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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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ヒルトの家


「まずはルナさんを台所から遠ざける」


「それ、支援術関係ないですよね?」


「ユノ君ならできる」


「どういう信頼ですか、それ」


「何をこそこそ話しているんです?」


「「何でもないです!」」


 台所から顔を出したルナさんに、二人揃って答える。


「……?」


 ルナさんは不思議そうに首を傾げると、再び台所へ戻っていった。


「……危なかった」


「何がですか……」


「ユノ君」


「はい?」


「僕が料理を引き継ぐから、ルナさんの気を引いて」


「だから何をすれば……」


「なんでもいい」


「雑だなぁ……」


 その時。


 サーヤが僕たちの横を通り過ぎた。


「シスター」


「なんです?」


「ユノさん、初めて来たんですから施設の中を案内してあげたらどうですか?」


「サーヤ……!」


 思わず声が出た。


「なるほど!」


 ルナさんが手を叩く。


「それはいけませんね。私としたことが」


「え?」


 ユノ君が目を瞬かせる。


「さぁ、ユノさん。ご案内します」


「いや、僕は別に――」


「こちらです」


「え、ちょっ……」


 有無を言わせず連れていかれる。


 ユノ君が助けを求めるようにこちらを振り返った。


「ヒルトさん……?」


 僕は親指を立てる。


「ありがとう」


「僕、売られました?」


「犠牲は忘れない」


「死ぬんですか僕⁉︎」


 廊下の向こうへ消えていく二人を見送る。


「よし!」


 振り返る。


「今のうちだ!」


「おう!」


「はい!」


 ニカとサーヤが同時に動いた。


「リズ、ラズをお願い!」


「うん!」


「ラズもおりょうりする!」


「今日は応援係ね!」


「おー!」


 僕は台所へ飛び込む。


 そこには。


「…………」


 鍋。


 まな板。


 食材。


 そして。


 既に何かが投入された形跡のあるボウル。


「……サーヤ」


「はい」


「ルナさん、どこまでやった?」


「野菜を切って、お肉に下味を」


「下味……」


 嫌な予感しかしない。


「これ?」


「多分……」


 ボウルを覗く。


「…………」


「…………」


 ニカも横から覗き込んだ。


「……これ肉?」


「肉だと思う」


「なんで紫なんだ?」


「僕が聞きたい」


 サーヤが恐る恐る匂いを嗅ぐ。


「…………」


 そっと顔を離した。


「どう?」


「分かりません」


「何が入ってる?」


「それも分かりません」


「…………」


「…………」


「捨てよう」


「そうしましょう」


「おう」


 三人の意見が一致した。


「お肉さん……」


 リズが悲しそうに呟く。


「まだ助かる?」


「……ごめんね、リズ」


「そっか……」


「なんで肉の最期を看取ってるんですか?」


 背後から声がした。


「うわっ⁉︎」


 振り返る。


 いつの間にか、ユノ君が立っていた。


「早くない?」


「施設の案内が終わりました」


「ルナさんは?」


「ラズ君に捕まりました」


「え?」


 居間を見る。


「シスター! これよんで!」


「あらあら。仕方ありませんね」


 ルナさんがラズを膝に乗せて、絵本を開いていた。


「…………」


 僕はユノ君の肩を掴む。


「よくやった」


「何もしてないですよ」


「いや、完璧だ」


「そうですか……」


 これで時間はできた。


「さて」


 袖を捲る。


「作り直そう」


「ヒルトさん、料理できるんですね」


「まぁね」


「ヒルト兄ちゃんの飯うまいぞ!」


 ニカが自慢げに胸を張る。


「なんでニカが自慢するの」


「俺が育てた」


「僕がここを出た時、君七歳だからね?」


「細けぇこと気にすんな!」


「ふふっ」


 ユノ君が笑う。


「じゃあ、僕も手伝いますよ」


「料理できる?」


「簡単なことなら」


「じゃあ野菜お願い」


「はい」


「ニカは皿」


「任せろ!」


「サーヤは残ってる食材を確認して」


「分かりました」


「リズは――」


「ラズ見てる!」


「お願い」


「はーい!」


 それぞれが動き始める。


 包丁の音。


 鍋から立ち上る湯気。


 居間から聞こえる、ラズとルナさんの声。


 ニカは皿を運びながらつまみ食いを狙って、サーヤに手を叩かれている。


「…………」


 なんだか。


 懐かしいな。


「ヒルトさん」


「ん?」


「笑ってますよ」


「……そう?」


「はい」


 ユノ君は野菜を切りながら、少しだけ笑った。


「ここ、本当にヒルトさんの家なんですね」


「…………」


 手が止まる。


 家。


「……うん」


 父さんも母さんもいない。


 兄さんも、まだ帰ってきていない。


 それでも。


「僕の家だよ」


 そう答えて、また手を動かす。


「だから今日は、いっぱい食べていって」


「はい」


「一人でも多い方がいいから」


「……それ、料理を消費するためじゃなかったんですか?」


「それもある」


「やっぱり」


 ユノ君が笑った。


 僕も笑う。


「ヒルト兄ちゃん!」


「今度は何?」


「味見!」


「ダメ」


「なんでだよ!」


「さっき三つもパチパチ飴買ったでしょ」


「あれは別腹!」


「ご飯食べられなくなるよ」


「食える!」


「ニカ」


 サーヤが笑顔で呼ぶ。


「……皿、出してきます」


「よろしい」


「…………」


 強いなぁ、サーヤ。


 そう思いながら。


 僕は鍋をゆっくりとかき混ぜた。

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