色々終わる
◇
両親の墓へ向かうと、見覚えのある後ろ姿があった。
「あれ、ユノ君?」
「ヒルトさん」
ユノ君が振り返る。
「まだいたんだ」
「はい。少し、みんなと話してました」
「そっか」
その隣には、五つの墓。
それぞれに新しい花が供えられていた。
僕は小さく頭を下げてから、ユノ君の横を通る。
「そういえば、サーヤから聞いたよ。リズとラズを見てくれたって」
「あぁ。少し一緒に買い物へ行っただけですよ」
「ありがとう。あの二人、すぐどっか行っちゃうから」
「元気でしたね。両手を取られました」
「ははは。気に入られたんだね」
そんな話をしながら、両親の墓の前まで歩く。
「…………」
父さん。
母さん。
久しぶり。
持ってきた花を供えようとして――。
「……あれ?」
手が止まった。
すでに花がある。
しかも、まだ新しい。
「誰だろう」
首を傾げる。
僕や兄さん以外にも墓参りに来てくれる人はいるけど、今日は誰も来ないと思っていた。
「あぁ、それ」
後ろからユノ君の声がした。
「さっき、エルネさんって方が全部のお墓に花を供えていきましたよ」
「エルネ?」
記憶を探る。
「知らないなぁ……」
……ん?
「え? 全部?」
「はい」
ユノ君が、どこか面白そうに笑った。
「全部です」
「へぇ……変わった人だね」
「いい人でしたよ。僕がお墓参りをしていたら、お悔やみを言ってくれたり……色々、話も聞いてもらいました」
「そっか」
「はい」
ユノ君が供えられた花を見る。
「本当に、いい人でした」
「…………」
少しだけ。
いつもより、その表情が柔らかく見えた。
◇
(本当にいい人だったな……)
ヒルトさんが両親のお墓に手を合わせる横で、僕はさっきのエルネさんとの会話を思い返していた。
お悔やみ、か。
(そういえばヴォルグでも、ガオンさんがみんなのことを……)
「…………」
ガオンさん。
(……ん?)
何か引っかかった。
(そういえば……なんでさっき、ガオンさんはアーヴェル隊長に呼び出されてなかったんだ?)
「…………」
ルミナスから一緒に戻ってきたはずなのに。
「あの、ヒルトさん」
「ん?」
ヒルトさんが墓の前から振り返る。
「どした?」
「ガオンさんって、さっきなんで呼ばれてなかったんですか?」
「ガオン?」
ヒルトさんが首を傾げる。
「…………」
数秒。
「……あ!」
声を上げた。
「確かに!」
「ですよね?」
「ユノ君がいたことに意識が向いてた……」
「僕ですか?」
「だってバルガス隊なのに普通にいたから」
「僕も好きでいたわけじゃないですよ」
「でも、ガオンはなんでいなかったんだろ……」
ヒルトさんが顎に手を当てる。
「……なんかやらかしたのかな」
「またですか?」
「あり得るからなぁ」
「…………」
否定できない。
「まぁ、いいか」
「いいんですか?」
「そのうちアルトたちが気づくでしょ」
随分と人任せだ。
ヒルトさんは両親の墓へもう一度手を合わせると、立ち上がった。
「よし。帰ろう」
「はい」
「あ、ユノ君」
「なんですか?」
「ご飯食べていきなよ」
「え?」
思わず聞き返した。
「いや、いいですよ。お邪魔でしょうし」
「ううん」
ヒルトさんは真顔で首を振った。
「来て」
「…………」
「お願い」
「なんで急に必死なんですか?」
「一人でも食べる人を増やさないと、色々終わる」
「……終わる?」
何が?
「いいから」
「いや、でも――」
「先輩命令」
「…………」
僕はヒルトさんを見る。
ヒルトさんも僕を見る。
妙に真剣だ。
「……はぁ」
どうやら。
断れる雰囲気ではなさそうだった。




