お墓参り②
ニカ君は、ますます興味深そうに僕を見上げてきた。
「ヒルト兄ちゃんな! すっげぇ弱そうだけど、めちゃくちゃ強いんだぜ!」
「はい。知ってますよ」
「おっ! 話がわかる糸目だな!」
ゴチンッ。
「いだっ⁉︎」
サーヤさんの拳が、ニカ君の頭に落ちた。
「いい加減にしなさい!」
「なんだよぉ!」
「なんだよ、じゃない!」
ニカ君を叱ってから、サーヤさんはこちらへ深々と頭を下げる。
「失礼しました。本当に……」
「大丈夫ですよ」
元気な子だなぁ。
僕は苦笑しながら辺りを見回す。
「ところで、この近くに売店ってありましたよね?」
「はい! 今から私たちも行きますよ?」
サーヤさんが手にしていた財布を見せる。
「案内しましょうか?」
「助かります。献花用の花が欲しくて」
「ケンカすんのか! 俺も行きてー!」
「え?」
ニカ君が拳を握る。
「ケンカ……ダメ!」
ラズ君が僕を見上げて、ぶんぶんと首を振った。
「そうだよ! シスターに怒られるよ!」
リズちゃんまで慌てている。
「あぁ……」
「違うよ」
サーヤさんが額に手を当てた。
「献花。お供えのためのお花ってこと」
「なーんだ!」
あっという間にニカ君の興味が失せる。
代わりに。
「お花は好き!」
「ラズも!」
二人が元気よく手を上げた。
「僕も好きですよ」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
歩き出そうとして――。
「……ん?」
小さな手が、僕の手を握っていた。
見下ろす。
ラズ君だ。
「えへへ、おてて繋いだげる!」
「ありがとうございます」
小さな手を握り返す。
「あー! ずるい!」
「ん?」
「リズも繋ぐ!」
今度は反対側から、リズちゃんが僕の手を握った。
「…………」
両手が塞がった。
「お子ちゃまだなぁ……」
ニカ君が呆れたように言う。
「ニカも七歳の頃は――」
「サーヤ! それ以上言うな!」
「はいはい」
こうして僕は、両手を小さな姉弟に捕まれたまま商店へ向かうことになった。
五分ほど歩くと、道の先に目的の店が見えてくる。
「あった!」
ニカ君の目が輝いた。
「パチパチ飴ー!」
「あっ、ニカ!」
駆け出す。
「こら! 走らない!」
サーヤさんの声なんて、もう聞こえていない。
ニカ君はそのまま店の入り口へ飛び込もうとして――。
「うわっ!」
「おっと」
ちょうど店から出てきた男と、正面からぶつかった。
「いっで!」
ニカ君が尻餅をつく。
「あぁ、ごめんよ。大丈夫かい?」
男は抱えていた花を片腕に寄せると、すぐにニカ君へ駆け寄った。
柔らかな茶色の髪。
細身の身体に、穏やかな顔立ち。
眼鏡の奥の目も優しげで、物腰からも荒っぽさはまるで感じない。
抱えているのは、いくつもの花を束ねた大きな花束だった。
「ごめんなさい!」
追いついたサーヤさんが慌てて頭を下げる。
「いやいや、こちらこそ。よそ見をしていてね」
男は気にした様子もなく笑い、ニカ君へ手を差し出した。
「怪我は?」
「なんともねぇし!」
その手を借りて立ち上がると、ニカ君は男を見上げた。
「おっさんは?」
「ニカ!」
「ははは!」
男が楽しそうに笑う。
「おっさんも怪我はないよ」
「ほらな!」
「ほらな、じゃない!」
「本当にごめんなさい……」
「気にしなくていいさ」
男は花束を抱え直す。
「男の子は、このくらい元気な方がいい」
そう言って、僕たちへ軽く会釈した。
「それでは」
「はい。すみませんでした」
男が歩き出す。
「…………」
僕はなんとなく、その背中を目で追った。
向かっている先は――。
(教会……?)
大きな花束を抱えたまま。
男は、僕たちが来た道を歩いていく。
「ユノ兄ちゃん!」
「……はい?」
「早く行こうぜ! パチパチ飴なくなる!」
「いつから僕は兄ちゃんになったんですか?」
「細けぇこと気にすんな!」
「ニカ!」
「はは……」
またサーヤさんに怒られているニカ君を見て、僕は小さく笑った。
そして。
もう一度だけ、男の背中を見る。
けれど――。
その姿は、もう見えなくなっていた。




