初デート③
◇
朝ご飯を食べ終え、私は自分の部屋へ戻った。
そして。
「うーん……」
開け放った衣装棚の前で腕を組む。
「どれがいいかなぁ……」
いつもなら、こんなに悩まない。
着たいものを選んで、それで終わり。
なのに今日は、一着手に取っては鏡に合わせ、首を傾げて戻す。
「これ……いや、なんか違う」
次。
「こっちは……ちょっと動きづらいかな」
戻す。
「うーん……」
「初めてのデートなら、フィリアが一番好きな服を着たら?」
「うわぁぁぁぁ⁉︎」
飛び上がった。
「な、なんで⁉︎ いつからいるの⁉︎」
「最初からよ?」
振り返る。
ママが部屋の入口に立っていた。
「…………」
最初から?
全然気づかなかった。
(私が気が付かなかった……だと……)
いつの間に。
(この人……できる……!)
「フィリア?」
「!」
「なんか変なこと考えてる?」
「え⁉︎ いや! 何にも!」
「そう?」
「う、うん!」
危ない。
心まで読まれるところだった。
「あの……パパは?」
「もう仕事に行ったわよ?」
「あ、そっか……」
じゃあ。
今ここにはママと私だけ。
「…………」
衣装棚を見る。
ママを見る。
もう一度、衣装棚を見る。
「……ねぇ」
「なぁに?」
「どんな服がいいと思う?」
「初デート?」
「――⁉︎」
「ふふっ」
「…………」
もう。
誤魔化しても無駄か。
「……うん」
小さく答える。
「あらぁ」
「何その顔!」
「だって」
ママが近づいてきて――。
「かわいい!」
「わっ!」
ぎゅっと抱きしめられた。
「ちょ、ママ!」
「うちの娘が初デートかぁ」
「は、恥ずかしいから!」
「いいじゃない。嬉しいんだもの」
「もう……」
しばらくすると、ママはようやく腕を緩めた。
「いい? フィリア」
「ん?」
「どんな服が似合うか、じゃないのよ」
「え?」
ママが私の髪を優しく整える。
「あなたが心から好きな服を着て、ありのままでいればいいの」
「ありのまま……?」
「そっ!」
ママは笑った。
「だって、自分の好きな姿を見せられないなんて辛いじゃない?」
「…………」
「最初だけ頑張って、ずっと背伸びしてたら疲れちゃうわ」
そう言って、私の頬を両手で挟む。
「ありのままのフィリアが一番かわいいんだから!」
「そ、そうかな?」
「そうよ!」
即答だった。
「ママが保証します!」
「ママだからじゃない?」
「ママだから分かるの!」
「そういうもの?」
「そういうものよ!」
なんだそれ。
でも。
「……そっか」
少しだけ、肩の力が抜けた。
ヒールにどう見られるか。
そればっかり考えてた。
でも。
私が好きな服。
私が着ていて楽しい服。
「じゃあ……」
「はい!」
ママが衣装棚から一着取り出す。
「これとかどう?」
「うーん……」
身体に合わせて鏡を見る。
「かわいいけど……今日は違うかなぁ」
「じゃあこれは?」
「それは……」
受け取ってみる。
「好き……かな?」
「なら候補!」
「候補!」
ベッドの上に置く。
「これは?」
「好き!」
「じゃあこれも!」
「でもヒールはどっちが――」
「フィリア?」
「…………」
「誰が好きな服を選ぶんだっけ?」
「……私です」
「よろしい!」
「むぅ……」
なんか先生みたい。
それからも。
「これは?」
「ちょっと子供っぽくない?」
「かわいいわよ?」
「ママは全部かわいいって言うじゃん!」
「だってかわいいんだもの!」
「参考にならない!」
「失礼ね!」
あれでもない。
これでもない。
一度決めかけて。
やっぱり戻して。
鏡の前で何度も合わせて。
気づけばベッドの上には、候補の服が何着も並んでいた。
「…………」
「…………」
「ママ」
「なぁに?」
「増えてない?」
「増えたわね」
「決めるために呼んだんだけど」
「楽しくなっちゃった」
「もう!」
「ふふふっ」
結局。
フィリアの服選びは、まだまだ続くのだった。




