たまごサンド
ねぇ、ヒール」
「ん?」
たまごサンドが美味しいと評判の店を探しながら、ヒールと並んで通りを歩く。
「スパーナに行ったら、何したい?」
「スパーナ?」
「うん! せっかく行くんだし!」
「あぁ、そうだなぁ……」
ヒールが少し考える。
「とりあえず、色々見て回りたいかな」
「それだけ?」
「それだけって」
「もっとあるでしょ! 食べたいものとか、行ってみたいところとか!」
「まだ何があるのかも知らないんだよ」
「私も!」
「じゃあ同じじゃん」
「むぅ……」
思わず頬を膨らませる。
「フィリアは?」
「王国祭!」
「即答だね」
「だってお祭りだよ⁉︎ 絶対いろんな屋台あるよ!」
「結局食べ物?」
「違うよ! 他にも色々見る!」
「例えば?」
「…………」
「…………」
「行ってから決める!」
「ははっ、僕と同じじゃん」
「私は王国祭って決めてるもん!」
「はいはい」
「その言い方!」
ヒールが楽しそうに笑う。
もう。
絶対適当に返事した。
そんなことを話しながら歩いていると。
ふと、さっきから気になっていたことを思い出した。
「…………」
「ん?」
「……ねぇ」
「どうしたの?」
「さっき言ってた……サーヤって、どんな子なの?」
「サーヤ?」
「うん」
「うーん……どんな子って言われてもなぁ」
「…………」
ヒールが少し考えて。
「世話焼きの妹……かな?」
「妹?」
「うん。血は繋がってないけど、ずっと同じ施設で育ったからね」
「あ……そっか」
妹。
そっか。
妹なんだ。
「今日もフィリアと出かけるって言ったら大騒ぎだったよ」
「え?」
「着替えてこいとか、この匂いのやつ付けろとか」
ヒールが自分の服の襟元を摘まむ。
ふわりと。
さっき待ち合わせた時にも感じた香りがした。
「これもサーヤが?」
「うん。僕はいらないって言ったんだけどね」
「ふーん……」
「最近シスターに似てきたなぁ」
「シスター?」
「施設の人。僕達を育ててくれた人だよ」
「へぇ……」
サーヤ。
世話焼きで。
ヒールとずっと一緒に育った女の子。
「…………」
「フィリア?」
「なに?」
「どうしたの?」
「別に?」
「そう?」
「うん」
……別に。
なんにも気にしてない。
妹なんだし。
うん。
「…………」
「?」
「ヒール」
「ん?」
「サーヤって……かわいい?」
「え?」
ヒールが目を丸くした。
「…………」
「…………」
なんで黙るの。
「まぁ……かわいいんじゃない?」
「……へぇー」
「?」
「そっかぁー」
「フィリア?」
「なに?」
「なんか怒ってる?」
「怒ってないよ!」
「そ、そう?」
怒ってない。
全然怒ってない。
「……でも、妹なんだよね?」
「そうだよ」
「そっか」
なら、いいけど。
……何がいいんだろ。
自分でもよく分からない。
「それより、店探さないと」
「あ、そうだった!」
「この辺だったと思うんだけど……」
ヒールが辺りを見回す。
通りにはいくつもの飲食店が並んでいた。
焼きたてのパンの香り。
香ばしく焼かれた肉の匂い。
店先に並べられた焼き菓子。
朝食を終えたばかりなのに、歩いているだけでまたお腹が空いてきそうだ。
「あっ!」
「どうしたの?」
「ヒール、あそこ!」
通りの角。
大きな窓の向こうに、色とりどりのサンドイッチが並んでいる店が見えた。
肉をたっぷり挟んだもの。
薄く切った野菜が何層にも重なったもの。
焼いた魚らしきものを挟んだものまである。
その中に。
「あった!」
厚めの卵を挟んだサンドイッチ。
店先の小さな立て札には、おすすめの品として紹介されている。
「たぶんここだね」
「美味しそう!」
「フィリア、まだ外だよ」
「早く入ろ!」
「はいはい」
扉を開けると。
カラン。
小さな鐘が鳴った。
「いらっしゃいませ!」
明るい声と一緒に。
焼きたてのパンと、いろんな具材の匂いが一気に鼻へ届く。
「うわぁ……!」
思っていたより種類が多い。
「ヒール! 見て! あれも美味しそう!」
「たまごサンド食べに来たんじゃなかったの?」
「それはそれ! これはこれ!」
「ふふっ、フィリアらしいね」
「どういう意味⁉︎」
「そのままの意味」
「もう!」
笑いながら、二人で並んだサンドイッチを眺める。
どれも美味しそうだけど。
今日はやっぱり――。
「たまごサンドにする!」
「僕も」
「同じだ!」
「それを食べに来たんだから当たり前でしょ」
「それもそっか!」
店員さんに注文を伝える。
窓際には、向かい合って座れる小さな席が空いていた。
ヒールと二人でそこへ向かう。
ただ一緒に歩いて。
一緒にお店を探して。
一緒に同じものを頼んだだけ。
なのに。
なんだか今日は。
そんな一つ一つが、いつもより楽しかった。




