道中②
◇ ◇ ◇
ガタゴト。
ガタゴト。
ジーアスを出て。
しばらく。
馬車は。
スパーナへ続く街道を進んでいた。
「…………」
アルトは。
相変わらず窓の外を眺めている。
「あ! レテ!」
「はい?」
「あそこ!」
アルトが。
遠くを指差す。
「鳥! でかくないか?」
「確かに大きいですね」
「なんて鳥だろ」
「さぁ……私も見たことないです」
「ログ! あれ何だ?」
「あ?」
向かいに座るログが。
面倒そうに窓の外を見る。
「……知らねぇ」
「ちゃんと見ろよ!」
「見ても知らねぇもんは知らねぇよ!」
「なんだよー」
「ふふっ」
レテが笑う。
そんなやり取りを。
眺めていたガオンが。
ふと口を開いた。
「そういえば」
「ん?」
「みんな、スパーナへ行くのは初めてなのか?」
「あ」
レテが窓から顔を戻す。
「私は初めてですね」
「僕もだよ」
ヒルトが答える。
「私も」
フィリアも続く。
「俺もだな」
ログが。
窓枠へ肘を置きながら答えた。
「僕も初めてです」
ユノも頷く。
「ガオンは?」
アルトが尋ねる。
「俺は一度だけある」
「え!」
「あるんですか?」
レテも少し驚いたように聞く。
「ああ」
ガオンが頷く。
「かなり幼い頃だがな」
「へぇー!」
アルトが身を乗り出す。
「何しに行ったんだ?」
「昔過ぎてほとんど覚えていない」
「なんだよー」
「仕方ないだろ」
「でも」
ヒルトが笑う。
「ガオンなら色んな国に行ってそうだよね」
「そうでもないぞ」
「王子なのに?」
アルトが聞く。
「王子なら世界中を旅行していると思うな」
「してないの?」
「していない」
「王子なのに?」
「二度言うな」
「ははは!」
ガオンが。
小さく息を吐く。
「そういうお前はどうなんだ?」
「俺?」
「スパーナへ行ったことはあるのか?」
「ああ!」
アルトが。
ぽんと手を叩く。
「あるぞ!」
「そうなのか?」
「うん!」
「あれ?」
アルトが首を傾げる。
「言ってなかったっけ?」
「俺は聞いていない」
「そっか!」
「アルトくんは、以前少しだけ来たことがあるそうですよ」
レテが答える。
「前にスパーナの話をした時に聞きました」
「あの時、ガオンはいなかったからな」
ログも付け加える。
「そうだったか」
「うん」
アルトが頷く。
「昔、仕事でちょっとな」
「仕事?」
「ああ」
「何の仕事だ?」
「んー……」
アルトは。
少しだけ考える。
「色々!」
「色々ってなんだ」
「昔の仕事!」
「答えになってないぞ」
「いいだろ!」
アルトが笑う。
「どうせ俺も、そんなに覚えてないし!」
「お前もか」
「ガオンと一緒だな!」
「一緒にするな」
「でも」
レテが。
アルトを見る。
「前に来た時は、街を見て回ったりはしてないんですよね?」
「うん」
「じゃあ今回は、前とは全然違いますね」
「違う?」
「今回はお仕事じゃありませんから」
「…………」
アルトが。
ぱちぱちと瞬きをする。
「王国祭を見て」
レテが続ける。
「みんなでご飯を食べて、街を回って」
「おお……」
「旅行です」
「…………」
アルトが。
窓の外へ目を向ける。
流れていく景色を。
少しだけ眺めて。
「そっか」
そして。
にっと笑った。
「じゃあ今回はちゃんと遊べるんだな!」
「そういうことです」
「楽しみになってきた!」
「最初から楽しみにしてたじゃん」
フィリアが言う。
「もっと楽しみになった!」
「はいはい」
「そういやさ」
ログが。
身体を起こす。
「王国祭って、結局何やんだ?」
「あ」
「…………」
アルトも。
レテを見る。
「何やるんだ?」
「知らなかったんですか⁉︎」
「祭りだろ?」
「そうですけど!」
「屋台ある?」
「そこなんですね……」
「肉あるかな」
「お前、そればっかだな」
「フィリアも肉食いたいだろ?」
「食べたい」
「即答じゃねぇか」
「お肉は別でしょ」
「何が別なんだよ」
