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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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幸せな時

 しばらくして。


「できたよ」


 料理を並べ終え、全員で大きなテーブルを囲む。


 湯気の立つスープに、焼いた肉と野菜。サーヤが買ってきてくれたパンも、籠いっぱいに入っていた。


「おぉー! 肉!」


 ニカが身を乗り出す。


「ニカ、まだだからね」


「分かってるって!」


 そう言いながら、もうフォークを握っている。


「おいしそー! ラズ、これ食べる!」


「まだだよ。みんなでいただきますしてから」


 リズに止められ、ラズが伸ばしていた手を引っ込めた。


「むぅ……」


「ふふっ。賑やかですね」


 向かいに座ったユノ君が笑う。


「毎日こんな感じですよ」


 サーヤが慣れた様子でラズの前に小さな皿を置いた。


「昔はもっと賑やかだったけどね」


「そうなんですか?」


「うん」


 僕と。


 兄さんもいたから。


「…………」


 ほんの一瞬。


 ルナさんと目が合った。


 でも、何も言わない。


 ルナさんはいつも通りの笑顔で席についた。


「では、皆さん揃いましたね」


「はーい!」


「腹減ったー!」


「ニカ」


「腹が減りました!」


「よろしい」


「そこ直すんだ……」


 ユノ君が小さく呟いた。


「それでは」


 ルナさんが手を合わせる。


 僕たちもそれに続いた。


「今日もこうして食卓を囲めることに感謝して――いただきましょう」


「「いただきます!」」


「いただきまーす!」


 その瞬間。


「肉ぅ!」


「ニカ!」


「早い者勝ち!」


「ラズも!」


「ラズはちゃんと座って!」


「ニカ! ラズが真似するでしょ!」


「俺のせいかよ!」


「どう見てもニカのせいでしょ!」


 一気に騒がしくなった。


「…………」


 ユノ君がフォークを持ったまま固まっている。


「どうしたの?」


「いえ……食事って、こんなに戦うものだったかなって」


「ここでは戦いだよ」


「軍より厳しいですね」


「油断するとなくなるからね」


「ヒルト兄ちゃん!」


「ん?」


「肉もらい!」


「自分の食べなよ」


「もう食った!」


「早っ」


 さっきまであったはずの肉が、本当に消えている。


「ヒルト」


 今度はルナさんが僕を呼んだ。


「なに?」


「あなた、少し痩せました?」


「そう?」


「ちゃんと食べていますか?」


「食べてるよ」


「本当に?」


「本当だって」


「怪しいですね」


 僕の皿に肉が一つ追加された。


「はい」


「……ありがとう」


「野菜も」


「自分で取れるよ」


「子供はたくさん食べるものです」


「だから、もう子供じゃ――」


 言いかけて。


 やめた。


「……はい」


「よろしい」


 隣を見ると、ユノ君が笑いを堪えていた。


「何?」


「いえ、なんでも」


「笑ってるよね?」


「笑ってませんよ」


「絶対笑ってる」


「ヒルトさんにも苦手な相手がいるんだなぁって」


「…………」


「ふふっ」


「ユノさんも食べなさい」


「はい?」


 ルナさんがユノ君の皿にも肉を乗せる。


「若いんですから、遠慮しない」


「あ、ありがとうございます」


「野菜も」


「はい」


「スープもおかわりがありますからね」


「はい……」


 さらにパンまで追加される。


 ユノ君が僕を見る。


「…………」


「…………」


 僕は静かに頷いた。


「諦めて」


「そういう意味ですか……」


「ユノにー!」


 今度はラズがユノ君を呼んだ。


「はい?」


「これあげる!」


 小さな手で、自分の皿から野菜を一つ差し出す。


「ラズ。それ嫌いなだけでしょ」


「ちがう!」


 リズに即座に見抜かれた。


「ユノにー、おやさい好き?」


「好きですよ」


「ほら!」


「何が『ほら』なの?」


「じゃあ、いただきますね」


 ユノ君が笑いながら受け取る。


「やった!」


「ユノさん、甘やかさないでください」


 サーヤが苦笑する。


「すみません」


「ふふ……」


 ルナさんも楽しそうに笑った。


 ニカが騒いで。


 サーヤが怒って。


 リズがラズの世話を焼いて。


 ラズはユノ君へ嫌いな野菜を押しつけている。


「…………」


 いつもの食卓。


 でも今日は。


 一人増えただけで、少しだけいつもより賑やかだ。


 兄さんが帰ってきたら。


 ここに、もう一つ椅子が増える。


「…………」


「ヒルトさん?」


「ん?」


「また笑ってますよ」


「……そう?」


「はい」


 僕は自分の皿へ視線を落とした。


「まぁ……いいでしょ」


「ええ」


 ユノ君も笑う。


「いいと思いますよ」


 いつか。


 兄さんもここに座って。


 みんなで、こんなふうに飯を食べられたら。


 その時は――。


「ヒルト兄ちゃん! 肉!」


「ダメ」


「一個!」


「ダメ」


「半分!」


「自分の食べたでしょ!」


「ケチ!」


「ニカ」


「……なんでもないです!」


 ……その時も。


 きっと、こんな感じなんだろうな。

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