復興
「お、おう。ログ」
ナーラが、大量の荷物を抱えたログへ歩み寄る。
「荷物、手伝おうか?」
「いや! 意外と重いんで大丈夫っすよ!」
「…………」
ナーラの動きが止まった。
(重いって……)
普段のナーラなら、そんな言葉を聞けば「舐めんな」と奪い取ってでも運んでいただろう。
重い物を運ぶことなど、どうということもない。
だが。
(わ、私を女として気遣って……)
ログの前では話が違った。
「そ、そうか!」
「はい!」
嬉しそうに頷くナーラ。
普段なら重たい物など率先して運ぶ彼女も。
ログの前では――少しくらい、乙女でありたかった。
「…………」
ナーラはログの隣を歩きながら、ちらりと横顔を窺う。
「なぁ、ログ」
「はい?」
「次はいつ来てくれるんだ?」
「あー……どうでしょうね?」
ログが困ったように笑った。
「同盟国といえど、そんな簡単に――」
「ログ」
少し離れた場所から、バルガスが呼ぶ。
「はい?」
「スカー王が復興にお前の力を借りたいそうだ。改めて日取りを決めて、ルミナスに来てもらうぞ」
「もちろんです!」
ログは迷うことなく答えた。
そしてナーラを見る。
「ナーラ様。そういうことなので、しばらくは頻繁に来るかもです」
「…………」
ナーラの目が見開かれる。
ゆっくりと。
父親の方を見る。
「…………」
スカーは何も言わない。
ただ。
「……にやっ」
「⁉︎」
その口元が、露骨に吊り上がった。
(馬鹿親父‼︎)
ナーラの顔が一気に熱くなる。
復興にログの力を借りたい。
能力的にも適任。
それは間違いない。
間違いないのだが――。
(……でも、ありがとう……‼︎)
ナーラは勢いよくログへ向き直った。
「た、頼むぞ! ログ!」
「はい!」
「さてと」
バルガスが一行を見渡す。
「帰るか」
準備を終えた者たちが、次々と馬車へ乗り込んでいく。
そんな中。
「……ガオン。セヴェル」
スカーが不意に口を開いた。
「いつまで隠れている」
「…………」
馬車の陰から。
気まずそうな顔をしたガオンが姿を現した。
「……ばれてましたか」
その後ろから、セヴェルも姿を見せる。
「流石ですね」
「世辞はいい」
スカーは鼻を鳴らすと、ガオンを見る。
「ガオン。お前も行け」
「……なりません」
ガオンは即座に答えた。
「今のルミナスを置いて、俺だけガイストへ戻るわけにはいきません」
「お前の分はラバタに働かせる」
「え?」
「それに」
スカーは復興の始まった街へ目を向ける。
「お前がここに残るより、ガイストで学んだ方がルミナスのためになる」
「…………」
「今のお前にできることは、瓦礫を運ぶことだけではない」
ガオンはしばらく父の横顔を見つめた。
やがて。
「……分かりました」
静かに頭を下げる。
「父上。ありがとうございます」
「うむ」
それだけ答えると、スカーはもうガオンを見なかった。
「バルガス殿」
今度はセヴェルが声をかける。
「あぁ……セヴェル殿」
「これを」
差し出されたのは、一冊の手記だった。
バルガスが受け取り、表紙を見る。
「これは……」
すぐに何なのか気づいた。
「お父上の形見では?」
「写しはあります」
セヴェルは手記へ視線を落とす。
「ですので、バルガス殿が持っていてください」
「俺が……?」
「父が何を考え、何をしようとしていたのか。その記録です」
バルガスは少し迷った後、スカーを見る。
「…………」
「構わん」
スカーが短く答えた。
「……分かりました」
バルガスは手記を大切そうに持ち直す。
「それでは、預からせていただきます」
「お願いします」
セヴェルが頭を下げる。
そして。
「アルト君」
「……はい」
松葉杖をついたアルトが振り返った。
セヴェルはアルトの前まで歩いていく。
「遅くなりましたが……兄に代わって、君を傷つけたことを謝らせてください」
「そんな……」
アルトが戸惑う。
「俺、別にセヴェルさんに謝ってもらうような――」
「それでも、です」
穏やかに遮られ、アルトは口を閉じた。
「…………」
「兄は最後に、君と出会えてよかったと思います」
「俺と……?」
「はい」
セヴェルは微かに笑う。
「君と出会わなければ、兄は最後まで気づけなかったかもしれません」
復讐のために。
十五年もの間、歩き続けた男。
その奥にずっと残っていたもの。
「自分が本当は、ルミナスで医者になりたかったということに」
「…………」
「人を傷つけるためではなく、人を救うために自分の力を使いたかった。その気持ちに気づけないまま……兄は、もっと多くの人を傷つけていたはずです」
アルトは何も言えなかった。
最後に見たセブランの姿を思い出す。
崩れ落ちる瓦礫の中。
自分ではなく。
セヴェルを守った、あの背中。
「アルト君」
セヴェルが深く頭を下げた。
「兄を救ってくれて、ありがとう」
「…………」
救った。
その言葉が。
アルトの胸の奥へ、静かに落ちていった。




