楽しい道中②
◇ ◇ ◇
ガタゴト。
ガタゴト。
休憩を終えた馬車は。
再びスパーナへ続く街道を進んでいた。
「あ! レテ! 今の見た⁉︎」
「見ましたよ」
「すげぇ速かったな!」
「何の動物だったんでしょうね」
「分かんない!」
「分からないのにそんなに楽しめるんですね……」
「だって速かっただろ!」
「ふふっ、そうですね」
休憩で身体を動かしたからなのか。
アルトは。
先ほどよりも元気だった。
「あっ!」
「今度はなんですか?」
「あの雲!」
「雲?」
「魚みたいじゃない?」
「…………」
レテが窓の外を見る。
「どちらかというと鳥に見えますけど」
「えー?」
「ほら、あそこが羽で」
「じゃああっちが頭?」
「多分」
「おお! 本当だ!」
「さっき魚って言ってたじゃないですか」
「鳥にも見えてきた!」
「どっちなんですか」
「鳥!」
「変わった……」
その後も。
アルトは。
流れていく景色を見ては声を上げ。
レテへ話しかけ。
時折。
向かいに座る仲間たちまで巻き込み。
賑やかな時間が続いていた。
けれど。
しばらくして。
「…………」
レテが。
ふと気づく。
静かだ。
さっきまで。
あれだけ隣から聞こえていた声が。
いつの間にか止まっている。
「アルトくん?」
「…………」
隣を見る。
「…………すぅ」
「…………」
寝ていた。
窓側へ身体を預け。
静かに寝息を立てている。
「…………」
レテは。
思わず小さく笑った。
「ふふっ」
あれだけ。
はしゃいでいたのだから。
疲れたのだろう。
「まったく……」
レテは。
座席に置かれていた膝掛けを手に取る。
広げて。
アルトの身体へ。
そっと掛けた。
「…………」
起きない。
「…………」
いつもなら。
じっとしていることなど。
ほとんどないのに。
今は。
随分と大人しく見える。
「…………」
レテの手が。
アルトの頭へ伸びる。
さらり。
髪に触れ。
そのまま。
優しく頭を撫でる。
「…………」
一度。
もう一度。
「…………」
そして。
「……え?」
レテの手が止まった。
「…………」
自分の手を見る。
次に。
眠っているアルトを見る。
「…………⁉︎」
何をしているんだろう。
今。
自分は。
どうして。
アルトくんの頭を――。
「…………!」
レテが。
慌てて周囲を見渡す。
「ぐぅ……」
ログは。
座席へ身体を預け。
豪快にいびきをかいている。
「…………」
ガオンも。
腕を組んだまま。
静かに眠っている。
ヒルトも。
穏やかな寝息を立てていた。
「…………」
よかった。
誰も見て――。
「…………」
「…………」
フィリアと。
目が合った。
「…………」
にやぁ。
フィリアの口元が。
ゆっくりと吊り上がる。
「…………」
「やるねぇ」
「違います!」
思わず。
声が裏返った。
「はいはい」
「本当に違います!」
「分かった分かった」
「絶対分かってないですよね⁉︎」
「分かってるよ?」
「何がですか!」
「色々?」
「もう……!」
レテが。
頬を膨らませる。
「……フィリアのバカ」
「バカでーす」
「…………」
「あははは!」
フィリアが。
楽しそうに笑う。
「もう……」
レテは。
恥ずかしそうに顔を逸らした。
そして。
もう一人。
「…………」
ユノを見る。
「…………」
いつもの糸目。
いつもの笑顔。
微動だにしない。
「…………」
「ユノくん?」
「…………」
「…………」
返事はない。
「寝てますかね……」
「…………ふっ」
「…………」
小さく。
鼻で笑う音。
「起きてる‼︎」
「…………」
「今笑いましたよね⁉︎」
「…………」
「ユノくん!」
「…………」
「……はぁ」
レテが。
諦めたように肩を落とした。
その時。
「おーい!」
御者の声が。
客車へ響く。
「もうすぐ着くぞー! 寝てるやつ起こせー!」
「はい」
ユノが。
何事もなかったように口を開いた。
「ログさん、ガオンさん。もう着きますよ」
「……んぁ?」
「…………着くのか」
ログとガオンが。
ゆっくり目を開ける。
「…………」
レテが。
ユノを見る。
「やっぱり起きてたでしょう!」
「はて?」
ユノが首を傾げる。
「なんのことですか?」
「もう!」
「それより」
ユノが。
眠っているアルトを見る。
「早くアルトさんを起こしてください」
「…………」
「どうしました?」
「なんでもありません!」
レテが。
アルトへ向き直る。
「アルトくん」
「…………」
「起きてください」
「くー……くー……」
「アルトくん?」
「…………」
「もう着きますよ」
「…………」
「…………」
起きない。
「……もう」
レテが。
アルトの頭を。
ぺしっ。
軽く叩いた。
「いて!」
アルトが。
飛び起きる。
「なんだぁ?」
「もう着きますよ」
「…………」
寝ぼけた顔のまま。
アルトが瞬きをする。
「もう?」
「はい」
「…………」
その言葉の意味を。
理解した瞬間。
「ほんと⁉︎」
アルトが。
勢いよく窓の外を見る。
「おお!」
「ちょっ、アルトくん!」
「見えてきた!」
その声に。
フィリアも。
眠っているヒルトを見る。
「ヒール、起きてー」
「すぅ……すぅ……」
「ヒール?」
「…………」
「起きない」
「ヒルト!」
アルトが。
ヒルトの肩を掴む。
「おいヒルト! 起きろー!」
ぐらぐら。
「わっ! なっ……!」
ヒルトが。
驚いて目を開ける。
「やめ、やめて! 起きたから!」
「スパーナだ!」
「分かった! 分かったから揺らさないで!」
「ほら! 見ろよ!」
「今見るから!」
「アルトくん、落ち着いてください!」
「お前、寝起きなのになんでそんな元気なんだよ……」
ログが。
まだ眠そうな顔で呟く。
「スパーナだぞ!」
「知ってるよ……」
ガタゴト。
ガタゴト。
馬車が。
街道を進んでいく。
七人の視線が。
自然と窓の向こうへ集まっていく。
そして――。
目的地。
スパーナが。
少しずつ。
その姿を現し始めていた。




