霊器の、その先
「……土の霊器だと?」
カイルは《鎮岳》を見つめたまま、目を細めた。
セリオは大盾を肩へ担ぎ、口元を歪める。
「一つだけなんて、誰が言った?」
「……精霊に愛された男、か。」
カイルの口元に、愉快そうな笑みが浮かんだ。
「化け物め。」
「あぁ、褒め言葉として受け取っておくよ。」
短い沈黙。
二人の間を、風が通り抜ける。
先に動いたのは、カイルだった。
「《天翔》」
足元で風が爆ぜる。
カイルの身体が宙へ舞い、そのまま一直線にセリオへ飛び込んできた。
《裂兎》の切っ先へ、風が牙のように集まっていく。
「《牙風突》!」
鋭い刺突とともに、巨大な風の牙が放たれた。
セリオは《鎮岳》を正面へ構える。
「《岩牙砕衝》!」
大盾の表面が隆起した。
いくつもの岩の牙が生え、そのままセリオは地面を蹴る。
守るための盾を前へ突き出し、迫るカイルへ真正面から突っ込んだ。
風の牙と岩の牙が激突する。
轟音。
圧縮された風が弾け、大地から剥がれた岩片が周囲へ飛び散った。
二つの術は互いを削り合い、同時に砕け散る。
衝撃に押され、二人は左右へ弾かれた。
セリオは《鎮岳》を地面へ滑らせながら着地する。
カイルも風を纏い、音もなく地面へ降り立った。
再び距離が開く。
「埒が明かないな。」
カイルが《裂兎》を構え直した。
「そりゃ、こっちの――」
言いかけたセリオの表情が変わった。
空気が沈む。
カイルの周囲へ集まり始めた風が、先ほどまでとは明らかに違っていた。
鋭い。
重い。
触れただけで、肉体ごと引き裂かれそうな気配。
セリオは《鎮岳》を握る手へ力を込めた。
「貴様は、必殺で仕留める。」
カイルの声から、笑みが消える。
だが、その言葉を聞いたセリオは、逆に声を上げて笑った。
「ははは!」
《鎮岳》を光へ戻す。
「あんた最高だよ!」
土色の光が消え、セリオの両手が空になる。
「隊長の話より、やっぱ強えー!」
カイルが《裂兎》を低く構えた。
風が螺旋を描き、その刀身へ集約されていく。
セリオも笑みを消す。
「いいよ。」
「……何?」
「霊器の、その先を見せてやる。」
一瞬。
カイルの目が見開かれた。
そして次の瞬間、心底嬉しそうに笑った。
「……ははは。」
風が激しく荒れ狂う。
「来い! セリオ・バルディア!」
セリオは右手を前へ伸ばした。
淡い緑色の光が、その指先へ集まっていく。
風の中で、翼の形をした光が広がった
「駆け巡れ……フィン――」
カイルも《裂兎》を引き絞る。
「《裂鎧の――》」
パァン。
乾いた破裂音が、空高く響いた。
二人の動きが止まる。
木々の隙間から、赤い光が空へ昇っていく。
信号弾だった。
カイルの視線が、僅かにそちらへ動く。
先ほどまで膨れ上がっていた風が、ゆっくりと静まっていった。
「……時間か。」
セリオは伸ばしていた手を下ろす。
「おい。」
苛立ちを隠さず、眉を寄せた。
「ここまで盛り上げといて、帰るとか言わねぇよな?」




