たまごサンド③
「うーん! 美味しい!」
ヒールがたまごサンドを一口食べた途端、嬉しそうに目を細める。
「粒マスタードが入ってる! あとは……クリームチーズかな?」
「ほんとだ!」
私も一口。
ふわふわの卵に、クリームチーズのまろやかな味。
その中に時折、カリッとした食感が混ざる。
「あ、ナッツも入ってる! 食感がいいね!」
「ね。本当に美味しい」
「うん!」
ヒールは今度はサラダを口に運ぶ。
「サラダも美味しい。胡麻の香りがするドレッシングだ」
「どれどれ……」
一口食べてみる。
「本当だ……」
香ばしい胡麻の香りに、少しだけ酸味のあるドレッシング。
さっぱりしていて、たまごサンドにもよく合う。
「……え、ここのお店凄くない?」
「ね。こんないいお店だったなんて……」
ヒールが店内を見渡してから、嬉しそうに笑った。
「来て良かった」
「……うん」
私も。
来て良かった。
でも――。
きっと。
どんなお店だったとしても。
私はヒールと来られただけで、嬉しかったと思う。
「んー、美味しい」
「…………」
たまごサンドを美味しそうに頬張る顔。
笑った顔。
サーヤの話をした時の、ちょっと困ったような顔。
カップルに間違われても、何にも分かってなさそうな顔。
今日だけでも。
知らなかったヒールの顔を、いっぱい見た。
全部。
全部、大切な時間。
「フィリア?」
「……え?」
「どうしたの?」
「ううん! なんでもな――」
そこで気づいた。
「……って、もう食べ終わったの⁉︎」
ヒールの皿。
さっきまであったはずのたまごサンドが、綺麗になくなっている。
「ははは……美味しくて、つい」
「早すぎない⁉︎」
「フィリアはゆっくり食べてね」
「…………ぷっ」
「?」
「ヒール、子供みたい」
「待って」
ヒールが真顔になる。
「フィリアにだけは言われたくない」
「何それ!」
「だってフィリアも美味しいもの見つけると――」
「私はこんな早く食べないもん!」
「どうかなぁ?」
「なにそれ! ははは!」
「ははは!」
窓から差し込む陽の光の中。
二人の笑い声が、小さな店内に混じっていった。
◇
「美味しかったなぁー!」
店を出たヒールが、満足そうに伸びをする。
「うん! デザートのプリンも美味しかったね!」
「ははは……ハートの形には驚いたけどね」
「あれは……ちょっと恥ずかしかったかも」
「カップル用だからかな?」
「た、多分ね!」
結局最後まで、ヒールは気にしていなかった。
もう。
本当にこの人は……。
「この後は、夜行くお店に一回寄って予約してから、スパーナの買い出しに行こうか」
「そうだね」
再び二人で歩き出す。
「ヒールは何見たいの?」
「うーん……セリオさんやリオネルさんへのお土産と、あとは服とかかな?」
「服?」
「うん」
ヒールが苦笑いする。
「今日服選んでる時に、何着か捨てられたからね」
「捨てられたの⁉︎」
「『こんなのいつ買ったの!』って怒られてさ」
「ふふっ」
「そんなに変だったかなぁ……」
「じゃあ、私が選んであげる!」
「ほんと?」
「うん!」
「あー、助かる! 僕そういうの苦手でさ」
「じゃあ――」
そこで、いいことを思いついた。
「ヒールも私の服選んで!」
「……えー」
「なんで嫌そうなの⁉︎」
「だって僕、苦手だって今言ったじゃん」
「私が着る服なら選べるでしょ?」
「余計難しくない?」
「大丈夫!」
「何が?」
「私、ヒールが選んでくれたら何でも嬉しいから!」
「…………」
「?」
ヒールが少し困ったように頭を掻く。
「それが一番困るんだけど……」
「決まりね!」
「え、もう決定?」
「決定!」
「……分かったよ」
「やった!」
さて。
ヒールはどんな服を選んでくれるんだろう。
自分の服を買いに行くはずなのに。
いつの間にか、そっちの方が楽しみになっていた。




