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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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お墓参り③

 店の中へ入ると、子供たちはそれぞれ目当ての物へ散っていった。


「パチパチ飴!」


 ニカ君は一直線に菓子棚へ。


「ラズ、勝手に触っちゃダメだよ」


「これなぁに?」


「だから触らないの!」


 リズちゃんはラズ君の世話で大忙し。


 サーヤさんはそんな三人を見ながら、頼まれていた食材を籠へ入れていく。


 僕も店の隅に並べられていた花を何本か選んだ。


 派手なものじゃなくていい。


 みんなに似合いそうなものを。


 買い物を終え、子供たちと別れて教会へ戻る。


 そのまま裏手の墓地へ向かうと――。


「……あ」


 先客がいた。


 墓石の前にしゃがみ込み、花を供えている男。


 先ほど店先でニカ君とぶつかった人だ。


「失礼します」


 声をかけると、男が振り返った。


「おや」


 眼鏡の奥の穏やかな目が、僕を見る。


「君は……さっきの子たちのお兄さん……ではなさそうだね」


「はい。違います」


「はは、やっぱり。お墓参りかい?」


「まぁ……そんな感じです」


「……そうかい」


 男は僕の服へ目を向ける。


「その服。ガイストの軍人さんだね?」


「そうです」


 答えながら、男の足元を見る。


「……ん?」


 そこで気づいた。


 一つじゃない。


 近くに並ぶ墓石の前、そのほとんどに花が供えられている。


「全部のお墓に献花を?」


「あぁ」


 男は抱えていた花を見下ろした。


「道中で買ったり、摘んだりしてね」


「……珍しいことしますね」


「ははは。そうだね」


 男は笑った。


 それから墓石へ視線を戻す。


「僕はさ……亡くなった方々が、少し羨ましいのかもしれない」


「……羨ましい?」


 思わず聞き返した。


「おっと」


 男が困ったように眉を下げる。


「失礼な言い方だったかな」


「いえ……ただ、どういう意味なのかなって」


「そうだね」


 少し考えるように、男は墓石を見つめた。


「勘違いしないでほしいんだ。死ぬことが羨ましいわけじゃない」


「…………」


「死は悲しいよ。残された人にとっても……きっと、逝く人にとってもね」


 穏やかな声だった。


「でも――ここに眠る人たちには、名前がある」


 男の指先が、墓石に刻まれた名をそっとなぞる。


「花を持って会いに来る人がいる。思い出して、笑ったり、泣いたりする人がいる」


「…………」


「その人が何を好きだったとか。どんなことで怒ったとか。どんなくだらないことで笑ったとか」


 男は小さく笑った。


「そういうものを誰かが覚えている限り、その人が生きたことは消えないんだろうね」


「……消えない」


「あぁ」


 風が吹く。


 供えられた花が、小さく揺れた。


「だから、少し羨ましい」


 その声には。


 悲しみとも、寂しさとも違う。


 僕には上手く言葉にできない何かが混じっていた。


「いつか自分がいなくなった時……誰かの中に、そんなふうに残れるのなら」


 男は目を細める。


「それは、とても幸せなことなんじゃないかってね」


「…………」


「あー……すまない」


 男は我に返ったように頭を掻いた。


「お墓参りだったね。知らない人間が長々と話して、邪魔をしてしまった」


「いえ」


 不思議だった。


 初めて会った人なのに。


 目の前の男から漂う柔らかな雰囲気と、耳に心地よく届く穏やかな声。


 なぜだろう。


 もう少し、この人と話していたい。


「大丈夫ですよ」


 僕は墓地の奥へ進んだ。


 五つ並んだ墓の前で、足を止める。


 持ってきた花を一本ずつ。


 静かに供えていく。


 ドンスさん。


 スイータさん。


 アルパさん。


 トイトイさん。


 そして――。


 バルガス隊長の副官だった、シャドラさん。


「…………」


 久しぶりです。


 声には出さず、心の中で呟いた。


「……親しい人たちだったのかい?」


 少し離れたところから、男の声がした。


「えぇ」


 僕は墓石を見つめたまま答える。


「僕の部隊の先輩たちでした」


「……そうか」


 男はそれ以上踏み込まず、静かに頭を下げた。


「それは……お悔やみを」


「ありがとうございます」


「…………」


「…………」


 もう一度、墓石を見る。


 誰かの中に残れるのなら。


 それは幸せなこと。


 さっき聞いた言葉が、妙に頭から離れなかった。


「……あの」


「ん?」


 僕は振り返る。


「少し、話してもいいですか?」


 男は一瞬だけ目を丸くして。


 すぐに、あの柔らかな笑みを浮かべた。

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