長い夕食
◇
「あ、あの……」
ロゼはガオンとログを何度か見比べてから、恐る恐る口を開いた。
「うちの兄が……何かしました?」
「なんで俺が何かした前提なんだよ!」
「だって王子様が家に来るなんて普通じゃないでしょ!」
「いや、そういうわけでは……」
ガオンも困ったように頬を掻く。
そこへログがあっさりと答えた。
「今、こいつと同じ隊なんだよ。今日から三日ぐらい泊まるぞ」
「…………」
ロゼが固まる。
「技術留学で軍にいるのは知ってたけど……」
もう一度ガオンを見る。
それからログを見て――。
「ていうか!」
「なんだよ」
「王子様に向かって『こいつ』って! 失礼だよ!」
「別にいいだろ」
「よくない!」
「いや、構わない」
ガオンが苦笑しながら二人の間に入った。
「ログには助けられた。今は同じ隊の仲間だしな」
「え?」
ロゼの目が丸くなる。
「兄ちゃんが……王子様を助けた?」
「なんだよ、その意外そうな顔」
「いや……だって兄ちゃんだし」
「どういう意味だ!」
「そのままの意味」
「お前までそれ言うのかよ!」
「ふっ……」
「ガオン! 笑うな!」
「悪い悪い」
その時。
「いやー! 働いた働いた!」
奥からロナーが姿を現した。
作業を終えたばかりなのか、額の汗を布で拭いながら大きく伸びをする。
「母さん! 父さんと風呂入ってくるよ!」
「はいよー!」
キッチンから母さんの声が返ってきた。
「さぁ、あの二人は夜鳥の行水だからね! すぐ出てくるよ! ほら! 食事の準備手伝いな!」
「はーい」
ロゼが鞄を置き、袖を捲る。
「俺もやります!」
アルトもすぐに手を上げた。
「俺も手伝おう」
ガオンまで当然のように続く。
「あっはっはっは!」
母さんが豪快に笑った。
「本当にいい子達だねー! うちの息子達にも見習わせたいよ!」
「俺も手伝ってるだろ!」
「言われる前にやりな!」
「やってんだろ!」
「口じゃなくて手を動かす!」
「動かしてるって!」
「…………」
ロゼが呆然とその光景を眺めている。
ルミナスの第一王子が普通に皿を運び。
アルトがその隣で食器を並べ。
母さんが二人へ次々と指示を飛ばしている。
「……兄ちゃん」
「なんだ?」
「どうなってんの?」
「何が?」
「全部だよ!」
◇
それから少しして。
食卓の上は、すっかり料理で埋め尽くされていた。
今日買ってきた肉を使った大皿料理。
薄く切ったローストビーフ。
香辛料をたっぷり纏わせた串焼き。
肉と野菜を豪快に挟んだジアスサンド。
付け合わせの野菜やスープも並んではいるものの――。
「……肉ばっかだな」
ログが呟いた。
「誰が十五キロも買ってきたと思ってんだい!」
「俺だけど」
「なら文句言うんじゃないよ!」
「文句じゃねぇって!」
そこへ。
「……待たせた」
風呂を終えた親父が姿を見せる。
「うーん! いい匂いだ!」
その後ろからロナーもやってきた。
まだ髪が少し濡れている。
「ほら! 二人とも座んな!」
「おう!」
「……ああ」
これで全員揃った。
母さん。
親父。
兄さん。
ロゼ。
俺。
アルト。
ガオン。
七人で食卓を囲む。
「それにしても……」
母さんが改めてテーブルを見渡した。
「ローストビーフにスパイス串にジアスサンドに……とにかく肉だらけだね!」
「…………!」
ガオンの目が輝く。
「ガオン」
「なんだ」
「顔」
「何がだ」
「すげぇ嬉しそう」
「……悪いか」
「いや、別に」
「うひょー!」
今度はアルトが身を乗り出した。
「すげぇ! どれから食えばいいんだ⁉︎」
「好きなのから食えよ」
「じゃあ肉!」
「全部肉だよ」
「じゃあ……これ!」
「それも肉だ」
「だからいいんだろ!」
「意味分かんねぇよ」
まぁ、俺も腹は減ってる。
久しぶりの家の飯だ。
しかも今日はご馳走。
「よし!」
俺が料理へ手を伸ばす。
「食おう!」
「おう!」
「いただき――」
「待って!」
「ん?」
ロゼが勢いよく両手をテーブルについた。
全員の視線が集まる。
「食べる前に!」
まず俺を指差す。
「兄ちゃんが急に帰ってきて!」
「悪かったって」
次にアルト。
「知らない人まで泊まりに来て!」
「アルトです!」
「それはもう聞いた!」
「はい!」
「いい返事すんな!」
そして最後に。
ガオンへ手を向けようとして――。
「…………」
止まった。
さすがに王子を指差すのはまずいと思ったらしい。
そっと手を引っ込める。
「ガ、ガオン王子までうちに泊まるって……!」
「ガオンで構わないぞ」
「無理です!」
「……そうか」
「しかも兄ちゃんと同じ隊って何⁉︎ 助けたって何⁉︎ なんで次期国王が普通にうちの食卓に座ってるの⁉︎」
一気に言い切る。
「色々、状況説明して!」
「…………」
食卓が静まり返る。
そんな中。
親父だけが何事もなかったようにローストビーフへ手を伸ばした。
「親父!」
「……冷めるぞ」
「そういう問題じゃない!」
「父さんの言う通りだぞ」
兄さんもスパイス串を一本取る。
「食いながら聞けばいいだろ」
「兄さんまで!」
「それがいい!」
アルトも早速ジアスサンドを手に取った。
「ロゼも早く食べないとなくなるぞ!」
「半分くらいあんた達が食べるんでしょ⁉︎」
「多分!」
「多分じゃない!」
「あっはっはっは!」
母さんが腹を抱えて笑う。
「賑やかでいいじゃないか! ほらロゼ、座りな! 話は食べながら聞けばいいよ!」
「もう……!」
ロゼは納得していない顔のまま、渋々椅子へ座った。
そして。
目の前の料理ではなく、俺をじっと見る。
「で、兄ちゃん」
「ん?」
「最初から全部話して」
「最初からって、どこからだよ」
「ガオン王子と知り合ったところから!」
「……それ、かなり長くなるぞ」
「聞く!」
「飯食わせろよ……」
「食べながら!」
「はいはい」
俺は諦めて肉へ手を伸ばした。
今日は。
随分と長い夕食になりそうだった。




