できた子達
◇
「すっかり遅くなっちまったな」
大量の荷物を抱えたログが店の扉を開ける。
「腹減ったー」
「お前、途中で食おうとしてただろ」
「食ってないだろ!」
「当たり前だ」
ログに続いて店へ入ると、後ろからガオンの声がした。
「ログ、これはどこに置けばいい?」
「あー、それはそこ置いといてくれ。後でキッチン持ってくから」
「分かった」
ガオンが肉や食材の入った包みを置く。
「随分時間かかったね」
店の奥からログのお母さんが顔を出した。
「あー、ちょっと屋台市場の奥まで行ってな」
「奥? なんでまた?」
「ガオンが手土産だと」
「あら」
ログのお母さんがガオンを見る。
ガオンは持っていた菓子の包みを両手で差し出した。
「突然お世話になりますので、よろしければこちらを。アルトと私からです」
「え?」
俺、金出してないけど。
包みの中には、さっき買ったみたらし団子とたい焼き。
ログのお母さんは目を丸くしたあと、嬉しそうに受け取った。
「まぁまぁ! 本当にできた子達だよ!」
「俺も?」
小声でガオンに聞く。
「そういうことにしとけ」
「お、おう」
よく分からないけど、できた子になった。
「本当に、どんなご両親に育てられればこんなにいい子になるのかねぇ!」
「…………」
一瞬。
何も言えなかった。
けれど、その隣から。
「ガオンは王族」
ログがあっさり言った。
「まぁ、王族なん――」
ログのお母さんの動きが止まる。
「…………は?」
「ルミナスの第一王子」
「…………」
「ていうか、次期国王」
「おい、ログ」
「見えないけどな」
「アルト、お前まで!」
「…………」
ログのお母さんの顔が、みるみる青ざめていく。
「な……な、な……」
「母ちゃん?」
「なんてこと……!」
慌てて服を整え、深々と頭を下げた。
「王族の方とは知らずに、とんだご無礼を……!」
「い、いえ!」
今度はガオンが慌てた。
「確かにそうですが! 頭を上げてください!」
「しかし……!」
「お願いします!」
さっきまで肉を見て目を輝かせていた奴とは思えないくらい焦っている。
「今は王子として来たわけではありません!」
「ですが、次期国王様をこんな狭い家に――」
「気にしないでください! 俺は――」
ガオンが一度言葉を切る。
それから、少し照れ臭そうにログを見た。
「……今は、ログの友人ですから」
「…………」
ログのお母さんがゆっくり顔を上げる。
ガオンは困ったように笑っていた。
「ですから、先ほどまでと同じように接していただけると助かります」
「…………そうかい?」
「はい」
「本当に?」
「もちろんです」
「…………」
ログのお母さんはしばらくガオンの顔を見つめていたが。
「じゃあガオン君!」
「はい!」
「肉いっぱい食べな!」
「――はい!」
「ぶはっ!」
ログが吹き出した。
「何笑ってんだ!」
「いや、お前……返事良すぎだろ!」
「うるさい!」
「やっぱ肉好きじゃん」
「アルトまで笑うな!」
顔を赤くするガオンを見て、ログのお母さんも声を上げて笑った。
「はっはっは! 王子様って聞いてびっくりしたけど、あんたも普通の若い子だねぇ!」
「……そうしていただけると助かります」
「分かったよ。なら遠慮なく食べていきな!」
「ああ!」
「そこは『はい』じゃないんだ」
「もういいだろ!」
また笑い声が上がる。
その中でログのお母さんは、ふと俺とガオンを交互に見た。
「それにしても……ログがこんな友達を連れて帰ってくるなんてねぇ」
「なんだよ」
「別にぃ?」
にやにやしながらログを見る。
「いい仲間に恵まれたねぇって思っただけさ」
「……うるせぇな」
ログは少しだけ顔を逸らすと、床に置いていた肉の包みを持ち上げた。
「ほら! 飯作るんだろ! これキッチン持ってくぞ!」
「はいはい。照れなくていいっての」
「照れてねぇ!」
「ログ照れてんの?」
「アルトは黙ってろ!」
「なんで俺だけ⁉︎」
怒鳴るログの後を追いながら。
俺は、なんとなく笑っていた。
やっぱり。
友達の家って、面白い。




