たまごサンド②
◇
窓際の席に腰を下ろす。
注文を済ませてから、改めて店内を見渡した。
決して広い店ではない。
白を基調とした壁に、所々チーク材が使われていて、素朴だけど温かみがある。
窓が多いからだろう。
柔らかな陽の光が店内いっぱいに差し込み、なんだか時間までゆっくり流れているように感じた。
八席ほどあるテーブルには、私達と同じくらいの歳の男女が数組。
少し離れた席では、老夫婦が一つのサンドイッチを分け合いながら楽しそうに話している。
「……いいお店だね」
「うん。なんか落ち着く」
「フィリア」
「ん?」
ヒールを見る。
さっきまで店内を眺めていたヒールが、真っ直ぐ私を見ていた。
「改めて……ありがとう」
「え?」
「僕が兄さんを追って無茶した時。追いかけてきてくれて」
「なに、そんな改まって」
思わずクスクスと笑ってしまう。
今更そんなことを言われるなんて思ってなかった。
けれど。
ヒールは笑わなかった。
「……嬉しかったんだ」
「?」
「あの時、フィリアが僕を追いかけて来てくれて」
「……うん」
「自分だってあんなにボロボロだったのに、それでも僕を助けてくれた」
ヒールの声は、いつもと変わらず優しい。
「だから……ちゃんと言っておきたくて」
少しだけ笑って。
「ありがとう、フィリア」
「…………」
「フィリアがいてくれるから、僕は今もこうして笑ってられる」
「――っ」
顔が。
一気に熱くなった。
なにそれ。
なにそれ……!
そんなの。
急に言うの、ずるい。
「フィリア?」
「な、なに⁉︎」
「……顔赤いけど」
「え⁉︎」
ヒールが窓の外を見る。
「あぁ、窓際ちょっと暑かったかな?」
「…………」
この男は。
「そ、そうだね! でも、お日様気持ちいいよ!」
「そう? 席変えたかったら言ってね」
「う、うん!」
……違う。
全然違う。
なんで分からないの⁉︎
「お待たせいたしました」
「!」
ちょうどその時、店員さんが料理を運んできた。
「たまごサンドとセットのサラダ、それからアイスティーとアイスコーヒーです」
「ありがとうございます。アイスティーは彼女に」
「か、彼女……」
小さく呟く。
ヒールは当然のように「そっちの女の子」という意味で言っただけなんだろうけど。
今はその言い方にも反応してしまう。
「はい、どうぞ」
私の前にアイスティーが置かれる。
すると店員さんが、にこっと笑った。
「あと、カップルの方にはサービスのデザートもご用意しておりますので、お食事の後にお持ちしますね」
「カッ……‼︎‼︎」
カップル⁉︎
「あはは、ありがとうございます」
「…………!」
ヒール⁉︎
なんで普通なの⁉︎
店員さんは笑顔のまま、別のテーブルへ向かっていった。
「カップルに間違われちゃったね」
「…………」
「フィリア?」
「……別にいいけど」
「そ?」
「うん……」
「ならいいけど――って、見て!」
「え?」
ヒールが目の前の皿を指差した。
「卵の量すごいよ!」
「…………」
確かに。
厚く焼かれた卵が、パンからはみ出しそうなくらい挟まっている。
「美味しそうだね。食べよう!」
「…………」
「フィリア?」
「……バカヒール」
「ん? なに?」
「なんでもない!」
「?」
「いただきます!」
「う、うん。いただきます!」
もう。
本当に。
なんでこんなに鈍いんだろう。
目の前で嬉しそうにたまごサンドへ手を伸ばすヒールを見ながら。
私は小さく頬を膨らませた。
――でも。
「…………ふふっ」
「?」
「今度はなに?」
「なんでもないよ」
「今日それ多くない?」
「気のせい!」
なんだかんだ。
こんなヒールだから、好きになったのかもしれない。




