俺の役目は終わった
セリオは苛立ちを隠さず、眉を寄せた。
「ここまで盛り上げといて、帰るとか言わねぇよな?」
カイルは空へ昇る信号弾を一瞥すると、《裂兎》を下ろした。
「俺の役目は終わった。」
「逃げられるとでも思ってんのか?」
セリオの周囲へ、再び淡い緑色の光が集まり始める。
だが、カイルは構え直そうとしなかった。
「そこの奴が死ぬぞ?」
「あ?」
カイルが《裂兎》の切っ先で、倒れているヒルトを示す。
セリオが振り返った。
先ほどよりも顔色が悪い。
呼吸も浅く、胸元はほとんど動いていなかった。
「ちっ!」
セリオはすぐにヒルトのもとへ駆け寄る。
「ヒルト!」
頬を軽く叩く。
「おい! ヒルト・エルナー!」
その名を聞いた瞬間。
立ち去ろうとしていたカイルの足が止まった。
「……エルナーだと?」
セリオが顔を上げる。
カイルはヒルトを見つめていた。
先ほどまで戦いを楽しんでいた表情は、もうない。
真剣な眼差しで、倒れたヒルトを確かめるように見つめている。
「おい、セリオ・バルディア。」
「なんだよ。」
「そこのガキにも伝えておけ。」
カイルはヒルトから視線を逸らさないまま、低く言った。
「また会いに来るとな。」
「あ?」
セリオの眉間に皺が寄る。
「こいつに何の――」
カイルが《裂兎》を横薙ぎに振るった。
「《爆風陣》」
森中の風が、一気に膨れ上がった。
地面が爆ぜる。
折れた枝や石、土煙が巻き上げられ、巨大な暴風となってセリオへ襲いかかる。
「くそが!」
セリオはヒルトを抱き寄せ、その身体を庇うように覆い被さった。
次の瞬間。
爆風が二人を呑み込んだ。




