初デート?
静かになった部屋の中。
アルトは天井を見つめたまま、何かを考えている。
「……長くなるかも」
「いいよ」
ログが答える。
「俺が聞いたんだから」
「…………そっか」
アルトは小さく息を吐いた。
どこから話そう。
何を話そう。
少しだけ迷ってから――。
「俺の家族は――」
◇
翌朝。
「ん……」
窓から差し込む朝日が、フィリアの瞼を照らした。
「…………」
薄く目を開ける。
見慣れた天井。
自分の部屋。
軍施設の簡素な部屋とは違う、昔から変わらない景色だった。
「……朝かぁ」
枕元に手を伸ばし、時計を見る。
「…………」
もう一度見る。
「…………!」
勢いよく身体を起こした。
「十一時……噴水広場……」
昨日。
ヒールと約束した。
たまごサンド。
バーベキュー。
それから、三日後に行くスパーナのための買い物。
「今何時⁉︎」
時計を引っ掴む。
「……まだ大丈夫」
ほっと息を吐く。
遅刻するような時間じゃない。
むしろ、かなり余裕がある。
「…………」
なのに。
全然落ち着かない。
「別に……普通に遊びに行くだけだし」
ベッドから降りる。
「この前の約束だし」
カーテンを開ける。
「買い物もするだけだし」
窓を開ける。
朝の風が部屋へ入り込み、寝起きの髪を揺らした。
「…………二人で」
昨日のやり取りを思い出す。
『二人で?』
『他も誘おうか?』
『! いい! 二人で! バカヒール』
「…………」
顔が熱くなった。
「バカヒール……!」
なんであんな言い方したんだろ。
普通に「二人がいい」って言えばよかったのに。
「…………」
いや。
それはそれで恥ずかしい。
フィリアは寝間着のまま、鏡の前へ立った。
寝癖のついた髪。
まだ眠そうな顔。
「……よし」
まずは顔を洗おう。
それから朝ご飯。
着替えて。
髪も整えて。
「…………着替え」
動きが止まる。
振り返る。
部屋の隅にある衣装棚。
「…………」
いつもの服でいい。
任務じゃない。
ヒールと出かけるだけ。
いつも通りでいい。
そう思いながら衣装棚を開ける。
「…………」
一着取る。
「違う」
戻す。
別の一着。
「……これも違う」
戻す。
もう一着。
「…………」
鏡の前で身体に合わせる。
「これなら……」
少し考える。
「いや、気合い入りすぎ?」
戻す。
「…………」
なんでこんなに難しいの。
「フィリアー?」
「!」
階下から声が飛んできた。
「起きてるー?」
「起きてる!」
「朝ご飯できてるわよー!」
「今行くー!」
返事をして。
もう一度、衣装棚を見る。
「…………後で決めよ」
逃げた。
部屋を出て階段を下りる。
ふわりと朝食の香りが漂ってくる。
軍施設ではなく。
久しぶりに帰ってきた実家の朝。
そして今日は。
ヒールと二人で出かける日だった。




