散歩
◇ ◇ ◇
「んー!」
アルトが。
大きく腕を伸ばしながら歩いていく。
「やっぱ歩く方がいいな!」
「アルトくん、じっとしているの苦手ですもんね」
「そんなことないぞ?」
「そうですか?」
「必要ならじっとしてられる!」
「必要じゃない時は?」
「動く!」
「やっぱり苦手じゃないですか」
「ははは!」
馬車から。
それほど離れていない場所。
二人は。
街道脇をゆっくりと歩いていた。
風が。
草木を優しく揺らしていく。
「気持ちいいな」
「ですね」
「馬車の中より涼しい」
「ずっと窓に張り付いてましたけどね」
「だって景色変わるから面白いんだよ」
「ふふっ」
レテが。
小さく笑う。
そのまま。
二人で並んで歩いていく。
「…………」
「…………」
「アルトくん」
「ん?」
「楽しそうですね」
「楽しいぞ?」
「それは見れば分かります」
「じゃあなんで聞いたんだ?」
「なんとなくです」
「なんだそれ」
「アルトくんに言われたくありません」
「えー?」
レテが笑う。
「でも」
その声が。
少しだけ柔らかくなる。
「本当に楽しそうだなって」
「…………」
アルトが。
前を見る。
「前にスパーナ来た時と全然違うからかな」
「前はお仕事だったんですよね?」
「うん」
「…………」
レテが。
アルトの横顔を見る。
「アルトくん」
「ん?」
「そのお仕事って、何だったんですか?」
「…………」
アルトが。
足を止める。
「仕事?」
「はい」
「…………」
少し考えて。
「うーん……」
そして。
にっと笑った。
「秘密!」
「…………」
「レテ?」
「そうですか」
「え?」
レテが。
少しだけ頬を膨らませ。
ぷいっと前を向く。
「ログとガオンには話したのに?」
「…………」
アルトが固まった。
「いや、あれは……」
「私には秘密なんですね」
「…………」
「…………」
「……ごめん」
アルトの声が。
少しだけ小さくなる。
「…………」
レテが。
ちらりとアルトを見る。
申し訳なさそうに。
本気で落ち込んでいた。
「ふふっ」
「……ん?」
「冗談ですよ」
「え?」
「怒ってません」
「…………」
「本当に?」
「本当です」
レテが笑う。
「もう……そんな顔しないでください」
「だって……」
「分かっていますから」
「…………」
「アルトくんにも、まだ話したくないことくらいありますよね」
「レテ……」
「でも」
レテが。
少しだけ先へ歩く。
街道脇に並ぶ木々。
その隙間から。
柔らかな陽射しが差し込んでいた。
風が吹く。
枝葉が揺れ。
木漏れ日が。
レテの髪を淡く照らす。
「いつか」
レテが振り返った。
「アルトくんが何をしていたのか、聞かせてくださいね?」
「…………」
アルトは。
何も答えなかった。
ただ。
レテを見ていた。
風に揺れる髪。
柔らかな笑顔。
木漏れ日に照らされた。
その姿を。
「……アルトくん?」
「…………」
そして。
ぽつりと。
「レテってさ」
「はい?」
「綺麗だな」
「…………」
「…………」
「……え⁉︎」
レテの目が。
大きく開く。
「さ!」
アルトが。
突然くるりと背を向けた。
「そろそろ戻るか!」
「え?」
「いくぞー!」
「はい……って!」
レテが。
慌ててアルトの背中を見る。
「さっきなんて言いました⁉︎」
「さぁ?」
「ちょっ!」
「置いてくぞー!」
「アルトくん!」
アルトが。
笑いながら駆けていく。
「もう……」
レテは。
その背中を見ながら。
困ったように笑った。
「ふふっ」
そして。
アルトの後を追いかける。
「待ってください!」
二人の声が。
風に乗って。
街道へと響いていった。




