真実は俺が見つける
◇
ガイスト軍事局。
ユノの部屋。
「キュウ。出ておいで」
呼びかけると。
淡い光がふわりと浮かんだ。
青白い炎が集まり。
やがて。
一匹の小さな狐の姿を形作る。
「キュウ?」
青白い狐の精霊――キュウ。
周囲に浮かぶ小さな火の玉を揺らしながら、僕を見上げている。
「キュウ」
「キュ?」
「僕なりに、どうやったら強くなれるか考えました」
「キュウ!」
「いい返事です」
僕は傍らに置いていた錫杖を手に取った。
魔器――《燈環》。
先端についた金属環が。
シャラン。
小さな音を立てる。
「やっぱり」
《燈環》をキュウへ見せる。
「霊器を使えるようになるのが、一番だと思うんです」
「キュウ!」
「そうでしょう!」
キュウが元気よく尻尾を振る。
よし。
「では、その勢いで――」
《燈環》を差し出す。
「この中へ!」
「…………」
「…………」
「キュ?」
キュウが首を傾げた。
「……ですよねー」
そんな簡単にいくなら。
とっくに霊器になっている。
「はぁ……」
《燈環》を床へ置き。
そのままベッドへ倒れ込んだ。
「みんな、どうやって霊器にしたんでしょうねぇ……」
「キュウ?」
「レテさんに聞いても、ログさんに聞いても……結局はキッカケみたいな感じでしたし」
キュウがベッドへ飛び乗る。
僕の横へ来ると。
丸くなった。
「キュウは霊器になりたいですか?」
「キュウ!」
「即答ですね」
頭を撫でる。
気持ちよさそうに。
キュウが目を細めた。
「僕もですよ」
もっと。
強くなりたい。
ルミナスでは。
僕なりに戦った。
それでも。
まだ足りない。
「……霊器かぁ」
天井を見る。
「…………」
グゥ〜。
「…………」
腹の虫が鳴った。
キュウが顔を上げる。
「……聞きました?」
「キュ」
「聞きましたか」
仕方ない。
「ご飯食べようかな」
身体を起こす。
「キュウも行きます?」
「キュウ!」
「では行きましょう」
《燈環》を持ち。
キュウと一緒に部屋を出た。
◇
「今日のご飯は何ですかねぇ」
食堂へ向かって廊下を歩く。
キュウは僕の肩の上。
角を曲がったところで。
「ん?」
前方に。
大きな人影を見つけた。
「…………」
見間違えるはずもない。
「バルガス隊長」
「ぶつぶつぶつ……」
「…………」
何かを読んでいる。
紙の束を片手に持ち。
難しい顔をしながら、何やら呟いていた。
「バルガス隊長!」
「あ?」
大きな身体がこちらを向く。
「……ユノか?」
「はい」
「お前……なんでここにいる?」
「なんでって?」
「休暇貰ったんだろ?」
「ああ」
そういうことですか。
「帰省しようにも、家はメルカディアの近くの街ですからね」
「……あぁ」
「行って帰ってきたら、休みが終わっちゃいますよ」
「そういや……」
バルガス隊長が顎を撫でる。
「確か商家の生まれだったか」
「はい」
実家へ帰るのが嫌なわけではない。
ただ。
今回の休暇では、ちょっと遠すぎる。
「そういう隊長こそ」
「あ?」
「何してるんです?」
「俺か?」
「さっきからずっと、ぶつぶつ言ってましたよ」
「…………」
バルガス隊長が手元へ目を落とす。
「これだ」
「?」
差し出された紙を見る。
「……これ」
「ああ」
見覚えがある。
「セトさんの手記ですか?」
「そうだ」
「まだ調べてたんですね」
「まあな」
「何か分かりました?」
「…………」
バルガス隊長の眉間に皺が寄る。
「全くだ」
「全くですか」
「ああ」
紙を一枚捲る。
「セトにセブランのことを話した奴については書かれてねぇ」
「…………」
「だが」
隊長の指が止まった。
「妙なことが書いてあってな」
「妙なこと?」
「ああ」
「何です?」
「…………」
バルガス隊長は答えない。
「隊長?」
「まだ憶測だ」
手記を閉じる。
「気にするな」
「……気になりますよ」
「忘れろ」
「そんな言い方されたら余計気になりますって」
「うるせぇ」
「…………」
僕は。
手記を見る。
そして。
ずっと。
胸の奥に残っている名前を口にした。
「……それは」
「ん?」
「シャドラさんも、関係してるんですか?」
「…………」
バルガス隊長の表情が止まった。
「…………」
「隊長」
「……それも憶測だ」
「でも――!」
「ユノ」
低い声。
思わず。
口を閉じる。
「…………」
「現に、あの時」
バルガス隊長が手記を握る。
「シャドラの遺体もあった」
「…………」
シャドラさん。
バルガス隊長の副官だった人。
ドンスさん。
スイータさん。
アルパさん。
トイトイさん。
そして。
シャドラさん。
五人とも。
あの日。
死んだ。
「…………」
「この話は終わりだ」
「……はい」
「お前」
突然。
バルガス隊長が俺を見る。
「食堂に行くんだろ?」
「え?」
「腹減ってんじゃねぇのか?」
「……まあ」
さっき鳴ったくらいには。
「だったら」
バルガス隊長が手記を畳む。
「せっかくだ。外で食おう」
「外?」
「奢ってやる」
「…………」
「なんだよ」
「隊長が?」
「あぁ?」
「奢ってくれるんですか?」
「俺が言っただろうが!」
「珍しいなぁと思って」
「いらねぇなら食堂行け!」
「行きます!」
「即答か!」
「もちろんです」
「ったく……」
バルガス隊長が歩き出す。
「…………」
僕も。
その後を追おうとして。
「ユノ」
「はい?」
足を止める。
隊長は。
こちらを見ていなかった。
「……真実は」
大きな背中。
「俺が見つける」
「…………」
少しだけ。
胸の奥に残っていたものが軽くなる。
「……はい!」
「よし!」
バルガス隊長が勢いよく振り返った。
「何食いたい!」
「急に元気ですね」
「うるせぇ! 何でもいいぞ!」
「うーん……」
考える。
「……麺ですね」
「麺か!」
「はい」
「よし! とりあえず行くぞ!」
「店決まってないんですか?」
「歩きながら探しゃいい!」
「それで『とりあえず』なんですね」
「細けぇこと気にすんな!」
「キュウ!」
「ほら、キュウも呆れてますよ」
「今のは賛成だろ!」
「僕には分かります」
「適当言うな!」
「ふふっ」
思わず笑う。
手記のこと。
シャドラさんのこと。
気にならないわけじゃない。
でも。
隊長が調べると言った。
だったら。
僕は。
僕にできることをしよう。
「隊長」
「あ?」
「大盛りでもいいです?」
「……普通にしろ」
「何でもいいって言ったじゃないですか」
「店すら決まってねぇんだよ!」
「じゃあ大盛りがある店にしましょう」
「お前なぁ!」
僕と隊長の声が。
軍事局の廊下に響く。
「キュウ!」
肩の上では。
キュウが楽しそうに尾を揺らしていた。




