ヒルトの休暇
◇ ◇ ◇
(ログん家、久々に行きたかったな)
(さて、とりあえず施設に行こうかな)
軍施設を出て、歩き出そうとして――ふと思い出す。
(あ、その前に)
「フィリア」
「ん?」
少し先を歩いていたフィリアが振り返った。
「明日、空いてる?」
「‼︎」
フィリアの肩がぴくっと跳ねる。
「う、うーん? どうして?」
「この間の約束。たまごサンドに、バーベキューだっけ?」
「……!」
「行こうよ」
フィリアが目を丸くした。
「……二人で?」
「他も誘おうか?」
「! いい! 二人で!」
「え?」
「二人でいいの! バカヒール!」
「えぇ……」
なんで怒られたんだろう。
フィリアは少し頬を膨らませていたが、すぐに何かを思いついたように手を叩いた。
「あ! スパーナのための買い出しもしようよ」
「あぁ、いいね」
「決まり! じゃあ十一時に噴水広場ね!」
「分かった」
「遅刻は許さないよ!」
「フィリアの方が心配だけど」
「…………」
フィリアが真顔になる。
「確かに……」
「ははは」
思わず笑ってしまった。
「じゃあ、また明日ね」
「うん……!」
フィリアが嬉しそうに頷く。
その姿に手を振って、僕は歩き出した。
◇
目的地は、ジーアスの中心部から少し離れた場所にある教会。
僕が幼い頃に育った養護施設は、その教会に併設されている。
そして――。
亡くなった父さんと母さんも、そこに眠っている。
「…………」
教会方面へ向かう馬車の停留所まで来ると、僕は足を止めた。
次の馬車までは、もう少しか。
「……ヒルトさん?」
「ん?」
聞き覚えのある声に振り返る。
「ユノ君?」
そこにいたのはユノ君だった。
「ヒルトさんも、教会に?」
「ユノ君も?」
「はい」
いつもの笑顔で答えたユノ君だったけど。
少しだけ間を置いて。
「……部隊のみんなが、そこに眠っているので」
「…………」
そうだった。
バルガス隊。
ルミナスへ向かうよりも前。
ヴォルグで――。
(……野暮だったかな)
「……ごめん」
「いえ! 謝ることでは……」
ユノ君が慌てて首を振る。
それから少し迷うように僕を見る。
「ヒルトさんは……聞いてもいいですか?」
「あぁ」
「どうして教会に?」
「僕?」
少し考えてから、教会のある方角へ目を向けた。
「僕は、あそこの施設で育ったんだ」
「……そうだったんですね」
「うん。父さんと母さんも、あそこに眠ってる」
「…………」
ユノ君が目を伏せる。
「……すみません」
「ははは」
思わず笑ってしまった。
「謝ることじゃないって」
「……そうですね」
「あ、来たよ」
ちょうど道の向こうから、馬車が近づいてくる。
僕たちは並んで乗り込み、空いていた席へ腰を下ろした。
「…………」
「…………」
馬車がゆっくりと走り出す。
「……スパーナ、楽しみですね」
ユノ君がぽつりと言った。
「そうだね」
「…………」
「…………」
車輪の音が響く。
ガタゴト。
ガタゴト。
「…………」
「…………」
(……気まずい)
お互い、教会へ向かう理由を聞いた直後だ。
何を話せばいいんだろう。
ちらりと隣を見る。
すると。
ユノ君も、ちょうどこちらを見ていた。
「…………」
「…………」
目が合った。
二人揃って、そっと前を向く。
(……やっぱり気まずい)




