甘味処
ガオンは店主に教えられた道を、そのまま真っ直ぐ進んでいく。
「ご家族は食べられない物とかあるのか?」
「うーん……」
ログが肉の包みを抱えたまま考える。
「強いて言うなら、ロゼが干し葡萄とか苦手だな」
「なるほどな。干し葡萄は避けるか」
「あー、なんか俺も分かるわ。干し葡萄苦手なの」
「お前はなんでも食うだろ」
「まぁね」
「苦手じゃねーじゃん」
ガオンに即座に突っ込まれた。
「苦手だけど食えるんだよ」
「それは嫌いじゃないだけだろ」
「いや、苦手なんだって!」
「どっちでもいいだろ……」
ログが呆れたところで、先を歩いていたガオンが足を止める。
「ここか?」
三人で店を見上げた。
さっきまで並んでいた屋台とは違い、少し落ち着いた雰囲気の小さな店。その軒先には見慣れない文字の看板が掛けられている。
「『甘味処 よもぎ』……」
ログが読み上げる。
「珍しい名前だな……」
「なぁ、見ろよ!」
店先を覗いていたアルトが何かを指差した。
「串肉みたいなのあるぞ」
「……本当だな」
ガオンも覗き込む。
串に刺さっているのは肉ではない。
白くて丸い何かが三つ並び、その表面には艶のある茶色いものがかかっている。
「菓子……だよな?」
「甘味処って書いてあるしな」
「入ってみようぜ」
ログが扉を開ける。
カラン、と小さな音が鳴った。
「おー……なんか甘い香り……」
店へ入った瞬間、アルトが鼻を動かした。
「嗅いだことのない香りだな」
ガオンも興味深そうに店内を見回す。
棚には見たことのない菓子が並んでいた。
丸いもの。
串に刺さったもの。
魚の形をしたもの。
色鮮やかな小さな菓子まである。
「あー! いらっしゃい!」
元気な声とともに、カウンターの奥から小柄な女性がひょこっと顔を出した。
「三人? 今日は随分と賑やかだねぇ!」
「手土産が欲しくて」
ガオンが答える。
「何かおすすめはありますか?」
「どんなの? うちはここらじゃ珍しいのを扱ってるよ!」
「店名からして珍しいですよね」
ログが看板を振り返る。
「『よもぎ』って、どういう意味なんです?」
「うん! 極東にあるヒノモトって国のお菓子だよ」
「ヒノモト……」
ガオンが聞き慣れない名前を繰り返す。
「行ったことないな!」
アルトが言うと、店主は声を上げて笑った。
「あははは! そりゃそうよ! 長い間、鎖国しているからね」
「鎖国?」
「他の国との行き来をほとんど閉ざしてんのさ。だからヒノモトの物は、この辺じゃ滅多に見ないよ」
「じゃあ、なんでここにはあるんだ?」
「そこはまぁ、色々あんのよ!」
店主はにっと笑う。
「それに、ここのお菓子は全部あたいの手作りだよ!」
「へぇ……」
三人が改めて棚を見る。
するとログが、ひときわ妙な形をした菓子を指差した。
「この魚の形したやつは?」
「そりゃ、たい焼きさ!」
「魚じゃないのか?」
「魚の形してるだけ!」
「なんで魚の形なんだ?」
「さぁ?」
「知らねぇのかよ」
「あははは!」
店主が豪快に笑う。
「中に餡子やらクリームやらを入れてるよ。甘くて美味しいよ!」
「餡子?」
アルトが首を傾げる。
「甘く煮た豆を潰したものさ」
「豆が甘いの?」
「そう!」
「…………」
アルトが魚の形をした菓子をじっと見る。
「うまい?」
「うまい!」
「じゃあうまいな!」
「判断が早ぇよ」
ログが呆れる。
「ヒノモトの菓子が初めてなら……そうだねぇ」
店主は棚から、先ほど三人が外で見つけた串を取り出した。
「みたらし団子なんてどうかな?」
「これ、やっぱ肉じゃないのか」
「肉じゃないよ!」
アルトの言葉に店主が笑う。
「もちもちした団子に、甘じょっぱいタレをかけてんのさ」
「甘いのにしょっぱい?」
「それが合うんだよ!」
「へぇー……」
アルトが興味津々で串を覗き込む。
ガオンも少し気になったのか、団子とたい焼きを見比べた。
「どうだ、ログ? 気に入りそうか?」
「まぁ、いいんじゃねぇか? うちじゃ食ったことないし、母ちゃんも珍しい物は好きだと思うぞ」
「よし」
ガオンが頷く。
「じゃあ、それを七本と……たい焼き? を七つ下さい」
「七つ?」
アルトが目を輝かせる。
「俺にも買ってくれんの⁉︎」
「ついでだ」
「やった!」
「お前は本当に遠慮しないな」
「さっき怒られたから、今はちゃんとガオンが買うの待ったぞ!」
「何の成長にもなってないぞ」
「はいよ! みたらし七本と、たい焼き七つね!」
店主が手際よく菓子を包んでいく。
「たい焼きは餡子とクリーム、混ぜとくよ。初めてなら両方食べてみな!」
「ありがとうございます」
「毎度! 全部で六千フェアルだよ!」
「…………」
ログの眉がぴくりと動く。
「……いい値段するな」
「手土産なんだから、これくらいはいいだろ」
ガオンは気にした様子もなく代金を差し出した。
「お兄ちゃん、粋だねー!」
店主が嬉しそうに受け取り、金額を確かめる。
「はい、ちょうどね!」
そして大きな包みをガオンへ渡した。
「また来てね!」
「ああ。家族が気に入ったら、また寄らせてもらう」
「待ってるよ!」
店を出る。
ガオンの手には菓子の包み。
ログの手には大量の肉。
そして俺の手には――。
「…………」
「アルト」
「ん?」
「なんでお前、何も持ってねぇんだよ」
「え?」
左右を見る。
確かに。
俺だけ手ぶらだ。
「……俺、《砕》持ってきたし」
「家に置いてきただろ!」
「じゃあ俺、たい焼き持つ!」
「食うなよ?」
「食わないって!」
「その間はなんだ」
「食わない!」
ログから肉の包みを一つ渡される。
「あ、そっちなんだ」
「当たり前だろ。たい焼き持たせたら減りそうだからな」
「信用なさすぎだろ!」
「普段の行いだ」
「またそれ言った!」
ガオンが小さく笑う。
来た時よりも増えた荷物を抱えながら、三人は再び賑やかな通りへ戻っていった。




