王都
◇ ◇ ◇
王都エルディア。
その門を潜った瞬間。
「おおおお……!」
アルトの声が。
人々の喧騒に混じった。
白い石造りの建物が。
大通りの左右にずらりと並ぶ。
赤茶色。
青灰色。
色の違う屋根の間には。
何本もの飾り布が渡され。
風に揺れていた。
窓辺には花。
軒先には旗。
そして。
道の両脇には。
所狭しと露店が並んでいる。
「すご……」
フィリアも。
馬車の窓へ張り付いた。
「人いっぱい!」
「王国祭はまだなのにね」
ヒルトが。
外を覗く。
「これ、当日はどうなるんだろ」
「歩けないんじゃない?」
「あり得そうだな」
ログが呟く。
その時。
「…………!」
アルトの鼻が。
ぴくりと動いた。
「肉」
「肉!」
ほぼ同時に。
フィリアが反応する。
「あれ!」
「あっち!」
二人が指差した先。
通りの一角。
鉄板の上で。
何本もの腸詰めが焼かれていた。
表面には。
こんがりと焼き色がつき。
脂が落ちるたび。
ジュウッ!
と。
食欲を刺激する音が響く。
店主が。
焼き上がった一本を掴み。
切れ目を入れた細長いパンへ挟んだ。
「うまそう!」
「絶対おいしい!」
「まだ降りるなよ?」
ヒルトが。
二人を牽制する。
「馬車、まだ動いてるからね?」
「分かってる!」
「分かってるって!」
「本当に?」
「信用ないな!」
「日頃の行いだよ」
やがて。
馬車がゆっくりと速度を落とし。
止まった。
「着いたぞー!」
「よし!」
「肉!」
「待てって!」
飛び出そうとした二人を。
ログとヒルトが捕まえる。
「先に荷物!」
「えぇー!」
「肉が!」
「逃げねぇよ」
「冷める!」
「次の焼くだろ!」
そんなやり取りをしながら。
七人は馬車を降りた。
後ろへ回り。
預けていた荷物を受け取る。
「ありがとう!」
アルトが。
御者へ大きく手を振った。
「ああ! 楽しんでこい!」
御者も。
笑って手を振り返す。
「あと坊主!」
「ん?」
「迷子になるなよ!」
「ならねぇよ!」
「ふっ」
隣で。
ログが鼻で笑った。
「なんだよ……」
アルトが。
むっと頬を膨らませる。
「みんな子供扱いしてさ!」
「アルト!」
突然。
フィリアが声を上げた。
「あれ!」
「ん?」
「肉のパイもあるよ!」
「マジ⁉︎」
アルトの不満など。
一瞬で吹き飛んだ。
「どこ⁉︎」
「あそこ! ほら!」
「うおっ! でっか!」
「…………」
ログが。
もう一度。
鼻で笑う。
「なんだよ!」
「別に」
「絶対なんか思っただろ!」
「なんも」
「嘘つけ!」
「ほら」
ヒルトが。
二人を促す。
「先に宿行くよ」
「えぇー!」
「パイが!」
「逃げないから」
フィリアが。
名残惜しそうに屋台を振り返る。
「……覚えたからね」
「俺も覚えた!」
「何の決意なの、それ」
「それで」
ガオンが。
荷物を肩へ担ぎ直し。
レテへ顔を向ける。
「レテ、宿はどこなんだ?」
「えっと……」
レテが。
大通りの先を見る。
「このまま進んで、途中を右に入ったところですね」
「遠い?」
アルトが尋ねる。
「それほど遠くありませんよ」
「よし!」
アルトが。
ぐっと拳を握る。
「急ぐぞ!」
「パイは逃げませんからね?」
「でも早く食いたい!」
「はいはい」
「……あ」
その隣で。
ユノが声を上げた。
「どうしました?」
「そういえば」
ユノが。
いつもの笑みを浮かべたまま。
ガオンを見る。
「ガオンさんって、泊まる部屋あるんですか?」
「…………」
「…………」
七人の足が止まる。
「……確かに」
レテが。
小さく呟いた。
宿を手配した時には。
ガオンが来ることなど。
誰も知らなかった。
「一人増えちゃったもんね」
フィリアが言う。
「まぁ」
ログが。
どうでもよさそうに肩を竦める。
「無きゃそこら辺で寝るだろ」
「一応王族なんだけど?」
ヒルトが突っ込んだ。
「おい」
ガオンが。
じろりとヒルトを見る。
「一応とはなんだ」
「そこ気にするんだ……」
「当たり前だ」
ガオンが。
平然と続ける。
「まぁ、無ければそこらで寝るぞ?」
「やめときな?」
ヒルトが。
即座に止めた。
「他国の王子が王都の道端で寝てたら、絶対面倒なことになるから」
「なら」
ガオンが。
ログを見る。
「ログの部屋で寝る」
「あ?」
ログが。
眉を寄せる。
「なんで俺なんだよ」
「いいだろ。一晩くらい」
「アルトんとこ行けよ」
「ログの部屋がいい」
「だからなんでだよ」
「…………」
ガオンは。
少しだけ考え。
「話したいことがある」
「今話せよ」
「二人でだ」
「気持ち悪ぃな」
「なんだと?」
「なんでそんなにログと寝たいの?」
フィリアが。
不思議そうに首を傾げる。
「…………」
「怪しいですねぇ」
ユノが。
にこにこと笑う。
「怪しくない」
「絶対なんかあるじゃん」
「ない」
「ある顔してるよ?」
「ない」
「お前ら……」
ログが。
額を押さえる。
「とりあえず」
レテが。
苦笑しながら間に入った。
「宿に着いてから、空いているお部屋がないか確認しましょう」
「いや」
ガオンは。
あっさりと言った。
「空いていてもログの部屋でいい」
「よくねぇよ!」
「よろしく頼む」
「勝手に決めんな!」
ログの声が。
賑やかな大通りに響く。
アルトが笑い。
フィリアも笑う。
ヒルトは呆れ。
ユノは相変わらず楽しそうに笑っていた。
そんな七人の頭上。
白い街並みの遥か上には。
《追憶の白塔》が。
変わらず静かに。
王都エルディアを見守っていた。