「ふふっ」
レテが笑う。
「王国祭は、スパーナで毎年開かれている大きなお祭りですよ」
「毎年?」
「はい」
「かなり人が集まるみたいだね」
ヒルトが続ける。
「街中に屋台も出るって聞いたよ」
「おお!」
「やった!」
アルトとフィリアが。
同時に反応する。
「お前ら……」
ログが呆れる。
「他にも色々あるみたいですよ」
ユノが口を開く。
「催し物や、普段は見られないものが公開されたり」
「見られないもの?」
アルトが聞き返す。
「そうですね。王国祭ですから」
「へぇー!」
「何があるんだろうな!」
「それを楽しみにしておけばいいんじゃない?」
ヒルトが笑う。
「確かに!」
「アルトくん」
「ん?」
「着く前に全部知ってしまったら、楽しみが減っちゃいますよ」
「おお……」
アルトが。
納得したように頷く。
「じゃあもう聞かない!」
「極端ですね」
「でも屋台は絶対行く!」
「それはもう聞いてるじゃん」
「肉!」
「分かったって」
「魚も!」
「増えた」
「甘いのも食べたいな」
ヒルトが言う。
「私も!」
「僕は麺があれば食べたいですね」
ユノが笑う。
「王国祭に麺あるかな?」
「探せばあるんじゃない?」
「じゃあみんなで探そうぜ!」
「お前は何でも楽しそうだな」
ログが笑う。
「楽しいだろ!」
「まだ着いてねぇぞ」
「向かってるから楽しい!」
「…………」
ログが。
一瞬黙る。
「まぁ」
窓の外を見る。
「それは分からんでもねぇな」
「だろ!」
ガタゴト。
ガタゴト。
馬車は。
変わらず街道を進んでいく。
それからも。
王国祭で何をするか。
何を食べるか。
そんな話がしばらく続いていた。
「…………ふぁぁ」
やがて。
ログが。
大きな欠伸をした。
「ログ、眠いの?」
「あ?」
アルトが聞くと。
ログは眠そうに目を擦る。
「誰かさんのせいで、朝から身体動かしたからな……」
「日課?」
「お前の日課な」
「あれくらいで疲れたのか?」
「拳立て千回、腹筋千回、スクワット千回やった後に言われると腹立つな」
「素振りもしたぞ!」
「それはお前だけだ!」
「…………」
隣で。
ガオンも小さく欠伸をする。
「あ!」
アルトが指差す。
「ガオンも眠そう!」
「……誰のせいだと思っている」
「日課?」
「お前の日課だ」
「二人とも同じこと言ってる!」
「同じ目に遭ってるからな」
「全くだ」
ログとガオンが。
揃って息を吐く。
「着くまで半日あるんだろ?」
「ああ」
「なら俺は少し寝る」
ログが。
座席へ深く身体を預ける。
「俺もそうする」
ガオンも。
腕を組んで目を閉じた。
「えー!」
アルトが声を上げる。
「寝るの⁉︎」
「寝る」
「せっかくの旅行だぞ!」
「まだ馬車の中だろ」
「外見ようぜ!」
「お前が見てろ……」
「ガオン!」
「…………」
「ガオン?」
「…………」
「もう寝た⁉︎」
「静かにしてやれよ」
ログが。
目を閉じたまま言う。
「ログは起きてんじゃん!」
「今から寝るんだよ」
「えー……」
アルトが。
不満そうに窓へ顔を戻す。
「ふふっ」
隣から。
レテの笑い声が聞こえた。
「アルトくん」
「ん?」
「私は起きてますよ」
「…………!」
アルトの顔が。
ぱっと明るくなる。
「じゃあレテ! あっち見よう!」
「はいはい」
「さっきから気になってたのがあるんだ!」
「どれです?」
「あれ!」
アルトが。
窓の向こうを指差す。
「ずっと馬車と同じ方向に飛んでる!」
「あ、さっきの鳥ですね」
「やっぱり同じやつだよな!」
「多分そうですね」
再び。
窓の外を眺めながら話し始める二人。
「…………」
目を閉じたログの眉が。
ぴくりと動いた。
「……寝れるか?」
「…………」
ガオンから。
返事はなかった。
「お前、本当に寝るの早ぇな……」
ガタゴト。
ガタゴト。
賑やかな声を乗せて。
馬車はスパーナへと。
ゆっくり進んでいった。




