間話 古巣
間話
「…………隊長」
低い声が、静かな部屋に落ちた。
声の主は、壁際に立つ大男だった。
灰と黒を基調とした軍服。その上から胸や肩を覆う無骨な装甲を身につけ、背には身の丈ほどもある巨大な剣を背負っている。
呼ばれた男が、小さな眼鏡の奥から赤い瞳を向けた。
褐色の肌に、左右へ流した白髪。
黒い軍服の襟や装甲の縁には、深い赤が走っている。
「なんですの?」
「…………」
「…………」
返事はない。
大男はただ、じっと隊長を見ている。
「いや喋れや!」
思わず男が声を張り上げた。
「呼んどいて黙るってなんやねん!」
「……チッ」
今度は別の場所から、小さな舌打ち。
椅子に深く腰掛けていた、異様に背の高い男だった。
少し猫背で、濃紺の軍服に身を包んでいる。
その傍らには、細身の長槍。
男は不機嫌そうな顔で、隊長を睨んでいた。
「はいはい! 分かってますよぉ!」
隊長は面倒そうに白髪を掻く。
「アルトのボケのことやろ?」
その名前が出た途端。
部屋の空気が、ほんの僅かに変わった。
「……はぁ」
隊長が深く息を吐く。
「あのボケ……約束破りおって……」
「ほんとにやるんすか?」
今度は、橙色の差し色が入った軍服の男が口を開いた。
日に焼けた肌。
白髪の混じった短髪に、太い眉。
鍛えられた腕を組みながら、困ったように顔をしかめている。
「俺っち、気が進まねぇなぁ!」
「まぁ……そりゃそうやけど……」
隊長も珍しく歯切れが悪い。
眼鏡を指で押し上げ、しばらく考え込む。
「仕方ないっすわぁ」
「だから、さっさと始末すりゃ良かったんだよ‼︎」
乱暴な声が割って入った。
紫の差し色が入った軍服。
他の者より少し派手な装飾を身につけた男が、偉そうに腕を組んでいる。
「こうなることくらい、俺は最初っから分かってたんだ!」
「……黙れ、雑魚」
「あぁ⁉︎」
紫の男が勢いよく振り向いた。
「何言ってっか聞こえねぇよ!」
「…………」
長身の男は答えない。
「おい! こっち見ろ!」
「……うるせぇ」
「聞こえてんじゃねぇか!」
「はいはい……そこまで〜!」
隊長が二人の間へ割って入る。
「ったく、うるさいおっさんらやで、ほんま……」
「誰がおっさんだ!」
「全員やろ」
「てめぇもだろうが!」
「俺はまだ若いやろ!」
「どの口が言ってんだ!」
「…………」
灰色の大男だけが、相変わらず無言で立っている。
「……で」
隊長の声が、僅かに低くなった。
騒いでいた男たちも口を閉じる。
「エルネさんには、もう行ってもらってるから」
「…………」
再び、部屋に沈黙が落ちた。
誰もが。
それぞれ違う表情で、一人の少年を思い浮かべていた。
その時だった。
「ナッハハハハ!」
沈黙をぶち壊すような豪快な笑い声が響いた。
声の主は、部屋の奥。
椅子に座っていたスキンヘッドの男だった。
丸い鼻。
鼻の下には髭を蓄え、青の差し色が入った古びた軍服を身につけている。
「ナッハハハハ! いやぁ、懐かしいのぉ!」
男は腹を抱えて笑う。
「アルトの奴、元気にしとるかのぉ!」
「…………」
隊長のこめかみに青筋が浮かぶ。
灰色の大男が無言で男を見る。
長身の男が盛大に舌打ちする。
橙の男が額を押さえる。
紫の男まで呆れた顔を向けた。
そして。
「あんたのせいだろ‼︎」
全員の声が、綺麗に重なった。
「ナッハハハハ!」




