道中
◇ ◇ ◇
「お、あれじゃねぇか?」
ログが指差した先。
街道沿いの乗り場に。
一台の大きな馬車が停まっていた。
前には二頭の馬。
その後ろには。
屋根付きの大きな客車が繋がっている。
「でかっ!」
アルトが声を上げる。
「七人ですからね」
レテが答えた。
「荷物もありますし、これくらいの方がゆったり乗れますよ」
「これでスパーナまで行くの?」
「はい。半日くらいですね」
「半日かぁ……」
アルトが。
馬車の周りをぐるりと見回す。
「ずっと乗ってんの?」
「途中で休憩はあると思いますけど、基本的にはそうですね」
「…………」
「アルトくん?」
「暇じゃない?」
「まだ乗ってもいないのに⁉︎」
「ははは!」
ヒルトが笑う。
「七人もいるんだから大丈夫だよ。話してたらすぐじゃない?」
「そっか!」
「単純だなぁ」
フィリアが呟く。
「おーい! あんたらスパーナまでの客かい?」
御者台から。
男が声をかけてきた。
「はい!」
レテが返事をする。
「七人です!」
「あいよ! 荷物は後ろに積んどくれ! 準備できたら乗っていいぞ!」
「ありがとうございます!」
「よーし!」
アルトが荷物を持ち上げる。
「乗ろうぜ!」
「待て待て」
ログが。
その肩を掴んだ。
「荷物積めっつってんだろ」
「あ」
「話聞けよ……」
◇
それぞれの荷物を。
客車の後ろへ積み込んでいく。
「これで最後だな」
ログが荷物を置く。
御者が。
積み込まれた荷物を紐で固定していく。
「よし! 預かっとくから乗ってくれ!」
「はーい!」
真っ先に返事をしたアルトが。
客車へ飛び乗った。
「アルトくん! 危ないですよ!」
「大丈夫だって!」
「そういう人が転ぶんですよ!」
「転ばないって!」
アルトは。
さっそく客車の中を見回す。
向かい合うように置かれた長椅子。
左右には窓があり。
そこから外の景色がよく見える。
「お!」
アルトの目が輝いた。
「ここ!」
迷うことなく。
窓際へ腰を下ろす。
「早ぇな」
続いて。
ログが乗り込んでくる。
「俺も窓際」
「反対空いてるぞ」
「んじゃ、そっち」
ログが。
アルトの向かいへ座った。
「僕はどこでもいいかな」
ヒルトも客車へ入り。
空いている席へ腰を下ろす。
「じゃあ私ここ」
その後ろから乗り込んだフィリアが。
当然のように。
ヒルトの隣へ座った。
「…………」
ログが。
二人を見る。
そして。
僅かに口元を緩めた。
「……何?」
フィリアが気づく。
「いや?」
「なんでニヤニヤしてんの?」
「別に?」
「気持ち悪い」
「おい」
「何の話?」
ヒルトだけが。
何も分かっていない顔で首を傾げる。
「なんでもねぇよ」
ログは笑いながら。
窓の外へ顔を向けた。
「?」
「では、私も」
続いて。
レテが馬車へ足をかける。
「レテ、足元気をつけてね」
「ありがとうございます」
ヒルトに声をかけられ。
レテがゆっくりと客車へ乗り込む。
「あ! レテ!」
「はい?」
呼ばれて。
レテが顔を上げる。
窓際に座っていたアルトが。
自分の隣を。
ぽんぽんと叩いていた。
「ここ座れよ!」
「私ですか?」
「うん!」
アルトが。
窓の外を指差す。
「一緒に外見よう!」
「ふふっ」
レテが笑う。
「分かりました」
そのまま。
アルトの隣へ腰を下ろした。
「ほら! ここからよく見えるぞ!」
「まだ出発してませんよ?」
「出発したら見えるだろ!」
「それはそうですけど」
「楽しみだな!」
「はい」
嬉しそうに窓の外を見るアルトに。
レテも小さく笑った。
「僕も失礼します」
ユノが乗り込み。
空いている場所へ腰を下ろす。
そして。
最後にガオンが乗り込んだ。
「…………」
ガオンが。
客車の中を見回す。
「狭いな」
「七人だからな!」
「お前が一番場所を取っている」
「え?」
アルトが。
自分を見る。
「俺?」
「足だ」
「あ」
思い切り伸ばしていた足を。
慌てて引っ込める。
「ごめん」
「全く……」
ガオンも腰を下ろす。
これで。
七人全員が揃った。
「準備いいかー?」
御者の声が聞こえる。
「はい! お願いします!」
レテが答えた。
「あいよ! スパーナまでは半日くらいだ! 途中で一度休憩を挟むからな!」
「はーい!」
アルトが。
誰よりも大きな声で返事をする。
「お前が返事すんのかよ」
「いいだろ!」
「じゃあ出すぞー!」
御者が手綱を握る。
馬が。
ゆっくりと歩き始めた。
ガタッ。
「おっ」
ガタゴト。
車輪が回り始める。
窓の向こうで。
噴水広場の景色が。
少しずつ後ろへ流れていく。
「動いた!」
「動きましたね」
「レテ! 見ろよ!」
「見てますよ」
「あれ!」
「はいはい」
「もうあんなに遠いぞ!」
「まだ全然近いですよ」
「ははは!」
アルトが。
楽しそうに窓へ張り付く。
「アルトくん、身を乗り出したら危ないですよ」
「分かってるって!」
「分かってる人はそんなに乗り出しません!」
レテが。
アルトの服を掴んで引き戻す。
「うおっ」
「もう……」
「だってよく見えるんだぞ!」
「窓から普通に見てください!」
「はーい」
その様子を見て。
ヒルトが笑う。
「なんか、子供の遠足みたいだね」
「誰が子供だ!」
「アルト」
フィリアが即答する。
「なんでだよ⁉︎」
「見てたら分かるでしょ」
「俺十八だぞ!」
「知ってる」
「じゃあ子供じゃない!」
「はいはい」
「絶対子供扱いしてる!」
笑い声を乗せながら。
馬車は。
ジーアスの街を離れていく。
建物が少なくなり。
やがて。
窓の向こうには。
どこまでも続く街道と。
朝日に照らされた景色が広がった。
「おお……!」
アルトが。
再び窓へ顔を向ける。
「レテ! すげぇぞ!」
「ふふっ。そうですね」
スパーナまでは。
およそ半日。
七人を乗せた馬車は。
王国祭の開かれる地へ向かい。
ゆっくりと街道を進んでいった。




