いざ、スパーナへ②
◇ ◇ ◇
「……まだ来ませんね」
噴水広場。
レテが街の時計を見上げる。
「まだ遅刻じゃないよ?」
フィリアが言う。
「そうですけど……」
レテは。
アルトたちが来るはずの道へ目を向けた。
「ログまで一緒なのに珍しいですね」
ユノも時計を見る。
「ログさんなら、こういう時は早めに来そうですけど」
「確かにね」
ヒルトが頷く。
「何かあったのかな」
「アルトと一緒だからじゃない?」
フィリアがさらりと言う。
「……否定できません」
「ひどくない?」
ヒルトが笑う。
「でも、アルトならそのうち――」
「おーい!」
「ん?」
遠くから。
聞き慣れた声が飛んできた。
「急げ急げー!」
「ほら」
フィリアが笑う。
「来た」
「本当に走ってきましたね……」
レテが苦笑する。
朝の人通りの向こうから。
アルトが。
大きく手を振りながら走ってくる。
その後ろには。
ログ。
そして――。
「…………あれ?」
レテが目を瞬いた。
「ガオン?」
「え?」
ヒルトも目を凝らす。
「あ、本当だ」
「なんでガオンがいるの?」
フィリアも首を傾げた。
「ガオンさん……?」
ユノも。
少し驚いたように三人を見る。
「そういえば」
ヒルトが呟く。
「あの日、ガオンだけいなかったよね」
「はい」
ユノが頷く。
アーヴェルに呼び出された時。
ガオンだけは。
その場にいなかった。
だから。
その後に決まったスパーナ行きのことも。
知らないはずだった。
「レテー!」
アルトが手を振る。
「おはよー!」
「おはようございます!」
三人が。
そのまま噴水広場へ駆け込んでくる。
「間に合ったー!」
「はぁ……はぁ……」
ログが。
膝へ手をつく。
「お前が……急げって言うから……」
「走りゃ間に合っただろ!」
「だから……誰のせいで……!」
「全くだ……」
ガオンも。
珍しく息を切らしていた。
「…………」
そんな三人を。
レテたちはじっと見る。
「ん?」
アルトが首を傾げた。
「どうした?」
「アルトくん」
「ん?」
レテが。
ガオンを見る。
「ガオンは……?」
「ガオン?」
「なんで一緒にいるんですか?」
「随分な言い方だな」
「あっ!」
レテが慌てる。
「違います! そういう意味じゃなくて!」
「分かっている」
ガオンが小さく笑う。
「ガオン、あの時いなかったじゃないですか」
「あの時?」
「アーヴェル隊長に呼ばれた時です。その後にスパーナへ行くって決めたので……」
「ああ」
「それなら俺が教えた!」
アルトが。
得意げに胸を張る。
「ログの家に行く途中で会ったんだ!」
「なるほど」
レテが頷く。
「ちゃんと会えたんですね」
「おう!」
「偶然な」
ログが息を整えながら付け加える。
「…………」
「アルトくん?」
「会えたんだから同じだろ!」
「まぁ、そうですね」
「いいんだ……」
フィリアが呟く。
「それで」
ヒルトが。
ガオンの背負っている荷物へ目を向ける。
「その荷物は?」
「ん?」
ガオンが。
自分の荷物を見る。
「旅行用だが」
「旅行用?」
「ああ」
「…………」
ヒルトが瞬きをする。
フィリアも。
レテも。
ユノも。
同じようにガオンを見る。
「俺も行くぞ」
「どこに?」
フィリアが聞く。
「スパーナ」
「「「「え⁉︎」」」」
四人の声が重なった。
「なんだ、その反応は」
「いや、聞いてないから!」
フィリアが即答する。
「私も初耳です!」
「僕も聞いてないよ」
「僕もですね」
レテ。
ヒルト。
ユノも続く。
「…………あれ?」
アルトが。
ログを見る。
「言ってなかったっけ?」
「言ってねぇな」
「そうだっけ?」
「俺らはずっと一緒だったからな」
ログがガオンを見る。
「こいつが来るの、普通になってた」
「あー!」
アルトが手を叩く。
「確かに!」
「お前たち……」
ガオンが呆れたように息を吐く。
「ふふっ」
レテが笑った。
「でも、ガオンも一緒なんですね」
「ああ」
「それなら七人ですね」
「人数多い方が楽しいじゃん」
フィリアも笑う。
そして。
ふと。
ガオンを見る。
「……でもさ」
「なんだ?」
「王族が普通に旅行していいの?」
「今更だろ」
「…………」
フィリアが少し考える。
「あ、そっか」
「納得するの早いね」
ヒルトが笑う。
「ガオンさんですからね」
ユノも笑った。
「どういう意味だ」
「褒めてますよ」
「絶対違うだろ」
「それより!」
アルトが。
時計を指差す。
「早く行こうぜ! 遅刻する!」
「まだ間に合いますよ」
「え?」
レテの言葉に。
アルトが時計を見る。
「……そうなの?」
「はい」
「…………」
アルトが。
後ろを見る。
ログ。
ガオン。
二人とも。
汗だくだった。
「…………」
「アルト」
「ん?」
「何か言うことあるよな?」
「…………」
「アルト?」
「……間に合ってよかったな!」
「お前ぇ!」
「ははは!」
「笑ってんじゃねぇ!」
「三人とも、何してたの?」
フィリアが聞く。
「日課!」
アルトが即答する。
「…………」
四人の視線が。
一斉にアルトへ集まった。
「日課?」
ヒルトが聞き返す。
「おう!」
「今日も?」
「もちろん!」
「出発の日なのに?」
「日課だからな!」
「……なるほど」
ヒルトが。
ゆっくりとログとガオンを見る。
「もしかして二人も?」
「……聞くな」
「……自分で言ったことだからな」
ログとガオンが。
揃って遠い目をする。
「ちなみに」
ユノが興味深そうに尋ねる。
「どれくらいやるんです?」
「拳立て、腹筋、スクワット千回ずつ!」
「…………」
「あと素振り千回!」
「…………」
ユノの糸目が。
ほんの僅かに開く。
「それを……今朝?」
「おう!」
「二人も?」
「最後までやったぞ!」
「なんでお前が自慢げなんだよ……」
「…………」
ユノは。
静かにログの肩へ手を置いた。
「お疲れ様です」
「……ありがとな」
そして。
ガオンにも目を向ける。
「ガオンさんも」
「……ああ」
「なんで俺にはないの⁉︎」
「アルトくんは元気じゃないですか」
レテが笑う。
「元気!」
「なら大丈夫です」
「なんか納得いかない!」
「ふふっ」
朝の噴水広場に。
笑い声が広がる。
「さて」
ヒルトが荷物を持ち直した。
「全員揃ったし、そろそろ行こうか」
「はい!」
「おう!」
アルトが。
勢いよく腕を上げる。
「スパーナ行くぞー!」
「おー!」
ログが腕を上げる。
「さっきまで死にそうだったのに元気になったね」
フィリアが笑う。
「旅行だからな!」
「それとこれとは別だ!」
「それ、さっきも言ってたな」
ガオンが呆れる。
「では、行きましょう」
レテが歩き出す。
アルト。
レテ。
ログ。
ヒルト。
フィリア。
ユノ。
そして。
ガオン。
七人は。
王国祭が開かれる国。
スパーナへ向けて。
歩き出した。




