復興へ
三日後。
ルミナス王宮の前には、ガイストへ帰還する一行を乗せるための馬車が並んでいた。
クーデターの傷跡は、まだ街の至るところに残っている。
崩れた建物。
積み上げられた瓦礫。
行き交う人々。
けれど三日前とは違い、街には復興へ向けた活気が戻り始めていた。
スカーの計らいにより、バルガスたちはこの三日間、治療と休養に専念していた。
「もっとゆっくりしていってもいいのだぞ」
見送りに出たスカーが腕を組む。
「いやいや、充分休ませていただきました」
バルガスが答えると、その隣でパイルも頷いた。
「復興や、その他にも色々とあると思いますので。これ以上お世話になるわけにもいきません」
「うーむ……そうか」
スカーは少し残念そうに唸る。
だが、すぐにバルガスへ視線を戻した。
「バルガス」
「はい?」
「カイゼルにも俺から話しておくが、復興に際してガイストにも手を借りたい」
「えぇ。私からもカイゼル王に伝えておきます」
「それと――」
スカーの視線が、何かを探すように動いた。
「特に、ログ。彼の力を借りたい」
「ログですか」
バルガスは少し考える。
「まぁ、能力的にも適任ですかね。承知しました。本人にも伝えておきます」
「うむ。頼んだ」
「…………」
そこで。
何故かスカーの口元が、にやりと歪んだ。
「……?」
バルガスが怪訝そうに眉を寄せる。
だがスカーは何も言わない。
復興にログの力が必要。
それ自体は、何もおかしな話ではない。
「引き続き、ウチからも何人か出すと思いますよ」
横からロイドが口を挟んだ。
そして、少し離れた場所で瓦礫を運んでいる二人へ声を張る。
「リーン! ルーモン! しっかり働けよ!」
「もう働いてるっす!」
即座にルーモンが振り返った。
「隊長も働いてください!」
リーンも負けじと声を上げる。
「馬鹿野郎。俺は怪我人だ」
「ロイド隊長」
近くにいたユノが、にこりと笑った。
「もう、ほとんど治ってますよね?」
「…………」
「「嘘つき!」」
「うるせぇ!」
ロイドの怒鳴り声に笑いが起こる。
その時だった。
「どけどけどけぇー!」
遠くから、とんでもなく大きな声が響いた。
「はっはは! 復興作業ってのも悪くねぇなぁ!」
巨大な瓦礫を担いだリアスが、物凄い勢いで駆け抜けていく。
瓦礫を運んでは戻り。
また担いでは走る。
罰として復興作業を命じられているはずなのだが。
どう見ても楽しんでいた。
「…………」
ナーラがその姿を眺める。
「ありゃ反省してねぇだろ……」
そして隣を見る。
「なぁ、リシェル」
「…………」
「リシェル?」
「…………」
「はぁ……おい」
返事がない。
ナーラは呆れたように手を伸ばした。
そのままリシェルの顎から頬を包むように掴み、ぐいっと自分の方へ向かせる。
「聞いてんのか?」
「⁉︎」
突然、目の前いっぱいにナーラの顔が映る。
「ニャ、ニャーリャしゃま!」
「……なんだ、その喋り方」
リシェルの顔が一瞬で真っ赤になった。
だがナーラは気にする様子もなく、そのまま顔を近づける。
「お前の仕事は復興の補助だろうが」
「ふぁ、ふぁい!」
「一族共々、罰がなかったんだ。だったらその分、気合い入れて働け!」
「わ、分かりまひた! ちょ、ちょっと! 顔が近いでふぅぅぅ!」
「?」
ナーラが首を傾げる。
「変な奴だなお前は」
ようやく手を離すと、何事もなかったかのように歩いていった。
「はぁ……はぁ……」
解放されたリシェルは胸元を押さえ、必死に呼吸を整える。
(顔、綺麗すぎ……)
遠ざかっていくナーラの背中を見つめる。
(かっこいい……やばい……)
「みなさーん!」
そこへフィリアの声が響いた。
「こっちは馬車の準備できましたー!」
「おう!」
バルガスが片手を上げる。
周囲を見渡して。
「あとはアルトたちだけか」
「お待たせしました!」
ちょうど王宮からログが姿を現した。
両腕には大量の荷物。
自分の分だけではない。
明らかに三人分は抱えている。
「……なんでお前、そんなに持ってんだ?」
バルガスが尋ねる。
「色々ありまして……」
ログが疲れた顔で後ろを見る。
「アルトくん……やっぱり車椅子の方が」
「大丈夫大丈夫!」
レテの心配そうな声。
その横では、松葉杖をついたアルトがゆっくりと歩いていた。
「もう歩けるって!」
「でも、まだ三日しか経ってないんですよ?」
「先生も少しならいいって言ってたし!」
「少しなら、ですよ?」
「分かってるって。ほら、全然――」
松葉杖を前へ出す。
その瞬間。
ぐらり。
「うわっ!」
「危ない!」
レテが咄嗟に身体を寄せる。
倒れかけたアルトを、しっかりと抱えるように支えた。
「…………」
「…………」
「……ほら」
「いや、今のはちょっとバランス崩しただけだから」
「車椅子に戻りますか?」
「大丈夫だって!」
アルトは体勢を戻しながら、ふとレテを見る。
「でもレテって、力持ちだよな!」
「…………」
レテの眉がぴくりと動いた。
「……どういう意味ですか?」
「え?」
ぱんっ!
「痛い!」
アルトの背中に平手が飛んだ。
「なんで⁉︎」
「……ふん」
レテは顔を背け、そのまま先に歩いていく。
「え? なんで怒ったんだよ⁉︎」
「知りません!」
「レテ⁉︎」
三日ぶりに自分の足で歩くアルトの声が、王宮前に響き渡る。
そんな二人を見ながら。
ログは三人分の荷物を抱えたまま、深いため息を吐いた。
「……俺、まだ怪我人なんだけどな」
ルミナスを発つ時が、近づいていた。




