楽しい道中
◇ ◇ ◇
「おーい!」
馬車の方へ。
アルトが手を振りながら戻ってくる。
その少し後ろを。
レテがついて歩いていた。
「あ、戻ってきた」
フィリアが。
二人に気づく。
「何か面白いものありました?」
ユノが尋ねる。
「木!」
アルトが即答した。
「…………」
「…………」
「木……?」
ヒルトが聞き返す。
「うん!」
アルトは。
満足そうに頷いた。
「でっかいのあった!」
「面白いのはお前の感性だな」
ログが呆れたように言う。
「なんでだよ! すげぇでかかったんだぞ!」
「自然を楽しむのはいいことだぞ?」
ガオンが口を挟む。
「だろ!」
「まぁな」
「ほら!」
「俺に言うな」
ログが。
面倒そうに顔を逸らす。
「…………」
その横で。
フィリアが。
じっとレテを見ていた。
「…………」
いつも通り。
……に見える。
けれど。
どこか落ち着かない。
アルトを見る。
目を逸らす。
またアルトを見る。
そして。
フィリアと目が合った。
「…………」
「…………」
「むむ?」
「⁉︎」
フィリアの目が。
僅かに細くなる。
そのまま。
レテの隣へ近づいていく。
「ねー、レテ?」
「は、はい」
「…………」
目が泳いでいる。
フィリアは。
確信した。
「何かあったのかなぁ?」
妙にねっとりとした声。
「な、なんですか、その喋り方‼︎」
レテが。
一歩後ろへ下がる。
「何もありません!」
「本当に?」
「本当です!」
「ふーん……」
フィリアが。
じーっとレテを見る。
「…………」
「…………」
「じゃあ」
くるり。
フィリアがアルトの方を向いた。
「アルトに聞こう」
「⁉︎」
レテの肩が跳ねる。
まずい。
それは。
非常にまずい。
アルトくんなら――。
絶対に正直に答える。
それも。
この場にいる全員に聞こえるくらいの声で。
「フィリア!」
「んー?」
フィリアが。
振り返る。
「…………」
「何?」
「…………」
レテが。
ちらりとアルトを見る。
「ん?」
当の本人は。
何も分かっていない顔で首を傾げている。
「…………」
レテは。
観念したように息を吐いた。
「……宿で話します……」
「…………!」
フィリアの顔が。
ぱっと明るくなる。
「女子会開催だね」
ぐっ。
フィリアが。
レテへ拳を突き出した。
「…………」
レテは。
少し迷ってから。
その拳を。
自分の掌で包み込んだ。
「……はい」
「…………」
フィリアが。
レテの手を見る。
「……なかなかやるな」
「え?」
「普通そこは拳じゃない?」
「え⁉︎」
「何バカやってんの」
ヒルトが。
呆れたように二人を見る。
「バカとは何よ!」
「いや、だって今の何?」
「女子にしか分からないやつ」
「絶対今考えたでしょ」
「…………」
「図星なんだ」
「うるさい!」
「ははは!」
「おい」
ログが。
馬車の方へ顎を向ける。
「そろそろ出るってよ」
「お!」
アルトが。
真っ先に馬車へ向かう。
「あと半分かー」
客車へ乗り込みながら。
アルトが。
ガオンを見る。
「ガオン」
「なんだ」
「なんか面白い話してよ」
「鏡でも見てろ」
「…………」
アルトが止まる。
「どゆこと⁉︎」
「そのままの意味だ」
「俺の顔見て何が面白いんだよ!」
「そういうところだ」
「どういうところ⁉︎」
「ほらほら!」
御者が。
御者台から声を上げる。
「みんな乗ったかー?」
「乗ったー!」
アルトが返事をする。
「じゃあ行くよー!」
手綱が握られ。
二頭の馬が。
再び歩き始める。
ガタッ。
ガタゴト。
ガタゴト。
「なぁガオン! さっきのどういう意味だよ!」
「自分で考えろ」
「分かんないから聞いてんだろ!」
「なら諦めろ」
「ログ!」
「俺に振んな」
「レテ!」
「えっ⁉︎」
突然呼ばれ。
レテの肩が。
また跳ねた。
「…………」
「レテ?」
「な、なんですか?」
「ガオンがひどい!」
「え、ええ……そうですね!」
「なんでレテまで変なんだ?」
「変じゃありません!」
「?」
「…………」
フィリアが。
そんなレテを横から眺める。
「…………ふふ」
「フィリア!」
「何も言ってないじゃん」
「顔が言ってます!」
「何を?」
「もう!」
再び。
笑い声を乗せて。
馬車は街道を走り出す。
目的地。
スパーナまで。
あと半分だった。




