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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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547/673

王都

     ◇ ◇ ◇


 王都エルディア。


 その門を潜った瞬間。


「おおおお……!」


 アルトの声が。


 人々の喧騒に混じった。


 白い石造りの建物が。


 大通りの左右にずらりと並ぶ。


 赤茶色。


 青灰色。


 色の違う屋根の間には。


 何本もの飾り布が渡され。


 風に揺れていた。


 窓辺には花。


 軒先には旗。


 そして。


 道の両脇には。


 所狭しと露店が並んでいる。


「すご……」


 フィリアも。


 馬車の窓へ張り付いた。


「人いっぱい!」


「王国祭はまだなのにね」


 ヒルトが。


 外を覗く。


「これ、当日はどうなるんだろ」


「歩けないんじゃない?」


「あり得そうだな」


 ログが呟く。


 その時。


「…………!」


 アルトの鼻が。


 ぴくりと動いた。


「肉」


「肉!」


 ほぼ同時に。


 フィリアが反応する。


「あれ!」


「あっち!」


 二人が指差した先。


 通りの一角。


 鉄板の上で。


 何本もの腸詰めが焼かれていた。


 表面には。


 こんがりと焼き色がつき。


 脂が落ちるたび。


 ジュウッ!


 と。


 食欲を刺激する音が響く。


 店主が。


 焼き上がった一本を掴み。


 切れ目を入れた細長いパンへ挟んだ。


「うまそう!」


「絶対おいしい!」


「まだ降りるなよ?」


 ヒルトが。


 二人を牽制する。


「馬車、まだ動いてるからね?」


「分かってる!」


「分かってるって!」


「本当に?」


「信用ないな!」


「日頃の行いだよ」


 やがて。


 馬車がゆっくりと速度を落とし。


 止まった。


「着いたぞー!」


「よし!」


「肉!」


「待てって!」


 飛び出そうとした二人を。


 ログとヒルトが捕まえる。


「先に荷物!」


「えぇー!」


「肉が!」


「逃げねぇよ」


「冷める!」


「次の焼くだろ!」


 そんなやり取りをしながら。


 七人は馬車を降りた。


 後ろへ回り。


 預けていた荷物を受け取る。


「ありがとう!」


 アルトが。


 御者へ大きく手を振った。


「ああ! 楽しんでこい!」


 御者も。


 笑って手を振り返す。


「あと坊主!」


「ん?」


「迷子になるなよ!」


「ならねぇよ!」


「ふっ」


 隣で。


 ログが鼻で笑った。


「なんだよ……」


 アルトが。


 むっと頬を膨らませる。


「みんな子供扱いしてさ!」


「アルト!」


 突然。


 フィリアが声を上げた。


「あれ!」


「ん?」


「肉のパイもあるよ!」


「マジ⁉︎」


 アルトの不満など。


 一瞬で吹き飛んだ。


「どこ⁉︎」


「あそこ! ほら!」


「うおっ! でっか!」


「…………」


 ログが。


 もう一度。


 鼻で笑う。


「なんだよ!」


「別に」


「絶対なんか思っただろ!」


「なんも」


「嘘つけ!」


「ほら」


 ヒルトが。


 二人を促す。


「先に宿行くよ」


「えぇー!」


「パイが!」


「逃げないから」


 フィリアが。


 名残惜しそうに屋台を振り返る。


「……覚えたからね」


「俺も覚えた!」


「何の決意なの、それ」


「それで」


 ガオンが。


 荷物を肩へ担ぎ直し。


 レテへ顔を向ける。


「レテ、宿はどこなんだ?」


「えっと……」


 レテが。


 大通りの先を見る。


「このまま進んで、途中を右に入ったところですね」


「遠い?」


 アルトが尋ねる。


「それほど遠くありませんよ」


「よし!」


 アルトが。


 ぐっと拳を握る。


「急ぐぞ!」


「パイは逃げませんからね?」


「でも早く食いたい!」


「はいはい」


「……あ」


 その隣で。


 ユノが声を上げた。


「どうしました?」


「そういえば」


 ユノが。


 いつもの笑みを浮かべたまま。


 ガオンを見る。


「ガオンさんって、泊まる部屋あるんですか?」


「…………」


「…………」


 七人の足が止まる。


「……確かに」


 レテが。


 小さく呟いた。


 宿を手配した時には。


 ガオンが来ることなど。


 誰も知らなかった。


「一人増えちゃったもんね」


 フィリアが言う。


「まぁ」


 ログが。


 どうでもよさそうに肩を竦める。


「無きゃそこら辺で寝るだろ」


「一応王族なんだけど?」


 ヒルトが突っ込んだ。


「おい」


 ガオンが。


 じろりとヒルトを見る。


「一応とはなんだ」


「そこ気にするんだ……」


「当たり前だ」


 ガオンが。


 平然と続ける。


「まぁ、無ければそこらで寝るぞ?」


「やめときな?」


 ヒルトが。


 即座に止めた。


「他国の王子が王都の道端で寝てたら、絶対面倒なことになるから」


「なら」


 ガオンが。


 ログを見る。


「ログの部屋で寝る」


「あ?」


 ログが。


 眉を寄せる。


「なんで俺なんだよ」


「いいだろ。一晩くらい」


「アルトんとこ行けよ」


「ログの部屋がいい」


「だからなんでだよ」


「…………」


 ガオンは。


 少しだけ考え。


「話したいことがある」


「今話せよ」


「二人でだ」


「気持ち悪ぃな」


「なんだと?」


「なんでそんなにログと寝たいの?」


 フィリアが。


 不思議そうに首を傾げる。


「…………」


「怪しいですねぇ」


 ユノが。


 にこにこと笑う。


「怪しくない」


「絶対なんかあるじゃん」


「ない」


「ある顔してるよ?」


「ない」


「お前ら……」


 ログが。


 額を押さえる。


「とりあえず」


 レテが。


 苦笑しながら間に入った。


「宿に着いてから、空いているお部屋がないか確認しましょう」


「いや」


 ガオンは。


 あっさりと言った。


「空いていてもログの部屋でいい」


「よくねぇよ!」


「よろしく頼む」


「勝手に決めんな!」


 ログの声が。


 賑やかな大通りに響く。


 アルトが笑い。


 フィリアも笑う。


 ヒルトは呆れ。


 ユノは相変わらず楽しそうに笑っていた。


 そんな七人の頭上。


 白い街並みの遥か上には。


 《追憶の白塔》が。


 変わらず静かに。


 王都エルディアを見守っていた。

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