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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ


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風対決

 森の奥で、これまでで最も大きな風が爆ぜた。


 セリオの両手へ、淡い緑色の光が集まっていく。


「《飛燕》」


 小さく呟く。


 光が二つに分かれ、その手の中で細長い形を作った。


 次の瞬間。


 セリオの両手には、二振りの剣が握られていた。


 細身の刀身。


 鍔は、大きく羽ばたく翼を模している。


 顕現した双剣の周囲では、絶えず風が舞っていた。


 カイルが《裂兎》を構え直す。


「風対決といこうや。」


 セリオが《飛燕》の切っ先を向ける。


 カイルは一瞬、黙っていた。


 やがて、喉の奥から低い笑いを漏らす。


「……ふっ、ふっふっ。」


「あ?」


「面白い。」


「そうか――」


 言い切るより早く、カイルの姿が消えた。


 直後。


 《裂兎》の切っ先が、セリオの喉元へ迫る。


「……よっと!」


 セリオは上体を反らし、紙一重で刺突を躱した。


 風を纏った刃が、前髪を数本切り飛ばす。


「あぶねぇなぁ。」


「来い。」


 カイルが淡々と言う。


 セリオの口元から、笑みが消えた。


「はぁ……。」


 《飛燕》を左右へ広げる。


「なめんなよ?」


 双剣を交差させ、勢いよく振り抜いた。


「《刃風》!」


 二つの風の刃が生まれ、地面を削りながらカイルへ襲いかかる。


 カイルは避けない。


 《裂兎》を軽く振るう。


 ただそれだけで、迫っていた風の刃は中央から断ち切られた。


 裂けた風が左右へ流れ、背後の木々へ深い傷を残す。


「やっぱ簡単には通らねぇか。」


 そう言いながら、セリオは既に走り出していた。


 一足で間合いを消す。


 右の《飛燕》を振り下ろす。


 カイルが《裂兎》で受け止めた。


 刃と刃が噛み合い、二人の間で風が弾ける。


「《天翔》」


 セリオの身体が、ふわりと浮かび上がった。


 鍔迫り合いを続けたまま、体重を《飛燕》へ乗せる。


 そのまま身体を捻った。


 カイルの刃を軸にするように、空中で一回転する。


「なに……?」


 セリオの姿が、カイルの視界から消えた。


 次の瞬間には、その背後へ着地している。


 振り返る動きのまま、左右の双剣を交差させた。


 二つの刃が、カイルの腹部へ迫る。


 カイルは振り向かない。


 空いている手を、背後へかざした。


「《風壁》」


 圧縮された風が壁となり、《飛燕》を受け止める。


 目に見えない壁へ、二振りの刃が食い込んだ。


「っ……!」


 セリオの腕が押し戻される。


 それでも、止めない。


「このまま……!」


 両腕へ、さらに力を込める。


 双剣を包む風が激しく渦巻いた。


 風と風が擦れ合い、甲高い音を上げる。


 《風壁》の表面に、細かな亀裂が走った。


 カイルの眉が僅かに動く。


「おらぁ!」


 セリオが一気に押し切った。


 《風壁》が砕け散る。


 双剣の切っ先が、カイルの腹部を浅く裂いた。


 服が破れ、細い血の線が浮かぶ。


 カイルは前方へ跳び、セリオから距離を取った。


 腹部へ手を当てる。


 指先についた血を、無言で見つめた。


「やっと当たったな。」


 セリオが《飛燕》を肩へ担ぐ。


「風対決、悪くないだろ?」


 カイルは血のついた指を払った。


 その口元に、僅かな笑みが浮かぶ。


「……なるほど。」


 《裂兎》をゆっくりと構え直す。


「やはり、面白い。」

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