精霊の悪戯
それから運ばれてきた料理は。
どれも美味しかった。
肉や魚介。
色とりどりの野菜。
その中でも少し変わっていたのが、僕たちのテーブルに置かれた大きな鉄板だった。
最初だけ店員さんが焼き方を見せてくれて。
あとは自分たちで好きなものを焼いて食べるらしい。
熱せられた鉄板の上に肉を置けば。
――ジュウッ!
小気味のいい音とともに脂が弾ける。
香ばしい匂いが一気に広がり。
「…………」
フィリアの目が肉を追っていた。
「まだだよ」
「分かってる」
「すごい見てるけど」
「見てるだけ」
本当かな。
肉の表面に焼き色がついたところで裏返す。
もう片面にも火が通り。
「そろそろいいかな」
「いい?」
「いいよ」
言い終わるより早く。
フィリアが肉を取った。
「熱いから気をつけてね」
「うん」
少し冷ましてから。
ぱくり。
「ん〜!」
頬いっぱいに肉を頬張る。
「おいひぃ!」
「ははは、ゆっくり食べなよ」
僕は笑いながら、鉄板の端で焼いていたエビを取る。
殻を剥いて一口。
「ん。これも美味しい」
フィリアは肉を飲み込むと。
「ヒールも!」
「ん?」
「お肉焼いてあげるから食べて!」
「食べてるよ」
「全然食べてない」
「そんなことないって」
そう言いながら笑う。
実際。
そこまで肉を食べてはいなかった。
もちろん美味しい。
でも。
「…………」
目の前ではフィリアが、それはそれは美味しそうに肉を食べている。
次の一枚を焼いて。
待ちきれないように眺めて。
焼けたら嬉しそうに頬張る。
それを見ていると。
なんというか。
自分で食べるよりも満足してしまう。
「ヒール」
「ん?」
「ほら」
焼けた肉が僕の皿へ置かれた。
「食べて」
「はいはい」
一口。
「ん!」
噛んだ瞬間、柔らかな肉から旨味が広がる。
「すっごいよ……肉汁の海だよ……」
「……それはちょっと言い過ぎじゃない?」
「いいから食べて!」
「食べてるって」
もう一口。
「ん! 確かに! 脂っこくなくて食べやすい!」
「でしょ!」
フィリアが胸を張る。
「なんでフィリアが得意げなの?」
「ふん! ほら! もっと食べなさい!」
「はいはい」
また肉が僕の皿へ。
……このままだと本当に肉しか食べなさそうだ。
「ほら、フィリアは野菜食べなよ?」
鉄板の端で焼けていた野菜をフィリアの皿へ置く。
「いらん!」
「即答?」
「お肉食べる」
「野菜も美味しいよ?」
「ヒールが食べて」
「僕に押し付けないでよ」
「お肉あげた」
「交換なの?」
「うん」
「ははは」
結局。
フィリアの皿に置いた野菜は、しばらくそのままだった。
◇
料理を食べ終え。
店を出る頃には、夜もすっかり深くなっていた。
「ふぁー!」
フィリアが大きく伸びをする。
「お腹いっぱい!」
「んー!」
僕も腕を上へ伸ばす。
「一年分お肉食べた気がする!」
「じゃあ、ヒールは一年間お肉食べないでね?」
「なんでよ?」
「一年分食べたんでしょ?」
「そういう意味じゃないって」
「へへへ!」
フィリアが笑いながら、丘を下り始める。
「危ないから走らないでよ」
「大丈夫!」
「転んでも知らないよ?」
「転ばないもん」
そう言いながら。
フィリアは少し先まで小走りで下っていく。
そして。
不意に立ち止まった。
くるりと。
こちらを振り返る。
「ヒール!」
「ん?」
夜風に。
フィリアの髪が揺れる。
「今日はありがとう!」
満面の笑み。
「最高の一日だった!」
「…………」
一瞬。
言葉が出なかった。
「……こちらこそ」
「ふっふーん!」
満足そうに笑うフィリア。
「……さ、帰ろうか」
「えー! もう?」
「もうって……結構遅いよ?」
「まだ大丈夫」
「あんまり遅いと家族が心配するよ?」
「んー……」
フィリアが少し考える。
「……確かに」
「でしょ?」
「じゃあ……」
「ん?」
フィリアが僕を見る。
さっきまでとは違って。
ほんの少しだけ、言いづらそうに。
「近くまで送って?」
精霊の淡い光がフィリアの顔を照らす。
「…………」
あれ。
フィリアって……。
「ヒール?」
「あ、いや」
何を考えてるんだ、僕は。
「そのつもりだよ」
「ほんと?」
「こんな時間に一人で帰らせるわけないでしょ?」
「やった!」
さっきまでの表情が嘘みたいに明るくなる。
「じゃあ行こ!」
「はいはい」
僕の横まで戻ってきたフィリアが。
そのまま隣を歩き始める。
「…………」
今日一日。
何度も見たはずの笑顔。
いつも隊で一緒にいる。
何度も話して。
何度もくだらないことで笑ってきた。
なのに。
なんでだろう。
隣を歩くフィリアを見て。
ふと。
そんなことを思ってしまった。
――フィリアって。
こんなに可愛かったっけ?




