリオさんのこと、知ってますけど」
「そりゃよかったな」
「思っていたより怖そうな人ですね」
「喧嘩売ってんのか?」
「褒めてます」
「どこがだよ」
セリオが。
面倒そうに息を吐く。
「……で」
ユノを。
もう一度見る。
「お前、どこの隊だ?」
「元バルガス隊で」
ユノが答える。
「今はアーヴェル隊です」
「…………」
セリオの表情が。
僅かに変わった。
「……おっさん」
少しだけ。
声が低くなる。
「元気にしてるか?」
「えぇ」
ユノが頷く。
「相変わらずですよ」
「そうか……」
「…………」
それだけ。
短く答え。
セリオは前を向く。
列が。
一つ進んだ。
そのまま。
何事もなかったように歩き出して。
「……ユノっていったか?」
「はい」
「お前」
セリオが。
振り返る。
「強くなれ」
「…………」
ユノの笑みが。
ほんの僅かに消えた。
「……はい」
それ以上。
セリオは何も言わなかった。
ユノも。
何も聞かなかった。
ただ。
再び列が進む。
「次の人ー!」
店主の声が響いた。
「あっ!」
アルトが。
すぐさま前を見る。
「あと二人!」
「お前ずっと数えてたのかよ」
セリオが呆れる。
「うるさい!」
「なんだその態度」
「セリオさんがいると飯が不味くなる!」
「なら食うな」
「それは嫌だ!」
「じゃあ黙ってろ」
「お前が黙れ!」
「二人とも!」
ヒルトの声が。
再び大通りに響いた。




