二つの報告
「全員揃ったな」
軍施設の一室。
アーヴェル隊長が、集まった私たちを順番に見渡した。
アルトくん。ログ。フィリア。ヒルト。
そして――。
「…………」
私は隣に立つ人物へ目を向けた。
いつもの柔らかな笑みを浮かべている、ユノくん。
「……ユノくん?」
「はい?」
「どうしてここにいるんですか?」
「さぁ?」
「え?」
「僕も呼ばれただけなので、分からないんですよ」
ユノくん自身も知らないらしい。
「俺も気になってた」
アルトくんがこちらへ顔を寄せる。
「ユノってバルガス隊だよな?」
「そうですよ」
「だよな?」
「はい」
「じゃあ、なんでいるんだ?」
「ですから、私にも分かりません」
「そっか」
「静かにしろ」
アーヴェル隊長の声に、私たちは揃って口を閉じた。
「今日集めたのは、二つ報告があるからだ」
二つ?
アーヴェル隊長は、まずユノくんへ視線を向けた。
「一つ。フェルメルは、しばらくの間、我が隊に所属することになった」
「…………」
「え?」
アルトくんが目を丸くした。
私も思わずユノくんを見る。
けれど、当の本人はいつも通り笑っている。
「ユノくん、知ってたんですか?」
「いえ、全然」
「知らなかったんですか⁉︎」
「僕も今知りました」
「本人にも言ってないの⁉︎」
アルトくんがアーヴェル隊長を見る。
「理由については後日説明する」
「え、気になるんですけど」
「後日説明すると言った」
「……はい」
アルトくんが渋々引き下がる。
けれど、私も気になる。
どうしてバルガス隊のユノくんが、しばらく私たちの隊に?
「そして二つ目」
アーヴェル隊長が一枚の書類を手に取った。
「今回のルミナス派遣任務を受け、王より命が出た」
その言葉に、全員の表情が引き締まる。
また新しい任務。
そう思った。
けれど――。
「ルミナス派遣に参加した者へ、十日間の休暇を与えるとのことだ」
「…………」
一瞬。
誰も反応しなかった。
「……休暇?」
アルトくんが呟く。
「ああ」
「十日?」
「そうだ」
「十日も⁉︎」
「うるさい」
「だって十日ですよ⁉︎ 十日あったら、どっか行けるじゃん!」
「アルトくん」
「あ」
私が名前を呼ぶと、アルトくんが固まった。
「……行けますね!」
「そこじゃありません」
ログが小さく吹き出した。
「相変わらずだな、お前」
「でも十日だぞ?」
「分かってるよ」
ヒルトも少し笑う。
「いいな。ゆっくり休んできなよ」
「……ヒルトは?」
「僕?」
アルトくんに聞かれ、ヒルトが少し首を傾げる。
「僕はルミナスに行ってないからね。普通に仕事だと思うよ」
「えぇ……」
「なんでアルトが残念そうなんだよ」
「だって一人だけ仕事じゃん」
「仕方ないだろ」
「いや」
アーヴェル隊長が二人の会話を遮った。
「エルナー。お前も休め」
「……僕もですか?」
「ああ」
「でも、今回の休暇はルミナスに行った人たちへのものですよね?」
「そうだ」
「だったら僕は――」
「前回の件だ」
「…………」
ヒルトの表情が僅かに変わった。
「……兄さんのことですか?」
「ああ」
アーヴェル隊長が静かに頷く。
「お前には、話しておくべき相手もいるだろう」
「…………」
「今回の休暇とは別だ。私から上に話は通してある」
ヒルトは少しの間、黙っていた。
やがて。
「……分かりました」
静かに頷く。
「それと、身体も休めろ」
「…………」
ヒルトが一瞬、きょとんとした。
それから少しだけ笑う。
「……隊長がそれ言います?」
「何が言いたい」
「いえ、別に」
「エルナー」
「分かってますって」
そのやり取りに、フィリアが口元を緩める。
けれど。
私には、二人が何の話をしているのか分からなかった。
兄さん。
ヒルトのお兄さんのことだろうか。
「以上だ。休暇は明日から十日間。各自、身体を休めろ。特に――」
アーヴェル隊長の視線が動く。
そして、アルトくんで止まった。
「お前だ、アルト」
「俺⁉︎」
「リハビリを怠るな」
「分かってますよ!」
「遊びに夢中になって忘れるな」
「子供じゃないんだから!」
「お前だから言っている」
「なんで⁉︎」
部屋に笑い声が広がった。
私も笑いながら、ふと考える。
十日間。
こんなに長い休暇をもらったのは、いつ以来だろう。
久しぶりに実家へ帰るのもいいかもしれない。
それから――。
「…………」
寮の机に置いてきた、一通の手紙。
『もし都合が合うようであれば、レテ殿にも是非来ていただきたい』
スパーナの王国祭。
「……十日、ですか」
これだけ時間があるのなら。
もしかしたら――。
本当に行けるかもしれない。




