長い夕食②
◇
「へぇー! 軍で初めて会ったんだ!」
話を聞きながら、ロゼが興味深そうにガオンを見る。
「あぁ」
ログは肉を頬張りながら頷いた。
「そっから最初は喧嘩ばっかだったけどな」
「殴り合いのな」
ガオンが平然と付け足す。
「殴り合い⁉︎」
「はっはは! いいね!」
ロナーが楽しそうに笑い、ログの背中を叩いた。
「若いうちはそれくらい元気な方がいい!」
「でしょ、兄さん!」
「全く……誰に似たんだか」
母さんが呆れたようにため息を吐く。
「………お前じゃ」
「なんか言ったかい?」
「……いや」
父さんは静かにスープを飲んだ。
「…………」
それを見ていたアルトが、ガオンへ顔を向ける。
「ガオンとも喧嘩したの?」
「あぁ。最初の頃にな」
「へぇー」
「そういや」
ロナーが今度はアルトを見る。
「アルト君ともしたの? ログと」
「はい」
アルトは迷うことなく頷いた。
「俺が勝ちました」
「おい」
「え⁉︎」
ロゼが驚いてアルトを見る。
「兄ちゃんに勝ったんですか?」
「うん」
アルトは得意げに胸を張る。
「そしてログは焦げパンになった」
「おい! アルト!」
「焦げパン?」
ロナーが食いついた。
「なにそれ! 詳しく!」
「えっとですね――」
「話すな!」
「なんでだよ!」
「なんでもだ!」
「兄ちゃん、焦げパンになったの?」
「ロゼまで乗ってくんな!」
「あれはな――」
「ガオン! お前も話すな!」
「俺はまだ何も言ってねぇだろ!」
「あっはっはっは!」
母さんの笑い声が食卓に響く。
アルトが身振り手振りを交えながら当時のことを話し始め。
ガオンが横から余計な補足を入れ。
ログが必死に止める。
ロゼとロナーは腹を抱えて笑い、母さんまで一緒になってログをからかう。
父さんは何も言わない。
ただ。
「…………」
ほんの少しだけ口元が緩んでいた。
そんな賑やかな食事の時間は、まだまだ続いた。
◇
「はぁー! 食った食った!」
ログが椅子の背もたれへ身体を預ける。
あれだけあった料理も、随分と少なくなっていた。
「ご馳走様でした」
ガオンが手を合わせる。
「美味しかったです!」
アルトも満足そうに腹を擦った。
「いっぱい食べたねぇ! 作った甲斐があるってもんだよ!」
「うぅ……苦しい……」
ロゼは机に突っ伏していた。
「ロゼ、お前そんな食ってないだろ」
「いつもより食べたの! 話聞きながら食べてたら止まらなくなった……」
「自業自得だな」
「兄ちゃんに言われたくない……」
「そうだ!」
母さんが何かを思い出したように立ち上がった。
「まだ終わりじゃないよ!」
「え……?」
ロゼが顔だけを上げる。
「まだ食べるの……?」
「別腹ってのがあるだろ!」
「今は別腹もいっぱい……」
「二人からお土産があるよ」
「二人?」
母さんが持ってきたのは、見覚えのある包みだった。
「屋台市場の奥にある『よもぎ』のお菓子だって」
「えぇ⁉︎」
さっきまで苦しそうにしていたロゼが勢いよく身体を起こした。
「よもぎ⁉︎ 食べてみたかったやつ!」
「別腹いっぱいなんじゃなかったのか?」
「これは別!」
「さっき別腹もいっぱいって言っただろ!」
「今空いた!」
「便利な腹だな!」
「なになに?」
ロナーも包みを覗き込む。
「俺、あそこの食ったことないんだよな」
「みたらし団子と、たい焼きだってさ」
「たい焼き?」
母さんが包みを開いていく。
甘じょっぱい香りがふわりと広がった。
「おぉ……これか!」
アルトが身を乗り出す。
「魚のやつ!」
「アルト、近い」
「だって気になってたんだよ!」
「ちゃんとお前の分もある」
「やった!」
「…………」
そんな中。
父さんは黙ったまま、並べられていく菓子を見つめている。
特に。
たい焼きから目を離さない。
「…………」
「親父」
「……なんだ」
「食いたいんだろ」
「…………」
「はっは! 親父も甘党だから喜んでる」
「……別に」
「父さん、顔に出てるよ!」
ロゼが笑う。
「……出てない」
「出てる出てる!」
「親父、餡子とクリームどっちにする?」
「…………」
少し考えて。
「……餡子」
「即答じゃん!」
ロナーが吹き出した。
「出てんじゃねぇか!」
「……うるさい」
父さんはたい焼きを一つ取ると、何事もなかったように齧る。
「どう?」
アルトが何故か一番気になっている。
「…………」
父さんが咀嚼する。
そしてもう一口。
「……美味い」
「おぉ!」
「よかったな、ガオン!」
「なぜ俺に言う」
「ガオンが買ったから!」
「一応、お前からでもあるんだぞ」
「あ、そうだった!」
「忘れんな!」
「ふふっ」
ロゼが笑いながら、みたらし団子を手に取った。
「でも、本当にありがとうございます。ガオン王子」
「だからガオンでいい」
「それは無理です」
「頑なだな……」
「当たり前です!」
「アルト君もありがとう!」
「おう!」
「お前は一銭も出してねぇけどな」
「ログ! それは言わない約束だろ!」
「そんな約束してねぇ!」
また笑い声が上がる。
食事が終わって。
腹いっぱいになって。
それでも誰も席を立たず、珍しい菓子を囲んで話を続けている。
アルトは初めて食べる餡子に目を丸くして。
ガオンはみたらし団子の甘じょっぱい味を気に入ったらしい。
ロゼは次々と軍での話を聞きたがり。
ロナーはその度に余計なところを掘り下げる。
母さんは笑いっぱなし。
親父は静かに二つ目のたい焼きへ手を伸ばしていた。
「親父、それ二個目」
「……余ってる」
「余ってねぇよ」
「……そうか」
「戻すなよ! 食えよ!」
家の中に、また笑い声が響いた。




