↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

532/672

日課

     ◇


「ふっ、ほっ、ふー!」


 両手の拳を地面につけ。


 身体を沈める。


 そして。


 もう一度、持ち上げる。


「……九百九十九!」


 最後にもう一回。


「千っ!」


 ぐっと腕を伸ばして。


 勢いよく立ち上がった。


「よし! 拳立て千回っと!」


 腕をぶらぶらと振る。


 朝。


 ログの家には、家の裏にちょっとした庭がある。


 昨日見つけて。


 これならちょうどいいと思ったから、今日は朝から借りて日課をこなしていた。


「……朝からよくやるな」


 縁側の方から声がする。


 ガオンだ。


 その隣では。


「全くだ……ふぁぁ……」


 ログが大きな欠伸をしていた。


「日課だからなぁ。もう染み付いてんだ」


「日課ねぇ……」


 ログが眠そうな目で俺を見る。


「フーガだっけ? そいつに言われてんのか?」


「いや、これはバルド」


「…………」


 ログが黙る。


 ガオンも黙る。


「なんだよ?」


「人が多くて覚えきれん」


 ガオンが真顔で言った。


「俺もだから安心していいぞ」


「なんでだよ! 昨日教えただろ!」


「一気に何人も聞いたんだぞ」


「そうだけどさぁ」


 ログが庭へ下りてくる。


「で?」


「ん?」


「次は何やんだ?」


「次は素振りー!」


 俺は傍に置いてあった《砕》を手に取る。


「それは誰に言われたんだ?」


 今度はガオン。


「これはゲンザ!」


「また増えた……」


 ログが頭を抱える。


「昨日も話しただろ?」


「名前と顔がまだ一致しねぇんだよ」


「ゲンザは分かりやすいぞ! でっかくて、声でかくて、酒飲んで――」


「待て。それ以上増やすな」


「なんでだよ!」


「……ったく」


 ログが頭を掻く。


「傭兵部隊に拾われて育てられたねぇ」


「まあ」


 ガオンが腕を組み。


 日課を続ける俺を上から下まで見る。


「ある意味、納得だな」


「何が?」


「色々だ」


「色々ってなんだよ」


 二人とも答えない。


「…………?」


 昨日。


 俺はログとガオンに、家族のことを話した。


 幼い頃のこと。


 どうやって育てられたのか。


 誰から何を教わったのか。


 思い出せることを話していたら。


 いつの間にか、随分と遅い時間になっていた。


 途中。


 ログとガオンが若干引き攣った顔をしていた気もするけど。


 まあ。


 それはいいや。


「よし!」


 《砕》を構える。


 足を開き。


「いーち!」


 振る。


「にー!」


 もう一度。


「さーん!」


「……朝っぱらからうるせぇ」


「数えないと分かんなくなるだろ!」


「心の中で数えろよ!」


「それだと途中で忘れる!」


「知るか!」


「朝から元気だねぇ、あんた達」


「ん?」


 三人で声のした方を見る。


「早いね。昼まで寝てるのかと思ってたよ」


 ログのお母さんが家から出てきた。


「アルトのバカが起きて騒いだんだよ」


「誰がバカだ!」


「『日課やんなきゃ!』って朝っぱらからな」


「だって日課だぞ!」


「ふーん」


 お母さんが俺を見る。


「偉いねぇ」


「え?」


「毎日やってるんだろ?」


「はい!」


「ほら。あんたも見習いな!」


「なんで俺に来んだよ!」


「朝から欠伸ばっかりしてるからだよ!」


「休みなんだからいいだろ!」


「はいはい。朝ごはんもできてるから食べな」


「おはようございます」


 ガオンが頭を下げる。


「あ! おはよーございまーす!」


「あぁー! おはよー! 二人とも!」


 お母さんがぱっと笑う。


「このバカには言ったけど、朝ごはんあるからねぇ!」


「ありがとうございますー!」


「ありがとうございます」


「ああ、それと」


 お母さんが俺を見る。


「アルト君!」


「はい?」


「ロナーが鍛冶場にいるから、いつでも魔器持っておいでってよ!」


「分かりました!」


 俺は《砕》を構え直す。


「あと九百五十回素振りしたら持ってきます!」


「…………」


 お母さんの動きが止まった。


「……何回やってんだい?」


「千回です!」


「素振りだけじゃねぇぞ」


 ログが横から口を挟む。


「拳立て、腹筋、スクワットを千回ずつ。今は素振り千回だと」


「…………」


 お母さんが俺を見る。


 次に。


 地面を見る。


 それからまた俺を見る。


「……すごいねー」


「はい!」


「褒めてねぇと思うぞ」


「え?」


「いや」


 ログが首を振る。


「もういい」


「なんだよ?」


「いいから続きやれ」


「言われなくても!」


 《砕》を握り直す。


「五十一!」


 振る。


「五十二!」


「アルト」


「ん?」


「九百五十回残ってんなら、五十一じゃなくて――」


「…………」


「…………」


「あ」


「もう数分かんなくなってんじゃねぇか!」


「ログが話しかけるからだろ!」


「俺のせいかよ!」


「ははっ」


 ガオンが笑う。


「笑ってないで教えてくれよ!」


「最初からやればいい」


「えぇ⁉︎」


「それが確実だな」


「そんなぁ!」


「あんた達! 朝ごはん冷めるよー!」


「はーい!」


 家の中から響く声に返事をしながら。


 俺は《砕》を見る。


「…………」


 まあ。


 飯食ってからでもいいか。


「先に食べよ!」


「切り替え早ぇな!」


 このあと。


 ロナーさんに《砕》を見てもらう。


 ただのメンテナンス。


 その時の俺は。


 それくらいにしか思っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。